【3-2】副団長の案内
朝食の後、セオドアが城塞の中を案内してくれた。
「こちらが訓練場です。騎士たちは毎日ここで鍛錬しています」
広い訓練場では、すでに何人かの騎士が剣を振っていた。剣がぶつかり合う金属音が響く。
「あちらが宿舎。男性用と女性用がありますが、女性騎士は少ないので、リーネさんには個室を用意しました」
「そ、そんな……私なんかに個室だなんて……」
「当然ですよ。調香師は大事な人材ですから」
セオドアはさらりと言った。
大事な人材——
その言葉が、胸に沁みた。
「こちらは医療棟。怪我人や病人はここで治療します。軍医のフィンが責任者です」
「医療棟……」
調香師として、医療との連携は重要だ。後で挨拶に行かなければ。
「そして——」
セオドアは、一つの建物の前で立ち止まった。
「ここが、リーネさんの調香工房です」
昨夜、団長に案内された建物だ。明るい日差しの中で見ると、また印象が違う。
石造りの壁。大きな窓。煙突からは、かすかに煙が上がっている——誰かが、中で火を使っているのだろうか?
「中に入ってみましょう」
扉を開けると——
私は息を呑んだ。
明るい光の中で見る工房は、想像以上に素晴らしかった。
天井まで届く棚には、乾燥させた薬草がぎっしりと並んでいる。調合台は清潔に磨かれ、魔法陣が美しく刻まれている。窓際には、様々な形の蒸留器具。奥には、素材を保管するための冷暗所。
「すごい......」
思わず、声が漏れた。
「王都の工房にも負けない設備です……」
「そうですか? よかった」
セオドアがほっとしたように微笑んだ。
「実は、リーネさんが来る前に、少し整備したんです。足りないものがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
整備した?
誰が?
まさか——
「……セオドアさんが、準備してくださったんですか?」
「ああ、いえ、俺は手伝っただけで……」
セオドアは少し困ったように笑った。
「主に準備をしたのは、うちの文官長です。『調香師を迎えるなら、これくらいは必要だ』って」
文官長?
誰だろう。でも、見ず知らずの私のために、ここまで準備してくれた人がいる。
「……ありがとうございます。本当に」
私は深々と頭を下げた。
「こんなに立派な工房、使いこなせるかわかりませんけど……精一杯頑張ります」
「リーネさんなら、きっと大丈夫ですよ」
セオドアの声は、どこまでも温かかった。
「兄上が認めたんです。兄上は、使えない人間を雇ったりしませんから」
兄上——ヴァルター団長。
あの無愛想な人が、私を「使える」と言ってくれた。
それが、どれだけ嬉しかったか——
「さて、工房の隣がリーネさんの私室です。工房と繋がっているので、仕事がしやすいと思いますよ」
セオドアが、奥の扉を指さした。
「何か困ったことがあったら、いつでも俺に言ってください。力になりますから」
そう言って、彼はまた笑った。
太陽のような笑顔。
私は——少しだけ、この場所に馴染めるような気がしてきた。




