【2-3】城塞の門
城塞の門は、想像以上に巨大だった。
見上げるような高さ。重厚な鉄の扉。左右には篝火が燃え、門番と思しき騎士たちが立っている。
ヴァルターが馬の速度を落とすと、門番の一人がこちらに気づいた。
「誰だ——あ、団長!」
慌てて姿勢を正す門番たち。
「お帰りなさいませ!」
「ああ」
ヴァルターは短く答えて、馬を門の前で止めた。
「門を開けろ」
「はっ! ......あの、団長、そちらの女性は......?」
門番の視線が、私に向けられた。
当然の疑問だろう。見知らぬ女を、団長が馬に乗せて連れてきたのだから。
「俺が拾った。調香師だ」
たったそれだけ。
説明は、それ以上ない。
でも——それで十分だったらしい。
「はっ、承知しました! 門を開けろ!」
門番の号令と共に、重い門がゆっくりと開いていく。
私は——目を見張った。
たった一言で、これだけの権威を示せる人がいるなんて。
「俺が拾った」——その言葉だけで、誰も何も問わない。
これが、黒獅子騎士団の団長。ローゼンハイン辺境伯の嫡男。
——私を雇うと言ってくれた人。
◇◇◇
門をくぐると、城塞の中が見えてきた。
広い。そして、活気がある。
夜だというのに、あちこちに灯りが灯り、騎士たちが行き来している。遠くからは、剣がぶつかり合う音も聞こえる——夜間訓練をしているのだろうか。
「団長、お帰りなさい!」
「おう、団長だ!」
「お疲れ様です!」
すれ違う騎士たちが、次々とヴァルターに声をかけていく。
全員が、敬意を込めた声で。
でも——どこか、親しみも感じられる。
上に立つ者への敬意と、仲間への信頼。その両方が、ここにはある。
王都の宮廷とは——全然違う。
「......あれは誰だ?」
「団長が女を連れてきたぞ」
「調香師だってよ」
ひそひそ話も聞こえてくる。
好奇の視線。でも——王都で感じたような、悪意のある視線はなかった。
ただ純粋に、「新しい仲間」への興味。
そう感じられた。
◇◇◇
ヴァルターは、城塞の中央にある建物の前で馬を止めた。
本館——だろうか。他の建物より、一回り大きい。
「降りるぞ」
ヴァルターが先に馬を降り、私に手を差し出した。
「あ、はい......」
その手を取り、馬から降りようとして——足首に痛みが走った。
「っ......!」
バランスを崩し、倒れ込みそうになる。
その身体を——ヴァルターが支えた。
「......足を捻ったと言っていたな」
「す、すみません......」
「謝るな。——肩を貸す」
ヴァルターは私の腕を自分の肩に回し、ゆっくりと歩き始めた。
背の高い彼に合わせて歩くのは大変だったが、彼は——私の歩調に合わせてくれていた。
「ノクス、厩舎に戻れ」
馬は鼻を鳴らして、どこかへ去っていった。本当に賢い馬だ。
「......ありがとうございます」
小さく呟くと、ヴァルターは答えなかった。
ただ、私が転ばないように、しっかりと支えてくれていた。




