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【改訂版】美良乃のモンスター交流日記 ~墓石の下には人外が集まるバーがありました~  作者: 柏井猫好
本編

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52. 11月12日【4】あんたは素敵!

 何だか面映ゆくなって頬を掻いていると、アリアは美良乃の両肩をがっしりと掴み、グッと顔を近づけて瞳を覗き込んできた。


「いいこと? あたしはあんたのことが大好きなの。あんたと友達になれてすごくラッキーだと思うし、おばあちゃんになってもあんたと仲良くしていたいって本気で思ってるわ」


「アリア……。わたしも、アリアが大好きだよ」


「あんたにはあんたの良さがあるって言っても、多分あんたはピンとこないんでしょうね」


「ルイも言ってくれたけど、正直あんまりピンとこない……」


 アリアは美良乃の肩を掴んでいた右手を離し、指を一本立てた。


「あたしが凄いなと思うのは、あんたは他人のことになると比較的柔軟に受け入れることができるところよ」


「柔軟? わたし、自分ではかなり頑固で拘りが強いと思うんだけど」


「例えばだけれど、この辺りは川が遠いせいもあって水が貴重だった地域だし、水にミネラルが豊富に含まれてて髪を痛めるから、頭を洗うのは数日に一回でしょ? お年寄りの中には身体を洗うこと自体も数日おきだって人がいるくらいだもの」


 現にクローイーやチャドが三日に一回しかシャワーを浴びない人たちなので、美良乃はすんなり頷いた。


「前にあんたが言っていたじゃない。日本人はものすごく清潔さを気にするから、殆どの人が毎日シャワーを浴びて髪も洗うって」


「言ったね」


 美良乃も典型的な日本人のひとりで、毎日身体と頭を洗っていないと体臭や頭皮のべたつきが気になる。そのため、祖父母の家でも毎晩シャワーを浴びる習慣を続けていた。


「潔癖な人にとって、数日おきにしかシャワーを浴びない人なんて受け入れがたいんでしょうけど、あんたは特に拒否反応を示すでもなく、そういうものなんだって受け入れているじゃない」


「えっ。だって、そういう文化なんだって思えば、異文化から来たわたしがとやかく言うのは筋違いじゃない」


「そういう発想ができるのが凄いと思うのよ。入浴習慣のことだけじゃなくて、あんたは女性的なダニエルのこともスルッと受け入れているでしょう?」


「最初はちょっと驚いたけど、それがダニエルなんでしょう? 彼が自分の性別をどう思っていようとも、特にわたしが口を出すことじゃないよ。迷惑するわけでもあるまいし」


「キリスト教の影響が強いここでは、性的マイノリティーって結構倦厭されるものなのよ。モンスターのことも、もっと拒絶するんじゃないかって構えていたけど、あんたは比較的すんなりあたしたちがいる環境に馴染んでくれたじゃない」


「モンスターのことは現実逃避したくなるくらい衝撃を受けたよ! でもアリアたちは人間に擬態してシレっと社会に溶け込んで生活しているし、それが現実でしょ?」


 殆どのモンスターは人間に対しても友好的だし、彼らが実在するという現実に抗う理由がない。スーパーヒーローのような特殊能力があるわけでも、国家権力を掌握しているわけでもない一般人の美良乃には、「そういうものなんですね」と呑み込むことしかできないのだ。


 それに、美良乃は小さい頃から世界の異なる文化や風習について学ぶことが好きだった。もしかすると、自分が日本とアメリカという二つのルーツを持っているからかもしれないが、とにかく南アジアや地中海沿岸諸国の料理が好きなのも、昔読んだ本やマンガで出てきて興味を持ち、好奇心にまかせてチャレンジしてみたからだ。


 性的マイノリティーにしても、美良乃が想像もできないような視点で物事や世の中を捉えていることが興味深く、よく知らないという点においては外国文化と共通するものがあると思う。どちらも美良乃にとっては新しい世界に通じる扉のような存在なため、これまで忌避感を抱いたことはなかった。


 同じ種族である人間でもそうなのだから、全く別の生き物であるモンスターは、当然常識も習慣も異なる。究極の異文化に暮らしている彼らをそばで観察できるのはとても楽しく、避けよう、拒絶しようという発想すら湧かない。


「その柔軟さと寛大さは美徳よ。だからこそ、自分のことになると途端に狭量で意固地になるあんたがもどかしくて仕方ないわ。あんたはもっと自分を誇っていいのよ、美良乃」


「アリア……」


 アリアの言葉は暖かな風となって、凍えていた美良乃の心に優しく吹き込んでくる。


「ルイ様とのことを考えるのは、自分とちゃんと向き直ってからでいい。どうせカサンドラのせいでしばらく会えないんだし、ね?」


 美良乃はしっかりと頷いた。


 アリアの言う通りだ。ルイが他の女性を選んでしまうのではないかと疑心暗鬼になるのは、自分に自信がないせいだ。自己肯定感の低さはルイのせいではないし、彼に解決できることでもないのに、心変わりをするかもしれないなど彼に責任を押し付ける形で逃げるのは卑怯だ。

 いくらアリアやルイが言葉を尽くして励ましてくれたとしても、美良乃自身が納得していなくては本当の意味で心に響かない。自分を変えられるのは自分しかいないのだ。


 目の前に明るい一本の道ができたようで、美良乃の心が少し軽くなった。


「うん。自分の問題と向き合うのは不安だし、ちょっと怖いけれど、わたし自分に負けたくない。……相談に乗ってくれてありがとう、アリア」


「話ならいつでも聞くわよ。……さて」


 アリアは気を取り直すように胸の前で両手をパチンと合わせると、女神を模した藁人形を手に取った。

 

「この話はこれくらいにして、守護の女神を埋めに行きましょうか。夕方からバイトでしょ?」


 それから二人は庭に出て、寒さで硬くなった土をせっせと掘り返し、自宅の敷地に吸血鬼避けの結界を張ったのだった。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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