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【改訂版】美良乃のモンスター交流日記 ~墓石の下には人外が集まるバーがありました~  作者: 柏井猫好
本編

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5. 8月26日 「普通」じゃないわたしと「普通」な家族

※人の容姿を揶揄する表現が出てきて気分を害する可能性がありますので、ご注意ください。

「時差ボケはもう治ったの? おばあちゃんたちは元気にしている?」


 美良乃はタブレットの画面に映る母に向かって手を振った。アメリカに到着してからもメッセージのやり取りはしているが、ビデオ通話をしたのは今日が初めてだ。

 画面には美良乃の二歳年上の姉も映っていた。母と姉は東京で同居している。


「もう大丈夫。おばあちゃんたちも元気だよ」


 美良乃はこちらへ来てからのことをぽつぽつと話しだした。


「そういえば、この前カフェで変な人に絡まれちゃって」


 カフェで話しかけてきたルイは美良乃の中で強烈な印象を残していた。当分あのカフェには近寄らない方がいいだろう。いい雰囲気の店だったのに、残念だ。


「変な人?」


 姉が膝の上に乗せた愛猫のきなこを撫でながら訝し気に片眉を上げる。

 きなこは美良乃が近所で拾ってきた茶トラの雄だ。仔猫の時はガリガリだったのだが、猫好きのクリステンセン家で大層甘やかされ、たっぷりとご飯を与えられてすっかりわがままボディになってしまった。


「そう、変な人。すごく綺麗な顔しているんだけど、何て言うか、言動がすごく芝居がかってて」


「ふーん。田舎って偏屈なじいさんとかが多いイメージだけど、若いイケメンなんているんだ? それにしてもあんたって、昔から変人に興味を持たれるよね。いかれてる者同士波長が合うんじゃない? 類は友を呼ぶっていうし」


 美良乃はムッとして眉を寄せた。姉はそんな美良乃の反応にもお構いなしに続ける。


「それで? あんた結局アメリカに何しに行ったんだっけ? 急に引っ越したいとか我儘言い出して、おばあちゃんたちに迷惑かけてさ」


 姉の冷ややかな口調に気圧されながらも、美良乃はもごもごと言い訳めいた言葉を並べる。


「ちょっとこっちで暮らしてみたいな、と思ったから。アメリカと日本の二重国籍でいられる期間も残り少ないし」


「何でよりにもよって、ニッカ―みたいなクソ田舎を選んだの? おばあちゃんがいるからって理由以外に、何もいいところなんてないでしょうよ。本当、よくあんな所で暮らそうと思えるよね。まあ、根暗なあんたには人が少ない方がいいのかもしれないけど」


 詰問するような姉の口調に、美良乃は口を引き結んだ。彼女を納得させるような理由がないと、キツイ言葉で叱責される。緊張で喉の奥に氷が詰まったような感じがした。


 本来であれば成人している美良乃が何をしようが勝手で、姉を納得させる必要などないはずだ。しかし、美良乃のやることなすこと全てを批評しないと気が済まないのが、この姉の厄介なところだった。


「――っ、だ、大学にも通ってみたいし。ニッカ―の大学なら都会に比べて学費も安いでしょ?」


「フン。田舎の大学出たからっていいところに就職できるわけでもないのに、時間の無駄。まあ私には関係ないけど」


 関係ないとわかっているなら最初から口出ししなければいいのに。

 小さく息を吐くと、母が姉に同調するように頷いた。


「まあ四年制大学出たって実績にはなるけどねえ。就職するなら日本に帰ってきてからすればいいわよ。どうせこっちなら大学名だけ聞いてもド田舎の小さい大学だってわからないんだから。それより、わたしは学費出さないから、自分で奨学金もらうなりバイトで稼ぐなりしてね。成人まで養育したんだから、これ以上わたしが金銭的な面倒みる義務はないから」


「わかってるよ。最初からお母さんに頼ろうとか思ってないから」


 母は「そうしてちょうだい」と突き放したように呟いた。ひと口コーヒーを啜って、思い出したように付け加える。


「それと、あなた人間関係でトラブル起こしやすいんだから、おばあちゃんたちに迷惑かけないようにね! まったく、小中高とわたしがどれだけあなたのことで学校に呼び出されたか! お姉ちゃんは友達がたくさんいるし周りと軋轢なんてないのに、どうして美良乃だけこんな風に育っちゃったのかしらねえ」


 苦いものが胸に広がっていく。これだから、この二人とは話したくないのだ。


 母と姉は美良乃を不愉快な気分にさせる天才で、美良乃は幼い頃からこの二人が苦手だった。母も姉も外面はいいが、家族に対しては毒舌というか、こちらの気持ちに配慮することなくズケズケと言いたいことを言う。


 人は誰しも長所と短所があるというから、二人にももちろんいいところはあるのだと思う。盛大に文句をたれながらも家族の面倒をみるし、根が真面目なので世の中のルールからは決して逸脱しない。悲しいことに、現時点ではそれくらいしか思いつかないが。


 美良乃は「とにかく」と強引に話を元に戻した。


「今学期は無理だから、次の学期が始まるまでは、バイトしてお金を貯めるつもり。介護つきの老人ホームのキッチンの手伝いを募集してるから応募してみたんだ。結果はまだ連絡来てないけど」


 キッチンと聞いて、母が「え~!?」と声を上げた。


「あなたがキッチンって、大丈夫なの? あなた昔からお料理のセンス壊滅的じゃない」


「……ちゃんとレシピがあるから、大丈夫だよ」


「本当に!? 覚えてる? あなた小学校のころ、お蕎麦とたらこ、人参を入れて炒めた激マズ料理作ったの」


 母の言葉に、姉が思い出したように両手を打った。


「あ~! あった!! あれは酷かったよね。いかにも美良乃、発想がヤバいねってママと話したよね。どうやったらあんなもの作れるの!? 人間の食べるものじゃないよね」


「ね~。あの食材を一緒に炒めてみようって思わないでしょ、普通。大雑把っていうか、ちょっと人と感覚が違うっていうか。美良乃らしいわよね」


 二人は憮然と黙り込んだ美良乃を置き去りに、楽しそうに笑っている。


 ――『普通は』、『美良乃らしい』。

 美良乃はヒリヒリと痛みを訴え始めた胸から気を逸らそうと、深い溜息を吐いた。


「とにかく、まだバイトは決まってないから。決まったらまたメッセージ送るから」


「はいはい。それじゃ、くれぐれもおばあちゃんたちにはよろしくね。体調に気を付けて。炭酸飲料ばっかり飲んでるとあっという間に太るわよ」


「アメリカ人はデブばっかりなんだから。陰気でデブな女ってキモい以外のなにものでもないんだからね」


「わかってるから! ……じゃあね」


 最後はほとんど叩きつけるように言い捨て、「終了」ボタンを押した。通話終了を知らせるピロリンという音がして、画面が暗くなる。


「……わたしは、あなたたちとは『違う』って言うんでしょ」


 タブレットを机に置くと、美良乃はベッドにうつ伏せに身を投げた。


 家から離れて数日間、穏やかな生活を送ることで培っていたポジティブなエネルギーが一気に底をついた。母と姉は美良乃の精気でも吸って生きているのではないだろうか。


「家族以外と話す時は気を遣うくせに、何でわたしにだけはどんなことを言ってもいいと思っているんだろう」


 美良乃はどこまでも落ち込んでいきそうな気分を、ぶんぶんと頭を振って切り替えた。


「二人は遠く離れた日本にいるんだから、もう気にするのはやめよう」


 二人からのメッセージには適当にスタンプを返せばいいし、ビデオ通話も忙しいと言って断ればいいだろう。なるべく関わり合いになりたくない。


 ベッドから起き上がると、ふと机の上の紫色のカードに目に入った。

 そばかすの散った快活そうな顔と鮮やかな赤毛が脳裏に甦る。


「……アリアと仲良くなれるといいな」


 誕生日はもう来週に迫っていた。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。



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