41. 11月11日 モンスターショー【1】
モンスターショー。それは、年に一度の人外たちの祭典である。
自分がいかに優れたモンスターであるかをここぞとばかりにアピールできるこのイベントは、優秀な遺伝子を持つ配偶者候補に出逢う絶好のチャンスとあって、婚活の場としても活用されているらしい。
そんな色々な意味で人生の命運がかかっているこの日のため、出場者たちは鍛錬を積んで己の限界に挑み、大会に臨む――はずなのだが。
「……ここが会場?」
ニッカ―から車で十分程西にある農場の真ん中で、美良乃はキョロキョロと辺りを見渡した。駐車場に指定されているその場所にはたくさんの車が駐まっているものの、近くには一軒の家と納屋があるだけで、とても催し物があるようには見えない。
美良乃の記憶が正しければ、ここは九月から十月にかけてパンプキンパッチと呼ばれる、ハロウィン用のカボチャを直接販売する農場のはずだ。既にシーズンが終わってしまっているため畑には何も植えられておらず、ただ茶色い土があるだけ。
「モンスターショーは完全招待制で一見さんお断りだからね。万が一チケットを持っていない者が来てもわからないように、不可視の魔法がかけられているのだよ」
ルイは自然な仕草で美良乃の手を取ると自分の腕に掴まらせて歩き出す。
白い柵で囲ってあるエリアの前に同じく白い木製のゲートがあり、ゲートの両脇に十代後半と見られる少年と少女がパイプ椅子に腰かけてチケットを確認していた。二人はパッと見ただけでは人間そのものに見えるため、種族はわからない。
「チケット」
クッチャクッチャとガムを嚙みながら掌を突き出す少女に、美良乃は銀色のチケットを二枚差し出した。
日本で客相手にこんな態度を取ったら直ちにクレームを入れられるところだが、ここはアメリカ。不愛想な接客係など珍しくもない。だが世界トップレベルのサービスを提供する国で生まれ育った美良乃はつい毎回苦笑してしまう。
少女はいかにも怠そうにチケットの半券をもぎ取ると、ぶっきらぼうに残りをつき返し、ほとんど聞き取れないくらい早口に「良い一日を」と呟いた。
ゲートを通った途端、目の前にいくつもの巨大なテントが張られた農場が現れた。様々な種族のモンスターが行き交い、各テントの前には何の種族の競技であるのかという説明の看板が置かれている。
テントとテントの間を埋めるようにして飲食物を販売している屋台や、モンスターショーと書かれたTシャツやマグカップなどのグッズを販売している露店があった。見て回るだけでも楽しそうだし、帰り際に記念に何か買って帰ってもいいかもしれない。
美良乃は入り口近くに設置されていた会場案内図を見た。
「目当ての種族はいるのかい?」
「できれば時間の許す限り色々見て回りたいんだけど、チケットをくれたマリオさんの歌のコンクールは観たいな。あとは、魔女、鬼人族、それと吸血鬼は絶対に観て帰りたい」
「そうか。では、近いところから順番に回るとしよう」
「今更だけど、ルイは今回吸血鬼の競技会に出ないの?」
ニッカ―きっての目立ちたがり屋でナルシストのルイが、衆目を集める絶好の機会を逃すとは思えない。
ルイは不敵に口の端を吊り上げると、肩にかかっていた己の黒髪をバサアッと払いのけた。
「ふふっ。僕は過去に何度も優勝してしまったのでね! 殿堂入りして出禁になったのだよ!」
寿命の長い種族は生きた年数だけ能力が磨き上げられていくので、若い芽を潰さないためにも、五回優勝した者は出場資格を失うらしい。
「僕は吸血鬼の中でも特に優秀なのでねっ! 五十マイル走と催眠術の両種目で殿堂入りしているのだよ」
「五十マイルも走るの!?」
ニッカ―からオマハまで百マイルあるので、その半分の距離を走るらしい。流石は車で移動するより走った方が時間短縮になる種族なだけある。
ルイが出場しない代わりに、6フィートアンダーとして飲み物を売る屋台を出店しているらしい。
「さて、僕たちの現在地がここだね」
案内板の地図によると、一番近くにあるのは鬼人族のテントで、競技種目は「肉体美」とあった。
「肉体美?」
「説明するより、見た方が早いと思うよ」
ルイは美良乃をエスコートしながら鬼人族のテントに入っていった。
中にはパイプ椅子が並べられていて、正面にステージが設置されている。その上に布面積が極端に少ないビキニパンツを穿き、身体に油を塗りたくってテカテカと輝く、ほとんど裸体の男たちが十人ほど並んで立っていた。
(テレビでこういうボディービルの大会を見たことある!)
人間のボディビルダーとさほど変わらなく見えるが、全員額に角が生えていて、髪と瞳の色がカラフルだった。
「キレてるよ~!」
「ナイスバルク!!」
「角が凶器!」
外の寒さとは裏腹に、テントの中は熱気に溢れてムンムンとしている。あちこちから観客の野太い掛け声が飛び交っていた。
美良乃は次々にポーズを決める筋骨隆々な男たちを目の前にして、ポカンと放心した。
鬼のパンツというと虎柄を想像しがちたが、実際の鬼人は黒や紺といった単色の物を愛用しているようだ。そのパンツのあまりの小ささに、正直目のやり場に困る。
「……わたしは一体、何を見せられているんだろう?」
「鬼人族は他の種族に比べて筋肉がつきやすい体質でね。彼らの美醜も筋肉の質と量、体格、角の形や色を基準にしているのだよ」
何でも、鬼人は種族的に体格が良く、男性の平均身長は二メートル、女性でも百八十センチなのだとか。かなり背が高いと思っていたダニエルは鬼人として平均的らしい。男女ともにがっしりとした骨太な体型が特徴なのだとか。
「鬼人は男性も女性もマッチョの方がモテるってこと?」
「もちろん個人の好みは色々あるけれど、押し並べて言うとそうだね」
それでは、言い方はとても失礼になってしまうが、中性的で男性にしては線が細いダニエルは鬼人としてはあまり魅力的ではないのだろうか。美良乃としてはムキムキな男性よりは適度に筋肉がついた所謂細マッチョの方が好きなのだが、人間でも国が変われば魅力的とされる容姿も変わるのだ。モンスターも種族によって価値観に差があるのだろう。
無言で思考に耽ったままステージを見つめていた美良乃に、ルイはショックを受けたように息を呑んだ。
「もしや、君はああいう逞しい身体が好きなのかい!?」
何故か両手で胸を隠すので思わず胸元を見てしまうと、彼は瞬く間に顔に朱を注いだ。
「ううん。あまりにも筋肉がすごいとちょっと威圧的に見えるから、わたしは普通の体型の人の方が好き」
「ああ、良かった。僕は運動しても筋肉がつきにくい体質でね」
細すぎず鍛えすぎていない今の体型だからこそ、整い過ぎている顔との調和がとれているのだ。首から下がゴリゴリになったら違和感が出てくるのではないだろうか。
「ルイの裸を見たことないけど、今のままでいいと思うよ」
美良乃が真顔で言うと、ルイは首まで真っ赤になってしまった。
「そっ、そんな! 僕の裸が見たいだなんて!」
「いや、そんなこと言ってないけど……」
生憎、男の裸を見て喜ぶ趣味はない。
男性の部が終わって女性の部になったが、これも人間のボディービル大会と同じようなものだった。どの女性も物凄く小さな三角ビキニとハイレグのパンツを着用し、見事な逆三角形の肉体を惜しげもなく披露している。男性に比べると小柄で筋肉も小さめだった。
テントいっぱいのマッチョに食傷気味になりながら、二人は外へ出て次のテントを目指した。
誤字脱字は見つけ次第修正していきます。




