表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】美良乃のモンスター交流日記 ~墓石の下には人外が集まるバーがありました~  作者: 柏井猫好
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/73

35. 10月31日 ハロウィン【1】

 その日の夕方、美良乃のバイト先である介護付き老人ホームは、様々な仮装をした子供たちで賑わっていた。毎年ハロウィンになると、保護者に連れられた子供たちがホーム内の各居室を回ってお菓子をもらうのだそうだ。


 ホームの住人たちにとっては、日頃あまり接点のない地元の子供たちと触れ合う絶好の機会である。部屋を蜘蛛の巣や髑髏などで飾り付けたり、中には自身もミツバチの触角を模したカチューシャを着けたりして軽く仮装している住人もいるのが微笑ましい。


 嬉しそうに子供たちにお菓子を渡す住人と、拙いながらもきちんとお礼を言う子供たちの交流は、見ているだけでもホッコリする。


 美良乃の同僚であるエレナもこの日は休みを取って、三歳の娘のマリアを連れてトリックオアトリ-ティングに来ていた。

 マリアはエレナと同じライトブラウンの肌に黒髪で、ふっくらした頬と、眼窩から零れ落ちるのではないかと心配になるくらい大きな黒い目をした可愛らしい子だ。普段は翅をエレナの魔法で隠しているようだが、この日ばかりは「妖精のお姫様」というテーマの仮装の一部としてちゃっかり顕現させている。フェルナンドのものよりは丸みがあり、薄いグリーンとピンクのグラデーションがとても美しい。


(エレナがフェルナンドの子孫ということは、この子もそうなんだよね?)


 じっくりと観察してみるが、フェルナンドの面影はない。


 美良乃が幼い子供が食べても問題なさそうなクッキーやクラッカーを小袋に詰めておいたものを渡すと、マリアはエレナにしがみつきながらも、小さい声で「ありがとう」と呟いた。恥ずかしがり屋なところも悶絶するくらい可愛い。


「ありがとうね、美良乃! 今日は仕事終わったら6フィートアンダーへ行くの?」

「どういたしまして。うん、その予定だよ。アリアたちとバーで合流する予定」

「そっか、楽しんできてね!」


 美良乃はエレナとマリアに手を振ってキッチンへ戻った。




 その夜、6フィートアンダーでバウンサーをしていたのはフェルナンドだった。モンスターもハロウィンの仮装として他の種族に扮することがあるようで、彼もフランケインシュタインの仮装をしている。もっとも、フランケンシュタインが実在するモンスターなのかは知らないが。


「ハーイ、フェルナンド。ハッピーハロウィン」

「よお、美良乃。ハッピーハロウィン」


 フェルナンドは美良乃を頭のてっぺんから足の先まで見渡して首を傾げた。


「……そりゃ、何の仮装だ?」


 美良乃は白いワンピースを着て、背中に黄色い長方形のクッション背負い、それを幅広の黒いベルトで胴に固定してある。


「お寿司。玉子のやつね」


 フェルナンドは無言でひとつ頷いた。どうやらコメントに困るくらい微妙らしい。


「そういえば、エレナってフェルナンドの子孫なんだってね? さっきバイト先でエレナの娘ちゃんのマリアに会ったよ。すごくかわいいね」


「ああ、エレナは俺の二番目の妻との間にできた娘の子孫だな。……って言っても、それから数百年経ってるから、正直俺にも娘から何代後の子孫かはわからねえが。エレナは半妖精だが、微かに魔力に俺の気配を感じる」


 吸血鬼と違い、妖精族は人間との間に子供ができると、妖精としての力を半分持った半妖精、所謂「ハーフ」が生まれるらしい。それからずっと人間界にいればそのまま半妖精として育つが、幼少期にフェアリーリングを通って妖精界に移住すれば、周囲の魔力を吸収して完全な妖精に育つのだとか。エレナは人間界に留まって育ったので半妖精のままらしい。


 妖精族の中には人間の子と自分たちの子を取り替えていたずらをするという、困った習性のある種類もいるらしいのだが、取り替えられた人間の赤ん坊が妖精界へ渡り、そこで成長すると半妖精になってしまうんだとか。


「へえ、モンスターも種族によって色々あるんだね」


「妖精族は元々、妖精界っていう現世とは別の次元に棲む種族だから、モンスターの中でもかなり特殊だな」


「そっか。……あの、年齢を訊くのは失礼かもしれないんだけど、フェルナンドは何歳なの?」


 彼は蛍光黄色の瞳で天井を見上げて少しの間逡巡したが、その間も思い出せないのか、右に左に首を捻っていた。


「もう正確には覚えてねえが……。多分、六百年は生きていると思うぜ」

「六百!?」


 美良乃は驚いて目を剥いた。


 コロンブスがアメリカ大陸を発見するより前ではないだろうか。しかも覚えていないということは、もっと年齢が上である可能性もあるということだ。ルイとマリーアントワネットの年が近いというのも驚いたが、フェルナンドはその比ではない。


「そうなんだ。物凄い大先輩だったんだね。失礼しました……」

「何だそりゃ」


 フェルナンドは苦笑し、思い出したように顎でバーの方をしゃくった。


「それより、アリアたちが待ってるんじゃねえか?」


「ああ、そうだ、待たせちゃってる! じゃあ、またねフェルナンド、素敵な夜を!」


 フェルナンドと手を振り合うと、美良乃は急いでバーカウンターへ向かった。


「美良乃!こっちこっち……って、あんた何の仮装なの、それ?」


 カウンターに陣取ってダニエルと飲んでいたアリアは、美良乃の服装を見るなり片眉を上げた。フェルナンドと同じような反応に、自分の仮装のクオリティの低さが心配になる。自分では結構いい出来だと思っていたのだが。


「ハッピーハロウィン、アリア。これは玉子のお寿司だよ」

「ハッピーハロウィン。……独創的ねえ。いいと思う」

「あらぁ、可愛いじゃない! ルイちゃまの反応が楽しみね!」


 アリアは額に黒い角をつけて鬼人族の仮装を、ダニエルは魔女のとんがり帽子にゴシック調の黒いロングドレスを着て「セクシーな魔女」の仮装をしている。お互いの種族に扮しているあたりに二人の仲の良さが出ている。


「そういえば、今日はコートニーも来てるんだよね?」


「コートニーなら既に獲物をゲットして、二人でしっぽり呑んでるわよ。相手の男はルイ様の知り合いで、日本から遊びに来たんだって」


「へえ、日本から?」


 アリアの視線の先には、テーブル席に座るコートニーと、黒髪で背中に黒い翼の生えた見知らぬ男の姿があった。コートニーはカウボーイの仮装をしているようだ。

 アメリカにモンスターがいるのだから、日本にいても不思議ではないのだろうが、あちらに住んでいた時は全くお目にかからなかった。


「今夜も媚薬の出番かしらねえ。彼女、特定の恋人はつくらないで、あと腐れない関係を愉しむタイプだから」


「えっ、大丈夫なの? その、倫理的に」

「大丈夫よ。相手の意思を強制的に奪うわけじゃないから」


 魔女の作る媚薬は接種してもいつもより大胆になるくらいで、決して相手を前後不覚にさせて無理やり襲うようなものではないと聞いて安心した。

 お互い同意の上であれば、成人同士がどんな関係を持とうが、他人がとやかく言うことではないだろう。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ