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【改訂版】美良乃のモンスター交流日記 ~墓石の下には人外が集まるバーがありました~  作者: 柏井猫好
本編

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30. 10月17日 吸血鬼とデート【2】

 しばらく無言で窓の外を睨んでいると、ルイが落ち着かない様子で声をかけてきた。


「何か気になっているのかい?」


 美良乃は自分の気持ちをどうやって言葉にしていいのか、暫く逡巡した。


(こんなことを訊いたら、嫉妬してるって思われそう……。でも、このまま不機嫌でいると、せっかくのデートが台無しになっちゃうし。……ん? 『せっかくのデート』!? ち、ちがっ! わたしったら、何考えてるの!?)


 しかし慎重な性格の美良乃は、こういうことについては事前に確認しておきたい。付き合い始めたけど浮気し放題でした、なんてことになったら目も当てられない。


「あの!」

「うわっ!」


 美良乃が突然声を発したので、ルイはビクリと肩を揺らす。雑念を掻き消そうと出した声が、思ったより大きくなってしまったようだ。


「ご、ごめんなさい」

「いや。……どうしたんだい?」

「……自分でも何を言いたいのかよくわからないんだけど」

「それでも構わないから、君が何を考えているのか、聴かせてくれないかい?」


「さっき、吸血欲とせ、性欲はセットになってるって言ってたけど、それは血を吸ったら誰にでもムラムラするっていうこと? 逆に言えば、ムラムラしたら誰でもいいからその、両方の欲を鎮めてくれる相手を探したくなるってことなの?」


 顔に熱が集中しているので、茹蛸のように真っ赤になっている自覚はある。気まずすぎて美良乃は自分の足元に視点を定めた。


「まず大前提として言わせてもらいたいのだが、血を吸った相手なら誰にでも欲情するわけではない。男の血を吸うこともあるが、僕の恋愛対象は女性なので、欲情することはない。そして僕の名誉にかけて言わせてもらが、女性なら誰にでも欲情するわけでもないのだよ。僕にも好みというものがあるからね」


「そうなの?」


「君の恋愛対象は男性だけだという前提で訊くが、君好みの容姿をした男が目の前に十人いたとして、君はその十人全員に抱かれてもいいと思うかい?」


「それはない。絶対に」 


 美良乃は今まで誰かに恋をしたことがないから断言できないのだが、いくら外見が良くても、内面まで自分の好みであるとは限らないので、答えはノーだろう。

 そして保守的な貞操観念を持っている美良乃は、交際していない男と男女の仲になるなんて、考えただけで吐き気がする。


 美良乃が即答したことに気をよくしたのか、ルイは相好を崩した。


「それと同じことさ。僕にはしばらく恋人がいないから、継続的に血を提供してくれる相手がいない。それで時には好みのタイプの女性から血をもらうこともある。しかしその全員と関係を持ったりするわけじゃないのだよ」


 全員ではないということは、その中の何人かとは関係を持ったことがあるという意味なのだろう。男性は恋愛感情のない相手にも手を出せるというし、一夜限りの割り切った関係なのかもしれないが、潔癖な美良乃には受け入れがたく感じる。


 美良乃の渋面を見て、ルイは焦ったように付け加えた。


「誤解しないでほしいのだが、僕は一途な質だから、恋人がいれば他の女性から血をもらったりしないし、ましてや関係を持つなんてことは絶対にしないよ!!」


 必死な様子がかえって怪しいが、今はデートの真っ最中。ここはスルーしておいてあげるのが優しさだろう。


「もし恋人が血をあげたくないって言ったら、どうするの?」


「うう~ん……。その時は輸血用の血液で我慢するか、男性からもらうかな。男が相手なら、万が一にも過ちを犯さずに済むからね。もっとも、吸血鬼にとって美味そうな人間こそが魅力的なので、恋人の血を吸えないのはかなり精神的に辛いだろうけれど」


「美味そうな人間!?」


 聞き捨てならない言葉に、美良乃は思わず座席の上で後退ってルイから距離を取った。ルイは美良乃に好意を抱いていると言っていた。要するに、彼は美良乃を美味そうな獲物だと思っているということではないか。


 だとすると、ヴァイパー族の女が言っていた、吸血鬼にとって人間は餌に過ぎないという言葉は案外的を射ているのかもしれない。


「人間には理解しがたいのかもしれないけれど、吸血鬼にとって魅力的な相手は非常に美味そうなのだよ」


「それって、美味しそうでなければ好きにならないってこと?」


「ははあ、それは卵が先か、鶏が先かと同じ問答だね。美味そうだから愛しいのか、愛しいから美味そうなのか。それは吸血鬼にとって永遠に答えの出ない疑問だ。少なくとも僕は、好いた相手に吸血欲を抱かなかったことはない。それはつまり、吸血欲を抱けない相手は好きにならないとも捉えることができる」


「う~ん……」


 何だか哲学的な話になった。ルイが言ったように、これは正解のない問いかけなのではないだろうか。性別や種族によっても考え方の傾向が異なるし、個人差も出る。


「でも、それは人間にも言えることなのではないかな? 吸血欲をキスに置き換えてみればわかり易い」


「え?」


「人間もよく言うだろう? キスすることを想像してみて、忌避感を抱かない相手となら交際できると。それはつまり、キスできないような相手は始めから恋愛対象外ということなのでは?」


「……そうなのかな?」


 好きだからキスしたいのか、キスをしたくないような相手はそもそも好きにならないのか。

 頭が混乱してきたので、質問を変えてみる。


「ルイが今まで付き合った人は、皆血を吸わせてくれたの?」


「そうだね。これまでいた恋人には、深い関係になる前に吸血鬼であると打ち明けていたし、彼女らも僕が血を吸うことを受け入れた上で交際していたよ」


 噛んでも痛くないようにできるのだから、恋人が寝ている間にこっそり吸ったりすることも可能なのだろう。しかし彼はきちんと交際前に説明し、相手の合意を得ていた。誠実な性格と言えるのではないだろうか。


 気付けば眉間の力も緩んでいた。納得した様子の美良乃に、ルイは安堵の表情を浮かべる。

 窓の外を見やると、既にオマハまであと数十分という所まで来ていた。


「他に何か心に引っかかっていることはあるかい?」

「今のところは、これ以上ないと思う」


「何か疑問が出てきたら、遠慮なく質問してくれたまえ。――僕のことばかり話してしまったね。今度は君のことも聴かせてほしい」


「うう……」


 美良乃はこの話の振られ方が苦手だった。

 学校でクラス替えがあった時に自己紹介をさせられる時と同じだ。周囲から自分の欠点ばかり(あげつら)われてきたので、他人が自分の何かに興味を持つことが想像できないし、他人に話して聞かせられるほど大した人生を送っていない自覚がある。

 要するに、何を話したら相手を楽しませることができるのか全くわからず、軽いパニックに陥ってしまうのだ。


「では、僕から質問させてもらっても?」

「そうしてくれるとありがたいな」

「美良乃は交際相手に何を望むのだろう? どんな相手が魅力的だと思う?」

「……笑わないでほしいんだけど、わたし、誰かを好きになったことがないの」

「そうなのかい?」


 ルイは意外そうに目を見開いた。


「わたしのことなんか好きになってくれる人はいないと思い込んでいたせいもあるんだろうけど、あまり他人に興味がなかったんだよね。この人素敵だなと思っても、どうせわたしの人生に関わることはない人だしって冷めた目で見ちゃっていたというか。……変かな?」


「いいや、変ではないよ。恋愛をしないからといって、その人の価値が変わるわけではない。好きになるほど魅力的な人が周りにいなかっただけだという可能性もあるし。……それにしても、君は人間が好みそうな外見をしていて、日本とアメリカ両方において『美しい』と評されると思うのだけれど、アプローチしてくる男はいなかったのかい?」


 どうやら、ここでルイが言っている「美しい」とは、彼の好みの容姿をしているという意味ではなく、人間から見て美しいかどうかであるようだ。

 先ほども吸血鬼にとって、美味そうであるかどうかが魅力を左右すると言っていたし、彼らにとって顔立ちは恋愛をする上でそこまで重要ではないのかもしれない。


「いるにはいたけど、皆そこまで親しくなる前にドン引きして離れていくから。それに、外見だけで好きになられても困るし」


「バーバラの領域でもそのようなことを言っていたね」


 そう考えてみると、美良乃の好みの男性というのは、自分の内面を見ても幻滅せずに受け入れてくれる人と言えるのではないだろうか。我ながら面倒くさい性分であるが、そんな自分にも嫌がらずに、きちんと向き合ってくれる人がいい。


 そう言うと、ルイは得意げに頤を上げた。


「そうかいっ、それなら、僕なんてピッタリだね! 僕は見た目も美しいが、心も海のように広いのだよ! 浮き輪でも持って、安心して飛び込んできてくれたまえ!!」


 彼は長い黒髪をファサ~ッとかき上げながら、「溺れさせてしまったらごめんよ。何せ僕はびっくりするくらい魅力的だから」などと嘯いている。

 今日はかなり真面目な態度だと思ったが、ここにきて通常運転に戻ったらしい。


「……自分で言っちゃうんだ?」


 半目の美良乃に、ルイは「もちろんだとも」と肩を竦めてみせた。


「僕たち吸血鬼が人間に好かれやすい容姿をしているのは、れっきとした事実だからね。国や文化によって『美しい』とされている容姿は異なるのだが、共通しているのが顔のパーツが左右対称であるかどうかということだ。その点、僕のパーツは完璧な左右対称だからね!! おまけに僕は時代時代に合わせて『モテる』要素を研究しているから、向かうところ敵なしだよ!! さあ、心ゆくまで僕の美貌を堪能してくれたまえ!!」


「そ、そう。物凄く自信があるのは理解できた」


 研究している割にルイのアプローチはかなり斜め上をいっていたのだが、あれは美良乃が日本人であるということを意識しすぎて、日本に関する怪しげな情報を取り入れた結果なのだろうか。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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