「重大な事に気が付いてしまった」と言われて話を聞いてみたら……
結婚前、夫が一人暮らしをしていた部屋へ初めて遊びに行った時。
関東-関西の遠距離恋愛だったので、たまにしか会えないし、ちょっといいところを見せておこうかな、と料理を作ってあげようとしたんだけど、出来なかった。炊飯器も鍋も茶碗さえなかったから。
「自炊してたんやなかったん?」(彼が上京した当初の食生活については手紙等で知っていた)
という質問に、それは最初の数年だけで、収入が増えてゆとりができてからは外食するか、買ってきた弁当を会社で食べるか、という生活だったらしい。
で「もういらんやろ」と潔くすべての調理器具と食器を処分してしまった、と。しかし、薬缶すらないって、お茶も煎れないのか。
ほとんど会社で過ごしていて、家には寝に帰るだけだからと言われればそうなんだけど。
一応、自炊生活の名残で小さな流し台の横に置いてあった油まみれ埃まみれの一口ガスコンロは使えるようだったけど、薬缶もないんじゃ意味がない。なのにお風呂もないのにずっとガスの基本料金を払っていたらしい。もったいない。
でも、私の手料理を食べ損なった事がかなり残念だったらしく、次に遊びに行くと電話したら「炊飯器その他を買ったから、何か作ってくれ」という。
ひゃああっ!
その時は、その遊びに行く日の数か月後に結婚して同居する事が決まっていたので「なんてもったいない!」って叫びそうになった。
私も一人暮らしで、炊飯器とか色々持っていたから、ふたつになってしまう。新しいのを買うにしても、自分で選んだ物を買いたかったのに、と。
で、あれも買ったこれも買ったなんて話を聞いているうちにふと彼が黙り込んだ。
「どうしたん?」
「重大な事に気が付いてしまった」
重大な事? 何それ?
ちょっとドキドキしながら彼が話を続けるのを待った。
「食卓がない」
「へ?!」
どうやら食事する為のテーブルがない、という事らしい。
「食卓がない、ってどーいう事? 私こないだ遊びに行った時、こたつの天板が壁にたてかけてあるの見たで」
「あれは天板だけやねん」
はあ? 天板だけってなんやねん?
「こたつが壊れたんで捨てた時に天板だけ捨て忘れて、そのままになってるんや」
おい……。
いま買うのはもったいないからテーブルを買うのはやめて、と説得して、畳に直置きしたこたつの天板の上に皿を並べてご飯を食べました。
夫は同級生で、卒業後も何年も友人として文通したり、夫が帰省してきた時に同級生たちと一緒に遊んだりする、という関係でした。
付き合うと決めてから結婚までは早かったです。遠距離恋愛は大変だったので。
ナナハン買ったり、車買ったりするお金はあっても、面倒だし、不自由も感じていなかったからと、上京当初から住んでいた風呂なし共同トイレの部屋を引っ越す気はなかったらしい。
上京した数年後に借り始めた駐車場代の方が家賃より高かったそう。




