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5.「日常という仮面をかぶった異常」

火曜日の朝、白石彩乃はいつも通り、顔をしかめながら駅前のカフェに向かっていた。


「味覚強化、マジで社会生活に支障出る……」


駅近にある洒落たベーカリー併設カフェ。パンの焼ける匂いだけで脳内に30項目の香り成分が分析され、それが小脳に押し寄せてくる。彼女にとっては、食事はもはや情報爆撃に等しかった。


「てか、こんな生活、どう続ければ……」


隣の席のサラリーマンが頼んだブレンドコーヒーから「雑味のない清涼感」「焦げた豆の苦味」「新潟産深煎り特有の渋み」まで全部伝わってきて、つらい。


それでも彼女は、慣れという名の気合いでフレンチトーストを完食し、店の端っこで息を整えていた。


そして、またTweechoを開いた。


@ayano_815「駅前のフレトー、味の暴力。脳がスプラッシュマウンテン」#味覚スキル #社会適応とは


ふと、いいねの中に見覚えのある名前。


@hayato_kuromaru が“いいね”しました


「……またこの人」


思わず、リプライ画面を開きかけて──閉じる。


(いや、変な期待するな。どうせ、普通の人。……たぶん)


彼女の予感は、当たらずとも遠からずだった。



一方その頃、藤堂隼人は“どこでもブルブルくん・試作弐号”を実家の居間で爆発させていた。


「……マジか。振動数、間違えた」


畳の上に転がるリモコンと、半分焦げたクッション。家族が出かけててよかった……と安堵しつつ、彼は手早く後始末を始めた。


転生者、それぞれの“日常”は、じわりじわりと非日常に侵食され始めていた。




その日の夜。


Tweechoでは、再びふたりの投稿が交差していた。


@ayano_815「今日はカレーパンで胃が惑星直列起こした」


@hayato_kuromaru「冷やし中華に適温振動かけてみたら、世界が変わった」


ヒトリはそれを観測しながら、にやけそうな顔をなんとか引き締めた。


【観測ログNo.003】双方、味覚および振動の異常使用により、スキル応用への探究心が加速中。次の段階(偶然の言語的接触)を静観。


主任がちらりと見てくる。


「次は、接触か?」


「……そうなれば、です」


「ニヤついたら減給」


「……ッス」


するとそのとき、隣室から別の観測課スタッフが慌てて入ってきた。


「ちょっと、ヒトリくん、主任さん! 第3観測課のやつらが“並行転生者”の兆候見つけたって騒いでますよ!」


主任は眉をひそめる。


「また数合わせの報告合戦か……まったく、うちはうちの案件に集中しろ。特に“彼女”にはまだ刺激を与えるな。……分かってるな?」


「はいッス!」


観測室のスクリーンには、彩乃と隼人、そしてその周辺のTweecho投稿群がリアルタイムで映し出されていた。


「さて……さてさて、こっからだな」


誰も知らないところで、誰かの転生は、静かに、そして確実に、観測されている。

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