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0.転生管理機構の視点

転生。それは偶然のようで、実は厳密に調整されたプロセスだ。舞台裏には、無数の意識を調整・管理する存在がある。彼らは「転生管理機構」と呼ばれている。人類の死後プロセスを管理し、次なる世界への橋渡しを担う、形なき知性体たちだ。


この存在たちには物理的な身体はない。思考だけが存在し、空間も時間も、彼らの中では流動的だ。


彼らの言葉は言語ではなく、概念のやり取りだ。だが、人間の理解のために、ここではあえて「会話」として表現しよう。


この時、転生管理機構の処理室では、ふたりの転生プロセスが進行していた。対象は、帯広市と呉市、それぞれで交通事故に遭った一人の女性と一人の男性。


対象者A:白石彩乃、帯広市在住、29歳、交通事故死、転生申請自動受理。

対象者B:藤堂隼人、呉市在住、28歳、交通事故死、転生申請自動受理。


「んー、このふたり、同期転生で“交わらないまま”進行ってなってるけど、これまたずいぶん地味な案件ですね」


「そりゃそうよ。変化を嫌う時空帯での転生だからね。記憶保持で“微ズレ”観測が目的」


「でもさ、ユニークスキル味覚強化と微振動操作って、本人たち絶対使い道に悩むよ」


「悩むところがいいの。そこから生活の“歪み”が発生する。データ収集には最適」


「人間、困ると面白いからなー」


「この案件、観察部の新任くんに回したけど、ちゃんと視てるかな……」


――その「新任」は、隅の観測端末の前で真剣な顔(※イメージ)をしていた。


「対象A、プリンへの反応強すぎます。味覚強化、完全に過剰ですね」

「対象Bは“微振動”で自作マッサージ器具を試作し始めました。応用が広がりそうです」


「……なんだろうな、これでいいのか……」


観測記録端末には、以下のログが流れていた。


【転生記録:日本時間 20XX年6月27日 午前7時42分/地球基準】

【転生タイプ:同時転生・分離配置型/記憶保持・現実適応構成済】

【世界改変度:極小(原時間軸維持)】

【社会影響:当面ゼロ】

【発話頻度:SNSアカウント経由で日常的に観測中】


「うわ……対象B、“スキルっぽい何かがある気がする”ってぼんやりとしか認識してない……」


「対象Aは“どうせバグだろ”ってTweechoツイーチョで飯テロしながら流してる……」


「いいね。理想的。こういう自然な異常が“人間”のリアクションを豊かにするんだ」


「……あ、ちょっと待って、対象Aが“スキルあるの私だけかも”って思い始めた。孤独感出てきた」


「対象Bは“いやいや俺だけじゃないでしょ”って思ってる……」


「食い違い、発生した。いいぞいいぞ」


職員たちは楽しそうにその様子を観測しつつ、ログを書き溜めていった。


「彼らのSNSや掲示板投稿、面白くなりそうだな」


「バズったら上層から目をつけられるぞ」


「それもまた観測」


そして静かに、彩乃の転生プロセスが始まる。


転生。それは偶然のようで、実は厳密に調整されたプロセスだ。舞台裏には、無数の意識を調整・管理する存在がある。彼らは「転生管理機構」と呼ばれている。人類の死後プロセスを管理し、次なる世界への橋渡しを担う、形なき知性体たちだ。


この時、転生管理機構の処理室では、ふたりの転生プロセスが進行していた。


対象者A:白石彩乃、帯広市在住、29歳、交通事故死、転生申請自動受理。

対象者B:藤堂隼人、呉市在住、28歳、交通事故死、転生申請自動受理。


「んん、今回のユニークスキル選定はちょっと遊びがすぎるのでは?」

「いやいや、あの味覚強化、侮るなよ? 情報の質が違うからな。感覚強化は、文化進化に寄与するぞ?」

「隼人の“超微振動操作”の方は、完全に日常用じゃん。戦闘能力ゼロ」

「逆にロマンがあるだろ。地味だけど、応用力は高いんだよ」


転生管理機構の職員たちは、淡々と、だが時折茶化しながら作業を進めていた。


【転生記録:日本時間 20XX年6月27日 午前7時42分/地球基準】

【転生タイプ:同時転生・分離配置型/記憶保持・現実適応構成済】

【世界改変度:極小(原時間軸維持)】


「彼らの世界に変化はほぼ起こらない。なのに“転生”を体験させる……これ、必要か?」

「“変化が起きない”世界に変化を観測するためには、彼らのような“ややズレた個”が必要なんだよ」


管理機構職員たちは、ふたりのデータを注視している。


「面白くなるといいな」

「ま、観察フェーズ開始。あとは当人たち次第だ」


そして静かに、彩乃の転生プロセスが始まる。



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