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モブになりました

作者: みづち

私の名前は、葛城椿。12歳

とある富豪の娘である。


この度、前世を思い出し自分が所謂転生者だと気付きました。しかも、ここはティーン向け恋愛小説の世界らしい。

詳細は割愛するが、私のポジションは悪役令嬢まではいかないにしても主人公のライバルのようで。


「んーー、どうしよう。」

夜、自室の無駄に可愛くてでかいベットの上で私は頭を悩ませていた。

あぐらをかいて、腕を組んで唸っている。はたから見て小学生の悩み方じゃあない。

仕方がないのだ。精神年齢上がっちゃってるんだから。

転生者あるあるである。


それはそうと、悩みのタネは今後の行動について。

まだ、ストーリーは始まってないけど、これ何が正解なんだろう?と。

忠実に再現すべきか。でも断罪とか怖いしなー。

いや、でも私が大きくズレたら他の人の運命も変わっちゃったりするのかな。いい方に変わればいいけど、マイナスになっちゃうのは可哀想だし。

もしかして溺愛確変おきたりして〜

ってそれはないか。できる気がしないし。


まあ、まだ時間はあるし今日のところは寝てしまおう。

夜更かしはお肌に悪いのだ。今世こそは目指せ美肌。




なんて葛藤しているときが私もありました。

あれから3年。今日は財閥子息のバースデーパーティー兼婚約報告イベントの日である。

晴天のガーデンパーティー。せり出した2階のテラスに仲睦まじそうな男女が一組。

男性は、この小説のヒーロー枠。天宮司財閥の長男、天宮司正隆。見るからに分かるハイスペック男子。

そして、正隆さんに寄り添われ爽やかスマイルを浴びている女性は、ダレダお前。


ストーリー通りなら、あそこにいるのは私だった。

記憶が戻ってから、いろいろ未来について悩んでいたけど蓋をあけてみたらなんてことはない、私は選ばれなかった。

それも仕方ないと思っている。あの日から私はそれまでの葛藤椿ではなくなってしまった。

自堕落で、流されるがままだった前世の人格が入り込んでしまったのだ。

私は、以前ほど頑張れなかったし周りの期待に応えられなかった。サボることを知った人間ってのは、厄介だと思う。


そんな私の様子を、家族やまわりの人間は多少訝しんだが、

極端に成績が落ちたとか、目に見えて反抗的になったとかではなかったからか、そういうものとして受け入れられた。


いやーマジで前の椿ちゃん頑張りすぎてたと思うわ。

子供ながらの真っ直ぐさというか、ほんと尊敬しちゃう。


この3年間に思いを馳せながら、天宮司正隆のスピーチに拍手する。父の仕事の関係と、一応同じ学園に通うという理由で招待されたであろうこのパーティー。

隣に立つのは私ではない誰かだはと思っていたが、女性が誰だかいっこうに思い出せない。

あんなキャラいたかしら。

名前を聞かされても、ピンとこない。ん~~、この展開で、でてくるなら主要キャラ(生徒会とか取り巻き)の中からと思っていたけど外れたなあ。


2人はほほ笑みあい、互いに思い合っているように見える。

なんともお似合いである。しかし、数ヶ月後彼らは主人公に出会い、しっちゃかめっちゃかした後に破局して、天宮司正隆は主人公ちゃんと結ばれるのだ。

それを考えると隣の女性が不憫である。

強く生きてほしい。


かくして、私はこのストーリーのモブキャラに成り果てたのだった。





別side


今日は、私の友人である天宮司正隆の結婚式に夫婦揃って参列している。招待状を見せた時、妻はとても驚いたようだった。こちらがビックリするような声を上げたと思ったら、私と招待状を何度も見比べて

「え、うそ、なんで?」「あら〜、そっか~。」

なんて1人で呟きながらうんうんと頷いていた。

ひと通り落ち着いた妻に、どうしたのかと尋ねたら

きょとんとした顔をして、「何が?」と逆に聞かれてしまった。

今しがたの変な行動の事だと言うと、今更恥ずかしくなったのか顔が赤くなった。隠れるように頬を両手で挟んで「何でもありません。」と。

その様子がとても可愛いので、覗き込むように顔を近付けた。

「え、なんて?」

私の悪戯心に気づいた彼女は、唇を少し尖らせて抗議を示す。その唇にチュッと音を立てて吸い付けば、ますます顔を赤くした。とても可愛い。


妻は、自分をだらしのない面白味のない人間だと言う。

それは、大きな間違いだと私は思う。凛とした姿には意志の強さを感じるし、少し抜けているところはギャップがあって可愛らしい。流されやすいというが、相手の主張を受け止めできることをやってあげたいという気遣いと優しさがある。

自分の良さに無自覚なようだが、彼女を慕う者は少なくない。妻の仕草や眼差しから溢れ出るような他者を思い遣る優しさと温かさは、思いがけず誰かの心を救っていたりする。


正隆の婚約者もその1人だ。

特別親しい訳では無いが、それとなく妻は彼女を気にかけていた。

だから、この結婚式も喜ぶだろうと思っていた。

しかし妻曰く、正隆の相手が自分の予想と違ったらしい。??

正隆の結婚相手は、学生時代から変わらない。2人はお互いを大事に想っているし、なんなら正隆の方がぞっこんだと仲間内では認識している。

けれども、妻は正隆にはほかに思う相手ができて2人の婚約は解消になると思っていたようだ。だから、傷ついた婚約者をフォローしようと見守ってきたのだと。

しかも、正隆のほかの相手というのが鮫島維月だと言う。

それこそあり得ない。なぜなら鮫島と婚約者は互いを大親友だと言い合っている間柄なのだから。

私も鮫島とは、会ったことがある。確かに魅力的な女性ではあるが正隆とどうこうという事はないし、鮫島本人も正隆に対して特別な感情があるようには感じなかった。

妻の考えは時々分からない。女の勘なのか。何か別の理由があるのか。

まあ、妻のこうした予想は大抵はずれているようなので特に気にはしていない。



式も半ば、人々が入れ替わり立ち替わり新郎新婦へお祝いの言葉をかけに行く。人波の中に懐かしい顔を見つけついつい話し込んでいたら、いつの間にか妻は新郎新婦のもとにいた。と言っても新郎はどこか席を外しており、ちゃっかりその空いている席に腰掛け妻は何やら新婦と2人盛り上がっている。

「じゃあ華さんもそうなの!?」

「そうです!まさか、椿さんもそうだったなんて。私、椿推しだったんです。だからあんな悲しい思いしてほしくなくて私がその役目やったるわい!って思って」

「えー、そうだったの。」

「そう。最初はそれだけだったんですけど、…あの、だんだんほんとに好きになっちゃって…、…でも仕方ないから、…別れを告げられるまで…その、…大好きってこと…後悔ないように伝え続けようって思って、…うっ、ひっく、…ぞしだら、ずっとあ"い"じでるっ、結婚じようって、…言ってくれてっ、…嬉しくて私、、、

…椿さん、私い"い"のかなっ、…維月ちゃんの場所なのに〜〜」

「あらあら、大丈夫よ大丈夫。泣かないで。」


1人でずっと悩んできたのだろう。やっと打ち明けられた苦しみが、涙となって次々と溢れていく。

椿はそっと肩を抱き寄せ、優しく背中をさすり声をかけた。


「見て、華さん。あそこ、維月さん笑ってるわ。ここにいる皆とても楽しそう。嬉しい気持ちがいっぱいよ。」

華の心に届くようにゆっくりと語りかける。

「みんな、華さん達に幸せになって欲しくて、おめでとうを言いたくて集まったのよ。

皆が認めてる、ここはあなたの場所よ。

あれは、作家が書いた小説。

ここは、私たちが生きている私たちの人生よ。

それに見てたけれど、維月さんて自分の幸せは自分で見つけるってタイプみたい。私たちが読んできた主人公とは大分違う印象だわ。

それに華さんを選んだのは、正隆さんなんだから。誰かに文句を言われるのも謝るのも正隆さんなの。」

華の顔を見て、 椿は茶目っ気たっぷりにウインクした。

それにつられて、華から笑みがこぼれる。

「ふふっ。そうなの?」

「そうよ。端から見ても正隆さんは華さんのことが大好きなんだなあってよく分かるもの。逆もね。」

華の目に残る雫をハンカチで拭いていく。

「はい。わたし、大好きなんです正隆さんのこと。」

涙もそのままに輝く笑顔で華は言った。



「俺も愛してるよ。」

急に聞こえた声にびっくりした2人は振り向いた。

いつの間に戻ってきたのか、天宮司正隆と椿の夫である小鳥遊翔太が立っていた。

正隆は、手近なテーブルから椅子を引き寄せて華の隣に腰をおろすと華の椅子を掴み自分と向き合わせ、きつく握りしめられていた華奢な手を優しく開いた。









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