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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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54. 突撃伯爵家

「困ったわね~」


「あまり困っているようには見えませんが」


「あっ!もしかして脅す材料があり過ぎて困っている感じですか?」


「そうなのよ~。ってこらイリス、フランク」


 失礼しましたと頭を下げる二人。


「まあ当たらずと雖も遠からずよ」


「「やっぱり」」


 かなり大きな商会を営んでいるだけあって黒い部分がまあまあある。とはいうものの公爵のように個人的理由でやらかしてる部分がほぼない。あったとしてもまあ貴族ならという感じのものばかり。うまく使えば脅しに使えなくもないだろうが……。どうするべきか。


「脅すというより何か商売で責めていった方が良いかしら」


「商売ですか?」


「お姉様たちの薬やアクセサリーを優先的に伯爵家に融通するとか」


「ですが姉上様たちの作り出すものは数が少ないですから、難しいのでは?」


「そうなのよね~」


 なかなかのお値段なのだが、いつも引く手あまたで在庫が殆どない。伯爵家に回す余裕はないと思われる。


「ん~~~~~」


 どうしようかしら……。頭を悩ますアリス。


 カルラは空になった茶器にお茶を入れながらアリスをちらりと見る。今日も美しい。


 ビクッ……カルラは体を震わせた。アリスの纏う雰囲気と目付きが剣呑さを帯びたから。それだけではない。フランクとイリスまで張り詰めた表情をしている。


「あの……」


 自分が淹れたお茶に不備が?と戸惑いながら声を上げるカルラにアリスは手を向けると黙るように促す。3人の何かを探るような様子に息を呑む。


「大きいのが来るわね……」


「すぐに向かいますか?」


「そうした方が良さそうね」


「アリス様」


 イリスが冷めた声音でアリスの名を呼ぶ。


「なあに?」


「何を楽しそうな顔をされているのですか?今は緊急事態ですよ」


 アリスの顔は剣呑さから一転、溢れる笑みを抑えきれないようだった。


「不謹慎なのはわかっているわ……でもこんな運が舞い込んでくるとは」


「アリス様急がれた方が良いかと。かなりでかいようです」


 フランクの顔が強張っている。


「そうね、急がなければ。カルラちょっと出かけてくるわね。たぶん2、3日で戻るわ。王妃様にそうやって伝えておいて頂戴」


 その後、彼女たちの姿は消えた。その場には何が起きているのかよくわからないカルラだけが残された。




~~~~~


 アリスたちが姿を消した数時間後、こちらは側妃ザラの実家である伯爵邸。落ち着きなく執務室を歩き回るのはザラの父親である伯爵だ。


「どうなった?」


「特にまだ知らせはありませんが、恐らく良い事態にはなっていないかと……」


 伯爵の問いに答える執事の顔は青褪めている。


「なぜドラゴンが辺境伯領に現れたのだ」


 数時間前、辺境伯から魔法道具である手紙が送られてきた。相手のもとに瞬時に飛ばすことのできる手紙。目を疑いたくなるほどの高額な手紙が目の前に現れ何事かと思ったら、中を見て更に愕然。


 ドラゴン……魔物の中で最上級と言われている存在だ。飛行でき大きさはもちろんのことその攻撃力、鱗の硬さから退治が難しい。ドラゴンは滅多に現れるものではなく、ダイラス国に現れたのは歴史上初めてだと思われる。


 なぜ伯爵に辺境伯から手紙が送られたのか。それは辺境伯にキャリーの姉が嫁いでいるから。二人の間には産まれたばかりの可愛い女の子がいる。


 一度手紙が届いてからなんの進捗もわからない状態で、彼女たちの安否もわからないまま。伯爵としても魔物討伐を生業とする協会に駆け込んだものの、すぐに行くことはできないとのこと。


 王宮に駆け込むも今そのことの協議中と言われ、自分にできることは待つことと言われた。なので待ってはいるのだが落ち着けるわけもなし。



「待つ……待つ…………待つ。できることはもう何も無い。だが、待つとは……何を待つというのだ。出兵をか?朗報をか?訃報をか……?」


 ブツブツと言う伯爵に執事はかける言葉が見つからない。


「あら~。ずいぶんとお困りのようですね」


 急に執務室に現れる3人ーーーアリス、イリス、フランク。


「なっ、だ、誰ですか?誰か!誰か!不法侵入者です!!」


 アリスの顔を知らない執事が叫んだのでバタバタと人が集まってくる。3人に向けられる剣先。3人は抗議するでもなく、抵抗するでもなく、されるがままだ。その余裕のある表情も変わらない。


「王子妃様だぞ、不敬だ下がれ。申し訳ございません。アリス様」 


 アリスは下げられる剣先を目で追う。


「誠に不敬なのは誰でしょうね?私何か伯爵を怒らせるようなことをしたかしら?」


 彼らの行動を本気で不敬だと思えば剣先を突きつける前に命じればよかったのに止めなかった。伯爵がアリスに何かしら思うところがあったから止めなかったのだ。


「あなたの力があれば倒せるはずです。こんなところに来ている暇があるならば民を守りに行ったらどうですか!?」


 激昂する伯爵に対し涼しい顔をしているアリス。視線は伯爵の震える手に注がれている。


「そのように激昂されると倒れてしまいますよ。それに民……ですか。名ばかりの王子妃たる私に民などと。伯爵のお孫さんは私が気に食わないようでまだ3回ほどしか会っていませんのよ」


「名ばかりでもあなたは王子妃です。いえ王子妃だろうとなんだろうと構いません。騎士として魔法使いとして力があるあなたが皆を助けるのは人として当たり前では?」


「そうでしょうか?人は力があればそれを振るわねばならないのですか?しかも無償で?」


「事態が事態です。こんな事態を利用し人の娘を差し出せと要求しようとするとは……あなたは人としてそれで良いのですか?」


「あら、まだ言ってないのによくおわかりで」


「公爵にやらかした様子を見てれば妃候補の問題を解決しようとしているのはわかります」


「さすがは伯爵様。ですが一言だけ。やらかしたのは公爵ですよ」


 伯爵の怒りに満ちた目と静かなアリスの目がバチッと合う。







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