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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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11. アリス10歳①

 10歳になったアリスは真っ昼間からきらびやかな王宮のパーティ会場に一人立っていた。


 ……ヒソヒソと囁かれながら。


「あれをご覧になって」


「あれは10年ほど前に次女のアンジェ様がお召になっていたものよね」


 アリスが今着ているドレスは薄いレースが幾重にも重なったスカートに首元までしっかり覆われた淡い水色のものだった。彼女たちが噂しているように現在社交界の女帝と呼ばれている次女のアンジェが着ていたドレス。おしゃれが好きなアンジェは魔法を使って宝石のレプリカを作るのに夢中になっており、そのアクセサリーがバカ売れしている。


 当時非常に話題になったものの10年も昔のもの。カサバイン家は国一と言ってよいほどの富豪。新しいドレスが買えないなんてことはない。そうなるとーーーーー


「あの噂は本当のようですわね」


「そのようですわね」


 そう言ってアリスの方を見ながらクスクスと笑う。彼女たちだけではない。何人もの人が同じ視線をアリスに向ける。


 ーーーーーカサバイン家の汚点。親からも兄弟からも、そして使用人たちからさえも蔑ろにされている無能娘。


 ドレス一つで嫌な噂というのはどんどん広がっていってしまうものだった。例えこのドレスを纏ったアリスが一番美しかったとしても、ちゃんと昔のドレスに手が加えられたものだったとしても……。



「アリス」


 我関せずと言った態度でいたアリスを呼ぶ女性の声。振り返った先にいたのはガルベア王国王妃と皇太子オスカーだった。


「ご機嫌麗しゅう、王妃様、皇太子様」


 見事なカーテシーを披露するものの皆彼女の美点は見ているのに脳内でスルーだった。


「そなたの生家であるカサバイン家がいろいろと配慮してくれたおかげでこのように盛況です」


 今日のパーティは子どもたちのお見合いパーティみたいなものだ。政略的に結ばれる貴族が多いが、どうしても生理的に受け付けない人物が相手の場合、他に目を向ける者もいる。あとは他のもっと良い縁談に恵まれるかもしれないという家もたくさんある。そのためのパーティだった。


 必要か必要でないのかわからないようなパーティが開けるのはカサバイン家が金を出したからに他ならない。


 王妃はにこやかに言葉を発しているが、どこか自嘲気味だ。そしてにこやかな顔つきから一転して訝しげな視線に変わる。


「それにしてもアリス、そのドレスは……」


 扇を開くと顔の前で軽く振る。臭いのか?匂いなどしないが。思わずアリスは匂いを嗅いでしまった。


「あっ……ごめんなさい。それぞれ事情というものがあるものね」


 例えば家族の嫌われ者だから新しいドレスを買ってもらえないとか……他家である王家でさえ支援を受けているのにと目が言っている。


「次からは私に言ってね。皇太子妃予算から出せばよいのだから……」


 暗に王家に恥をかかせるなと言っている。かつ周囲にアピールしている。このみすぼらしい姿は本人のせいだと。まあ別にみすぼらしくないのだが。


 アリスは王の懇願により皇太子の婚約者になっていた。が王妃は面白くなかった。皇太子が生まれた時にカサバイン家を超えるような権力、能力を持てる存在にすると誓ったものの、まあそんなのは無理だった。皇太子は現在12歳。優秀で将来王になるのに不足な点はない。


 しかし、残念なことにカサバイン家の面々のような才能は花開くことはなかった。まだ12歳だからこれからだと王妃は思っているが頭の片隅では無理だとわかっている。


 別に彼らは権力に対する思いが強いわけではない。国にとって多大な貢献もしている。実力指揮力共に備わっているので高位についているだけ。味方にした方が良いということはわかっている。わかっているが一度敵視した存在を受け入れる度量は王妃にはなかった。


 王の懇願によって成り立った婚約。すなわちこの婚約はカサバイン家にいろいろと気を使わねばならないということ。本来ならば…………。


 しかし、相手は蔑ろにされていると噂の娘。


 ただでさえカサバイン家の娘など嫌なのに……。


 使用人にも侮られる嫁など……。


 せめて有能であれば……。


 カサバイン家の有能さが嫌でたまらないのに、有能である彼らのことを求めなければならない。


 様々な思いから王妃はアリスのことを歓迎するつもりにはなれなかった。むしろ冷たく接したり、時には嫌味を言うこともあった。


 カサバイン家の他の者に何かを言おうものなら凄まじい反撃にあうがアリスは何も言い返してこない。彼女を蔑んでも当主夫妻も兄姉たちも何も言ってこない。アリスは蔑ろにしても良い存在だと認識するようになった王妃。彼女は格好の餌食だった。アリスを蔑ろにすることでカサバイン家を見下せる気になれた。


 彼女の王家での扱いはお世辞にも良いものとは言えなくなっていた。それに王妃には……


「王妃様、皇太子様。ご機嫌麗しゅう」



 声をかけてきたのは赤銅色の髪の毛と瞳を持つ可愛らしい少女。


「あら」


 王妃の声が馬鹿にしたような声音から明るく優しい声に変わる。


「今日のドレスも素敵ね。ジュリア」


 王妃お気に入りのジュリア・エベレスク10歳だった。


 



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