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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

雪山のコスモス

作者: 壱原 一

裕福な家のお子様が行方不明になった。


お子様と言っても成人。一通りの学業を修められた後は自宅の庭で草花の手入れに丹精し、SNSを介して園芸家の某と親しくなった。


この某が妙なる色合いのコスモスを開発し、種を貰い受けられる運びとなり、某に会いに行きたいとご父君へ申し出たそう。


愛する亡妻との唯一のお子様。素性も定かでない某に会うなんてとんでもない。


にべもなく却下したところ、かねてからご父君の過保護に燻っていたお子様の反感が火を吹いた。こちらももう成人ですから…お前の為を思って云々…


かくしてお子様が家を跳び出し長らく経つ。


お子様やご事業への風評を鑑みて大事に出来ず、しかし辛抱も堪らず、極秘裏に某の周辺を調べお子様を見付け出すよう頼まれたのが、口の堅さで売っているこの道の玄人こと私である。


果たして某は空気の綺麗な山間に実在していた。家出後のお子様が某と接触した事も確認できた。そこで共々足跡が絶え、余所へ移動した節もなく、残るはしんと佇む目前の小高い山のみ。


途中経過を報告し、これから登ると伝えると、ご父君が重く沈んだ声で同道すると返す。早々に合流して入念に支度を整え、幾らか雪の積もる盛冬の山道へ踏み入った。


薄曇りに煙る陽光が、微風に舞い散る氷雪をきらきらと輝かせる。ずっと奥から、手前から、ざあんさらさらと雪が零れて枝葉のしなる音が立ち、あっという間に吸音されてどっしりした静寂が戻る。


黙々と進んだ先に、日当たりの良い窪地があった。夢心地の雲上の如き真っ白でなめらかな雪面に、こんもりと2つ雪山が並んでいる。


そこにコスモスが咲いている。


私が何を言う前にご父君が呻き声を上げ、雪を蹴立てて雪山へ駆け寄り憎々しげにコスモスを毟る。


日照や雪の保温性、地熱や分解の作用。どうした因果か知れないが、根を引いて散らされた雪山からほこほこと温かげな湯気が昇り、有機的な臭気を伴って黒々した土が現れる。


異色のコスモスを抱いて溶け崩れたお子様と某が居た。


鬼気迫るご父君の一瞥を受けて速やかに通報し、人探しを頼まれた第三者としてご父君と経緯を説明する。残された親密なやり取りや、麓の住居に窺える2人暮らしの様子から、事故と判じられ滞りなく処理された。


ご父君への愁傷と労わりの声は引きも切らない。


私は何せ口の堅さが売りなので、丁寧に抹消したご父君の訪問の痕跡や、ご父君に窪地へ先導された件などを決して漏らしはしない。



終.

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