ヲタッキーズ83 ヲタ活リスト
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
彼女が率いる"ヲタッキーズ"がヲタクの平和を護り抜く。
ヲトナのジュブナイル第83話「ヲタ活リスト」。さて、今回は世界の諜報機関に潜む裏切者のリストが流出w
リストを作った暗号の天才を暗殺しようとしのぎを削る各国の諜報機関、さらにリストにはヲタッキーズの名が…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 a bridge too far
秋葉原駅を新御茶ノ水方向へ発車して直ぐの松住町架道橋はオランダにあるアルンヘムの橋に似ている。
1944年9月、ライン川に架かるその橋は爆炎に包まれたが,今この橋もまた焔に包まれようとしている。
「キャー!鉄橋の上に爆弾女よっ!」
「何?JRに連絡しろ!総武本線を止めルンだ!」
「あ。スマホのボタンを押した…」
大爆発!
夕闇に沈む、美しいトラス構造の二重アーチの頂上で赤黒い爆炎が噴き上がる!異常を感知し総武本線は全線自動停車w
「監視カメラで私が見えてる?次に押すボタン1つで、この架道橋を崩落させられるわっ!」
「待て!何が望みだ?そのスマホを捨てろ!」
「お望みは…どちら?」
爆弾女がハラリとコートを脱ぎ捨てると、普通は全裸だが玉葱みたいに未だ着てるwそのベルトにずらりスマホが並ぶ…
直ちに外堀通りと昌平橋通りは全面閉鎖、万世橋のパトカーと神田消防の救急車&消防車がサイレンを鳴らし殺到スル!
大混乱だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「僕を出せって?」
「推しも一緒にと。ムーンライトセレナーダーは、池袋からコチラに急行中」
「テリィたん、あの爆弾女と何やったの?不倫?」
神田明神下の交差点に停車中の移動指揮車に乗り込むと狭い車内にオペレーターがヒシメく中でラギィ警部は呆れ顔だ。
「いや。昨夜まで宇宙にいたんだ。不倫なんか…」
「うーん3分あれば不倫は出来るから…爆弾女と有線電話が繋がってるけど?」
「保安用の電話?今どき受話器とはレトロだな。ウルトラマンさん電話ですょ、ジュワッキ!なんちゃって…ヲタクのテリィです」
「大学時代の行きつけの喫茶店は?」
「ライオン」
僕より先に答えたのは白のヘソ出しセパレートのコスプレ、ムーンライトセレナーダーだ。
あ。僕の推しのミユリさんは、スーパーヒロインで変身するとアラレもないコスプレ姿に…
実は彼女はアラサー←
「ムーンライトセレナーダー?やはり、秋葉原のメイドが変身スルと貴女になるのね?会ってお話ししたいわ」
「素敵。それならコチラに来て。今ならファミレスも深夜営業ょ。朝まで語ろ?」
「7分以内に来て。さもないと、架道橋を爆破スル」
爆弾女が放り投げると、保安用の電話セットは、遥か下の昌平橋交差点まで落ちて逝き、地面に当たり粉々に砕け散る。
「状況は?」
「架道橋全体にスマホが起爆装置になってるC4爆薬が12ヶ所、仕掛けられてます。あ、既に1ヶ所爆発でマイナスワン」
「構造力学に従って仕掛けられてます。トラス構造を良く理解してる。金属の横梁がアーチを支持してて…複数の爆薬を順序良く爆破すれば効率的に架道橋を崩落させられます」
報告を聞き、口をへの字に曲げるラギィ警部。
「何か良い話はナイの?」
「警部。スマホの会社がわかれば、電波を遮断出来ますが」
「ソレでしょ!で、キャリアは何処?」
「ソレが…実物を見て確認するしか手はなさそうです」
ソレを聞いてムーンライトセレナーダーは溜め息。
「空飛ぶ系のスーパーヒロインの出番かしら。ヲタッキーズ、聞いてる?」
「はーい、姉様。でも、姉様も池袋からは"飛んで"来たのでしょ?」
「私は、今から爆弾女と一騎討ちょ。じゃ気をつけてね」
ヲタッキーズは、ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団で南秋葉原条約機構傘下の民間軍事会社だ。
「ムーンライトセレナーダーこそ気をつけなきゃ。スーパーヒロインだって爆破されれば命が危ないょ」
「ありがとうございます、テリィ様。実は"彼"に逝ってもらおうかと思ってて」
「"彼"って?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
松住町架道橋の上を火星探査車が8輪で自走して逝く。
「スクリーン付きデバイス?その手があったわねwはい、画像は良好。私の方は?」
「とても美人に写ってるわ。ところで、テリィ様の不倫相手って評判が立ってるけど?」
「いいえ。テリィたんとは会ったコトもナイ。ましてや、彼の推しである貴女とも」
火星探査車は、架道橋上で仁王立ちの爆弾女の前で停車。
折りたたみアームを伸ばすとディスプレイが付いている。
(画面の中で)ムーンライトセレナーダーが微笑む。
「お名前を伺おうかしら?」
「私は…テレラ・ヤヌコ。ヲタクとリア充の2つの顔を持つ女」
「はじめまして、双面神。私は、ムーンライトセレナーダー。テリィ様の…推し」
指揮車内ではラギィがムーンライトセレナーダーをこずく。
「ヤヌコの目的を探って。貴女達を呼んだ理由を聞いて」
「…ねぇはじめましてょね?」
「いいえ。でも、私は貴女達のヲタク。特にムーンライトセレナーダーの必殺技"雷キネシス"に夢中ょ。敵を知り、己を知らば100戦して危うからズだわ」
「孫子の兵法?」
「良く出来ました」
ヤヌコは、ベルトに差したスマホを1つ投げ捨てる…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
傍らを落ちて逝くスマホを避けながら、ヲタッキーズのマリレとエアリは、昌平橋交差点の道路上に"浮いている"。
「現場到着。スマホ爆弾を視認。今からキャリアを確認します。ソレまで爆発させないで。ソレから、メイド服を下から覗くのも禁止!」
マリレはロケットガール、エアリは飛行呪文の使い手だ。松住町架道橋に張り付きスマホに接近、キャリアを確認スルw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一方、橋上に仁王立ちのヤヌコが吠える。
「私が出題スル。正解ならスマホを1台ずつ捨てる。スマホ・ストリップょ。でも、不正解なら私は脱ぐのをヤメて、そのスマホから起爆コードを発信スル。OK?じゃ貴女が間違えて良いのは何問まで?」
「松住町架道橋の崩落までなら…あと6問」
「正解」
少し意外そうな顔をしてスマホを1台捨てるヤヌコ。
「じゃ…だんだん難しくなるわょ?1972年、マークルとヘルマンがナップサック暗号を発表したけど…」
「あら?1978年だわ」
「正解」
潔くスマホを1台投げ捨てるヤヌコ。
「知は力なり。フランシス・ベーコンが提唱した、人間を惑わす4つの思い込みとは?」
「アイドルの語源にもなったイドラのコトね?洞窟、劇場、種族…」
フト考え込むムーンライトセレナーダー。次々と腰のスマホを投げ捨てていたヤヌコは突然険しい顔になり手を止めるw
彼女が手にしたスマホに"connecting"の文字が明滅…
次の瞬間!架道橋の橋脚部から赤黒い爆炎が噴き上がるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その瞬間"女の勘"でホントにタッチの差で難を逃れるヲタッキーズ。
噴き上げる爆炎を紙一重で避けて、再びスマホ爆弾への接近を試みる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「市場ょ市場!何てコトをスルの?どーして待てナイの?」
ムーンライトセレナーダー、激ヲコ←
「タダのテストじゃナイわ。心のテストょ。私が生涯賭けて築いたヲタ活のコレクションを託したいの」
「どーゆーコト?」
「チェスの発明者が王に献上した際に1マス目に小麦を1粒。2マス目に2粒。3マス目に4粒と、全マスに倍数の小麦を願い出た。さて、小麦は全部でどれくらいにナルでしょう?」
「小麦とチェス盤問題?2の64乗− 1ょ。楽勝だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヲタッキーズのロケットガールが、C4爆薬の起爆に使うスマホを調べる。スクリーンを覗き込んでキャリアを確認する。
「ベセルだわ!移動指揮車、ターゲットのキャリアはベセル社!」
「了解!周囲8kmのベセルの電波を遮断スル」
「シャットダウン…ナウ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一方、架道橋の上でストリップは続く。
「2の64乗?ムーンライトセレナーダー、じゃあ計算してくれる?最後のマイナスワンを忘れないでね」
「え。暗算で2の64乗を?」
「私に余裕があれば良いのだけれど…あいにく、私には時間がナイみたい」
ココでヤヌコは激しく咳き込む。
「暗算って…コレで正しいかどうか…」
「おっしゃって、ムーンライトセレナーダー」
「1844京6744兆0737億0955万1615」
瞬間、悪魔のような沈黙がアル。
「違うわ…不正解」
「待って。ソンなハズ無い。だって、全てSATOの量子コンピューター衛星"シドレ"が計算したのだモノ」
「ウソでしょ!行くわょ!」
ラギィ警部はじめ警官隊が、手に手に拳銃や短機関銃やロケットランチャーを携えて松住町架道橋へと飛び出して逝く。
「ねぇヤヌコ。なら、答えは何なの?」
「お終いょ。コレで必要な情報は全部なの…サヨナラ」
「待って!ヤメて…」
ヤヌコはスマホのボタンを押す…が、爆発しない。
スマホは"connecting"からの"no service"w
「ベセル社の基地局遮断、完了!」
「ヤヌコ、お前のスマホは死んだ!無駄な抵抗はヤメろ!」
「両手を上げて跪け!言う通りにしろ!」
殺到スル警官隊の前で両手を上げるヤヌコ。
その手には、最後のスマホが握られているw
「私の"ヲタ活リスト"を信じて」
その瞬間、橋脚から噴き出た赤黒い焔が橋を押し渡って逝く…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ヤヌコは第3度の火傷。弾丸が肺や胃に当たってる。もう長くは持たないンだって」
「テリィ様、いつお戻りに?」
「今朝。SATOの"死海3"でね」
SATO司令部に顔を出すと、ムーンライトセレナーダーに変身したママのミユリさんがいる。
僕が司令部に入って逝くと、ウレしさ半分&テレ半分で、右手が自然とオヘソを隠している。
「彼女の名前は、テレラ・ヤヌコ。秋葉原デジマ法に登録された"blood type BLUE"。異次元人です。デジマ法登録の他に半島と中華な国の市民権も所持。現在、ブラックサンデー社、通称BS社に勤務。国際諜報活動をするスタートアップです」
「え。ミユリさん、諜報のスタートアップなんてアルの?」
「ソレが…首相官邸にも頼りにされてるそうです。ウチも売り込んでみようかしら」
待て待て。ヲタッキーズのCEOは僕だから←
「でも、彼女はヲタ活コレクションを託すと逝ったょね」
「ソンなコトを逝って、私達を試したのです。内閣情報調査室に拠れば彼女はナルシストで反社会性人格。この事件からして、手の込んだ自殺の遺書を読まされてるみたいです」
「タダの手榴弾マニアなのかな?お騒がせな割には要求内容が貧困だけど」
ミユリさ…じゃなかった、ムーンライトセレナーダーも頭をヒネッてる。悩める白のヘソ出しコスプレ彼女。絵になるw
「ミユリさん。彼女は要求をかなえてるょ」
「え。どんな要求でしょう?」
「僕達と逢うコトさ」
第2章 諜報スタートアップ
海外諜報のスタートアップ"ブラックサンデー"社のオフィスは、中央通り沿いの高層タワーにアル。CEOを訪ねる。
「秋葉原には"リアルの裂け目"のアチラ側とコチラ側、さらにコチラ側には諸外国からの海外諜報員が溢れかえっています。ウクライダへの軍事侵攻で首相官邸はテンテコ舞い。そうした海外諜報員の監視業務の大半は、ウチのような外部の民間企業に委託されてます」
「御社は諜報機関?貴方はスパイですか?」
「違います。例えば、テレラ・ヤヌコは優れた暗号学者でした。MI-6を追われたトコロを弊社が雇った」
「英国情報部が彼を?」
「MI-6の暗号部門は、25才の天才数学者に委ねられました。ヤヌコは、マイクロフィルムの世界から抜け出せなかった。時代に取り残されたのです」
「ココでの彼女の仕事は?」
「データの解析です…正直に申しますと、彼女を気の毒に思いまして。30年間、国に尽くした彼女を惨めな境遇に置くコトは忍びない」
「彼女は、松住町で焔に飲まれる直前に"ヲタ活リスト"と叫んでいました」
「昔からある作り話ですょ。スーパーヒロインの二重スパイや裏切者のリストなんて」
「アキバのヤヌス神は、ヲタクとリア充の2つの顔を持っています」
「諜報の世界は冷酷です。殉職しても、本社の壁に名前のない星が飾られるだけ。ヤヌコは孤独な女性でした。最期ぐらいは、華々しく死のうと思ったのでしょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部。ルイナのラボ。
「…質問に正解すれば、スマホを1台捨てる。不正解なら爆発するわ…」
車椅子でゴスロリだけど、国宝級のIQを誇るルイナのラボに顔を出したら松住町架道橋の画像をヤタラ熱心に見てるw
「ああん。テリィたんは見ちゃダメ!your eyes onlyなの!」
「こんなトコロに置いとくルイナが悪いのさ。何何…え。ヤヌコの個人ファイル?オックスフォードを優秀な成績で卒業。卒業論文はシェイクスピアだって?」
「そーなの。暇潰しで集めた博士号が12コもある私ですら、全く縁のナイ文学の博士号を持ってるのw」
ソンな博士号がアルのか?
「ますます彼女が僕達を選んだ理由がわからない。特にスーパーヒロインじゃない僕だょね。あんな向こう見ずで突発的な行為をして、挙句に自分は死にかけてる、と逝うか死のうとしてる。あ、ココ。ボリューム上げて」
「…フランシス・ベーコンが提唱した4つの…」
「テリィたん。欧米では、多くの人がベーコンこそシェイクスピアだと思ってるわ。戯曲に暗号が隠されていて、ソレが作者の正体を示しているから。シェイクスピアの胸像の碑文にも暗号があって…」
その時"何か"が僕の頭を過ぎる。
「ベーコンの暗号か!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もうメイド服で空を飛ぶのはヤメない?エアリ」
「ってかパンツが丸見えだったwまいっちんぐマチ子だわ」
「ミユリ姉様だけコスプレってズルくね?」
ヲタッキーズのエアリとマリレがテレラ・ヤヌコの部屋へ入って逝く。神田台所町にアル西陽の当たる安アパート2F。
「あら?天井の火災探知機が壊れたママでブラ下がってる…まぁ!中には盗聴器?しかも、ウチのに似たmodelだわ」
「待って。壁の埋め込みスイッチのネジを開けたら…ココにも盗聴器。しかも、メイドインジャパン」
「マジ?」
「やっと身内のじゃナイのも見つけたわ。太平洋の向こう岸の国から来たペンギン型の盗聴器」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マリレとエアリは、SATOにお土産を持ち帰る。
「盗聴器は6つありました。4つの出所は判明。フランス、イスラエル、ロシア、国家安全保障局」
「ヤヌコは知っていたのです。そもそも諜報のプロは、自宅の火災探知機を外したママ放置しない」
「つまり…知ってて逆に利用してたワケか」
ムーンライトセレナーダーと一緒に報告を聞く僕。
「テリィ様。MI-6のヤヌコの解雇理由は、反社会性人格障害で、BS社のマレアの話と一致します」
「…にしても、盗聴器が6つもあるのはヘンだょ。内閣情報調査室は?」
「例によって、改めて連絡するって。時間を稼いで内部調整スル気ょテリィたん」
「マリレ。思い切って"ヲタ活リスト"って何だか知ってるか聞いてみなょ」
「確かに…謎はアルけど…犯罪かどうか怪しいわ」
「その判断は僕がスル」
マリレがハッとして顔を上げる。
ミユリさんは愉快そうな笑顔だw
「テリィ様。久しぶりのアキバ、懐かしいですか?」
「まぁね。ソレにしてもエアリ、万世橋の爆発物処理班が到着スル前に橋に取り付くナンて無謀だろ。誰の発案だょスーパーヒロインだって命は大事にしなきゃ」
「ソレが…マリレですょ」
ヲタッキーズの魔女担当は、ロケットガールを指差す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
テレラ・ヤヌコが担ぎ込まれた"外神田ER"。
「聞こえているかわからないけど、僕達への質問の件です。貴女は、ワザと不正解と逝った。僕達に何かを伝えようとしたンだ。ベーコンやマークルやヘルマンは、暗号だったんですね」
僕がつぶやくと、意識が無く横たわっているハズのテレラ・ヤヌコの心拍数が急上昇。
緊急ブザーが鳴り響き、看護婦と医者が先を争って飛び出して来てベッドに取り付く。
「吸入酸素濃度は?」
「正常。50%以上です」
「肺は異常ナシ。おかしい。こんなハズは…念のため、胸部のX線を!」
その時、僕は偶然、彼女の焼け爛れた人差し指が、サイドテーブルをコツコツと叩いてるコトに気づく。モールス信号?
「ペンを!誰かペンを貸して!」
「私のペンを使って、テリィたん!ファンなの、抱いて」
「あとで」←
ムダに巨乳な谷間に挟まってるフェルトペンを引き抜き、僕は病室のガラス窓にモールス信号?を正確に筆写して逝く。
「ルイナ?」
「OK。モニターしてる。テリィたん、も少し字はキレイに描けない?」
「ムリ!」
「嘘でしょ?アンタ、病院の備品に…弁償モノょ!」
ナース長と思しきオバさんが烈火の如く怒り狂って僕に挑みかかるのを巨乳ナースが文字通り身を挺して防いでくれるw
ありがとう、巨乳ナース!
「ルイナ、モールスだょな?僕、ボーイスカウトだったんだ。港145団」
「聞いて、テリィたん。ソレ、モールスじゃナイ。自らの酸素飽和度の点滅を同じ数値で循環させてる。彼女が指で叩く数字がキャリブレーションしてるの。この人、ヘルマンやベーコン以来の暗号の天才だわ」
「ルイナ。彼女は暗号学者ナンだ。ルイナの読みが当たってれば、彼女は既に僕達と会話を始めてるのか?」
「恐らく。でも、この手の暗号は100万通りはアル。私が今、この場で解読出来るかどうか…チェス問題みたいに」
「でも、アレは正解だったンだろ?暗号が鍵なら、ウソにだって理由がアルさ」
「昔、ロシア人が使った暗号がアルけど…」
「わ。レーザーポインター?」
何がどうなってるのか、僕のスマホのカメラからレーザーが飛んで、数値を描き殴ったガラスにマス目を引いて逝くw
「テリィたん。チェッカーボード式暗号ょ。メッセージの文字を数字に置換する、結構単純な暗号なの…先ず、使用頻度の高い文字から1234…ソレからアルファベット。解読出来たわ!"ヲタクに毒を盛られた"」
焼け爛れた顔の女は、薄く目を開け、ユックリと瞬く。
第3章 迎撃!MRIルーム
捜査本部。ラギィ警部から事情を聞く。
「テリィたん。テレラ・ヤヌコの血中にタリウムの痕跡があった。大きな声じゃ言えないけど、途上国の独裁者が政治犯に使う手ょ。釈放時に看守達と1杯やらせて釈放スルと、7日後には政敵は死んでる」
「え。じゃ爆弾女は、自分が死ぬのを承知で橋に来たのか?ソレじゃ自殺じゃなくて立派な殺人未遂だな。ラギィ、立件だね」
「YES。あぁ面倒クサ…あ、ゴメン。職務は全う致します。公僕ですモノ」
「何で彼女は当局に通報しなかったのかな」
「自宅には盗聴器が溢れてて、その上に毒も盛られてるのょ?ソレにヲタク独特の自己陶酔やパラノイアが加われば、鉄橋の1つぐらい吹っ飛ばしたくなるわ。誰が為に鐘は鳴る」←
「僕達なら自分を理解してくれるって踏んだのかな」
「カモね」
「うーん気が重くなるパターンだ」
僕はラギィに手を振り、ヲタッキーズの2人に声をかける。
「あ、テリィたん。内調もBS社も彼女のヲタ活には興味ナイって。リストの方も、そもそもソンなリストは存在しないの一点張りょ」
「でもヤヌコ自身は、どーやら惨めで孤独な老女どころか、伝説的ヒロインだったみたいょ」
「え。あのオバさん、スーパーヒロインなの?変身スルのかな?フィギュアスケートのレオタードとか?」
「何でフィギュア?まさかミユリ姉様に着せてるとか?…とにかく!2重、3重スパイだったみたい。最後は内調も彼女が敵か味方か見分けがつかなくなってたみたいょ」
「盗聴内容は教えてくれた?」
「盗聴器を中華な国に渡すと脅したら、この音声データだけくれました。流します…」
モニターから音声が流れる。
「"この回線は危ない。盗聴されている""報告書になる頃は俺は北京さ。金がいるんだ"…」
やれやれ。売国奴同士で高飛びの相談だw
「相手は、ドウェ・カータ。"地底ナヂス"の大佐」
「"地底ナヂス"?あの1945年のベルリン陥落後に幻の地底王国"シャンパラパラ"に逃げ延びたナヂスの残党?」
「スゴい。テリィたん良く知ってるね」
「創刊号から愛読してるオカルト雑誌"ラー"がネタに困るといつも特集してる。地底へのゲートは、白金台の自然脅威園にアル」
「自然"教育園"では?とにかく!この2時間後にドウェは"ペルソナ・ノン・グラータ"として神田リバー水上空港で逮捕されてる。今は、蔵前橋の重刑務所ょ」
「姉様、私が話を聞いてきます」
「ありがとう、マリレ。でも、2人で行って」
「姉様…"時間ナヂス"の私を疑ってルンですか?」
「保安上の措置ょ。SATOと結んだPMC契約3条2項にあるの」
「確かに彼女は知ってます。1945年の陥落寸前のベルリンで、製鉄所の地下に最後まで籠城した戦友でした。でも、だからこそ私になら何か話すハズです」
「テリィ様と一緒に行って」
僕は立ち上がり、マリレの肩を叩く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所。囚人との面会も画像越しだ。
「テレラ・ヤヌコを知ってる?」
「え?あぁあのクタバリ損ないのオバさん?」
「君、中華な国に逃げるため、彼に金を要求したょね?」
「昔の栄光を忘れられナイ困ったオバさんだった。今の会社の立場を利用して、ムダに情報を集めようとしてたわ。私は中華な国に売れそうなネタを売った。誰かの名前や、どーでも良い盗聴といった価値の低いガラクタ情報ばかりね」
「ヤヌコは、ソレを北京に売ったのかな?」
「知らないわ。私は情報を与え、大金を得ただけ」
「"ヲタ活リスト"の話は?」
「え?あのね。スパイの世界の常識だけど、今、話した事は全部サンプルなの。続きが聞きたければお金を払って。あと弁護士も通してね」
「最後のあがき?協力スル気がナイなら、今宵が人生最後の晩餐になるカモょ?国家への反逆は極刑。ソレを忘れナイで」
「命の恩人を死刑台へ送って平気で立ち去るの?ねぇテリィたん。コレがヲタッキーズなの?マリレの正体を歌おうか?ベルリン攻防戦じゃ色々やったクセに」
「あらあら。地獄へ靴ズレ?」
「…道連れ、でしょ?」
両脇を抑えられ、立ち上がるドウェ"地底ナヂス"大佐。
「マリレ!アンタ、誰のおかげで生きてられると思ってるの?ソレを忘れナイで!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日の深夜。"外神田ER"。
「今まで色んなスーパーヒロインを見てきたけど…何かワカラナイけど、彼女は何かが違うょミユリさん」
「テリィ様。恐るべき頭脳です。今際の際に、自分が毒を盛られたコトまで暗号にしてくれました」
「ソレも思いもよらない方法でね」
「私達に何かを伝えようとしたのでしょう。しかし、ナゼ誰もリストの存在を認めないのかしら」
「ソレと、ナゼ僕達なのかな。彼女は僕達の全てを知っていた。学生時代に通った名曲喫茶までね」
ソコへSATO司令部から宅配便wでナップサックが届く。
「ミユリさん、誰から?」
「ルイナからです。頼んだ本とベーコンに関する彼女の愛読書?コレ、読まないとイケナイのかしら…」
「あ。テリィたん、届いた?」
近くのモニターにルイナの画像がオン。
「コレ"ナップサック暗号"だと思うの」
「でも、暗号学者ならヘルマン暗号が解読されたことは当然知ってるわょね?」
「逆に、解読させたかった、ってコトはないかな」
"ナップサック暗号"は1978年発表の古い暗号だ。
「旅行で荷物を詰める時、1つのナップサックの容量は、僅か14kg。どの荷物にも重要性と価値の重さという変数がある。規定の重量内で、いかに価値あるモノを得るかが課題。コレが組み合わせ論の世界で言うナップサック問題。ねぇ松住町の橋の上で、テレラ・ヤヌコが歌った数字や、聞いて来た問題に、特定の機能や価値がアルとしたら…」
「僕が学生時代をムダに過ごした名曲喫茶の名前とか?」
「ソレ、立派な変数だから!もっと!彼女が橋の上で起こしたコトや言動を全て思い出して。他にも色々言ってたわょね?」
「橋を崩落させるのに必要な爆弾は6つ。ヘルマンの学説発表は72年なのに79年と偽った。ナップサック暗号の発表も1972年とか言ってた。チェス盤のマス目は64。あと"シドレ"が演算した2の64乗マイナス1…」
その瞬間、ルイナが閃くw
「コレは"チェッカーボード式暗号"だわ!テレラ・ヤヌコは、死ぬ覚悟はしてたけど、こうして生き残るとは思っていなかった。だから、数字にアルファベットを当てはめていくと…」
モニター画像がルイナから意味不明な文字列に切り変わる。ルイナが、更に何文字か描き足して…今度は僕が閃く番だ。
「ん?文字列の中にある、このaに丸をつけて@にしたら…ねぇ!コレは誰かのメアドじゃないか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミニコミ誌からアキバ発の巨大メディアへと成長した"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の敏腕記者のメアドだw
「あのね。私のトコロには、週に5人は特ダネを売り込む人が来るの。テレラ・ヤヌコは、その"6人目"ょ。私の名はボーン・"ワラッタ砲"・パーン」
「で、彼女は何を?」
「確か、国際諜報活動についての暴露ネタだったわ」
ワラッタの本社ビルは、中央通り沿いにある高層ビルだ。
ミユリさんは、最上階にあるボーンのオフィスを訪ねる。
「ヤヌコは、諜報業務の民間企業への外注が進み過ぎてるコトに違和感を覚えてた。そうした多国籍企業の中には、2重3重スパイを働いてる会社が結構あったから」
「例えばブラックサンデー社とか?"ヲタ活リスト"の話もしてた?」
「え、えぇ。まぁ少しは…」
突然ボーンの高飛車な態度が消えてオドオドw
「ボーンさん。お持ちの取材メモやノートを渡していただけますか?」
「拒否しても令状を取って来るンでしょ?」
「その時は、引き出しから何から一切合切運び去るコトになり、下手スルと数ヶ月はお返し出来ません。何しろ人手不足なモノで」
「ソレは勘弁して。欲しいモノは何?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部に併設されたルイナのラボ。
「あら?ミユリ姉様…じゃなかった、ムーンライトセレナーダー。わざわざ変身までして、私のラボに何の御用?」
「あ、ルイナ。お邪魔してるわ。テリィ様がルイナのトコロにあるテレラ・ヤヌコのファイルを読んでおきなさいって」
「え。テリィたんが?何でょ?!」
ナゼか僕の名が出ると、この2人はメラメラするw
「まるでスパイ小説だわ。テレラ・ヤヌコは、半島の軍事境界線を4度越え"喜び組"にも潜入してる。スゴ過ぎるわ。そんな生活を30年も続け、身を危険にさらしたのに、誰も彼女に関心を持ったり、知ろうとしない」
「今日の姉様、少しヘンょ?架道橋をぶっ飛ばそうとした爆弾テロリストに同情?」
「私達スーパーヒロインが命を賭けて仕事をスル意味は何かしら。リア充な人生が虚しくなる気持ちが良くワカル。自分って存在は何だったの?なぜ生まれて来たの?って」
ココでルイナは必殺の一言を放つw
「姉様、わかるわ。きっと"年を取ると"余計そう感じるのね。私にはワカラナイけど」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ。ミユリさん?未だ、テレラ・ヤヌコのお見舞いで"外神田ER"だょ。あれ?警備員は何処かな?」
僕は、ケータイの頃から通話拒否でメールonlyだけど、ミユリさんだけは別だ。何しろ彼女は僕の"推し"だからね。
「さっき、泌尿器科で喧嘩があったのょテリィたん」
何と、いつぞやの巨乳ナースが目の前に!眼福←
「テリィ様、どうしたの?」
「いいや!とんでもない…じゃなかった、なんでもない!テレラ・ヤヌコの警備員がいないんだ。喧嘩騒ぎがあったらしくて」
「警備員が持ち場を離れた?テリィ様、直ぐ別の警備をお呼びください。私も今から参ります」
「いいや、無理に来なくても…」
突然、電話が切れる…切ったのではなく不通w
「電話が切れたけど?」
「まさか…あら。発信音もしないわ」
「激ヤバ」
灯りの消えた病院の廊下を、誰かが歩いて来るw
「ねぇよく聞いて。今すぐ患者を移そう」
「ムリ。でも、私と2人で逃げるのは?南の島が良いな」
「絶対ムリ…あぁソンな胸の谷間を見せてもダメだょ!彼女に毒を盛った誰かがトドメを刺しに来ルンだ!」
「テリィたんにはスーパーパワーはナイの?」
「無茶逝うな。タダのヲタクだ」
「じゃコッチに来て!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"女"が入って来た時…病室はモヌケのカラだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「この地下通路は、普段は使われてないの。太平洋戦争の時の防空壕の跡らしいンだけど、今は芸能人がお忍びで入退院スル時とかに使ってるわ。この前も下り坂48の◯◯が妊娠した時に…」
「え。◯◯って誰?」
巨乳ナースの案内で病院の地下ダンジョンに逃げ込む僕達。
僕はヤヌコのストレッチャーを推…押し巨乳ナースは点滴。
後ろから"女"が追い上げて来るw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ダメだ!追いつかれる!」
「テリィたん、コッチ!出来れば貴方と2人だけで南の島…」
「ソレはCM②の後で」
巨乳ナースに逝われ飛び込んだ部屋は"2nd MRI room"。僕がストレッチャーを押し込む間に巨乳ナースは何やら…
「袋のネズミね」
「今ょ!MRI、active!」
「ぎゃん!」
次の瞬間、全身黒タイツの女は、巨大な円筒形の装置の底?に文字通り大の字になり叩きつけられる!見えない力?何?
「ローレンツ力ょ。コレが私のスーパーパワー」
巨乳ナースが胸を張る。
第4章 サイリウムを灯せ
「あのね。ローレンツ力は、powerじゃなくてforceなの。全くコレだから巨乳は」
モニターの中でルイナは怒っているw
「全く、私がゴスロリはともかく、車椅子でさえなければ、私が私の知の"force"でテリィたんを救ったのに!次は、絶対私がテリィたんを救う!」
「まぁ僕が死にかけてる人を命がけで守るなんて、もう2度とナイさ。全くヲタクらしくナイな。でも、あの時は力が体の底から湧いて来た。ヲタクだってヤル時はヤルんだね」
「…ミユリ姉様みたい」
さっきまで怒ってたルイナがポツンと呟く。
「ミユリさん?何?」
「ミユリ姉様が変身スルのはナゼ?コスプレしたいからだと思う?」
「テリィ様!」
その時、病室にミユリさんが駆け込んで来て…キス←
「大丈夫。僕なら大丈夫だょミユリさん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はいはい、わかったわ。5時に"マチガイダ・サンドウィッチズ"のコーヒーバーね?」
敏腕バーン記者が本社タワービルのエントランスを、歩きスマホで抜けようとスルとメイド服の2人組が行く手を阻む。
「やっぱりムリみたい。後でかけ直すわ。貴女達は…」
「ヲタッキーズです。先ほど、テレラ・ヤヌコが襲撃され、殺されかけました」
「え!で、でも、メモやメールは全部渡したハズょ!」
「貴女自身が次の襲撃ターゲットになる可能性があります。今から保護するのが1番かと思いまして。ご同行願います」
「私に選択肢は?」
回答はニベもナイ。
「ありません」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蒼穹を指してそびえる摩天楼の屋上ヘリポート。
「マレアCEO。ヘリなら来ないわ」
「あら。ムーンライトセレナーダー?ナゼかしら」
「御社が差し向けた刺客を逮捕した。でも、ナゼなの?ほっとけば毒と火傷でヤヌコの命はあと2日だったのに」
「拾ってやって10年も喰わせてやった。その恩も忘れて、あのオバさんったら趣味の"ヲタ活リスト"とか作って遊びだした。あぁするしかなかったわ」
ミユリさんの…鉄拳w
吹っ飛ぶマレアCEO←
「私のTOは、もう少しで死ぬトコロだった」
「テリィたんが病院をウロついてたのは予想外だったわ。とにかく!これはアンタの問題じゃない。私の問題でもない。もっと大きな問題なの。奴の"ヲタ活リスト"は、中途半端なモノじゃない。キーパースンが選び抜かれてる。あのリストが表に出れば、世界の諜報機関が活動不能にするほど脅威なの」
「なのに、なぜリストの存在を認めないの」
「そんな危険を誰が犯す?私は嫌ょ。首相官邸も逃げ腰。私が、警察やSATOに拘束されないのは、官邸が貴女達に手を回してるからょ」
「まさか」
「因みに、毒の件はウチじゃないわ。でも、奴がリストをまとめたのが事実で、記者にリークしたのも事実なら、奴が死んでくれればありがたいと思う人間はたくさんいる」
「貴女は、アキバから出れない。覚えてなさい」
ところが、遠くから聞こえて来た微かな爆音は、いつの間にかUH-60"ナイトレイド"となって飛来し強行着陸スル。
「秋葉原のヲタクに何が出来るの?アンタ達の聖地、秋葉原でヘリ1機、着陸するのを止められないじゃない!」
ミユリさんはヘリに乗り込むマレアの背中を指鉄砲で撃つ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバーに浮かぶ朽ち果てた屋形船。
「ご不便で申し訳ありませんが、必要なコトなので」
「ねぇ!一体何なの?花火大会には未だ早いわ。スマホだけでも返して」
「安全のためです。GPSが入ってるので」
「私が危険なのは、ソチラのせいでしょ。記者や市民が憲法で守られてる権利なんて、どうでも良いのね」
ヲタッキーズに喧嘩を売るのは"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の敏腕記者ボーン・"ワラッタ砲"・パーン。
「ボーンさん。美容院や今夜のデートがフイになったコトには同情スル。でも、その態度は愚かに見えるだけ。私達が、どれだけ貴女の命を大事に思うか、貴女にわかるハズがない」
断言するマリレ。傍らでオヤオヤと逝う顔のエアリ。
ボーンは、ハンドバッグを手に立ち上がりトイレへw
「私は…いつもの気さくなマリレが好きだな。今のは、少し怖かった」
「ごめんね、エアリ」
「良いの。大丈夫?ミユリ姉様に代わってもらう?」
「平気ょ。ただ…秋葉原に来た時、自分が何かの1部になれた気がした。初めてソンな気がしたの。嬉しかったし、やりがいも感じたわ」
「過去形?」
「ココ数週間、いつも自問自答してた。ウチは、5世代前から続くプロイセン軍人の家系なの。義務、名誉、忠誠。ソレが全てだと教えられて来た」
「秋葉原に来て変わった?でも、マリレは松住町架道橋で危険を顧みず、飛び出して逝ったじゃない…貴女、ドウェ・カータとやり合ったそうね」
「ドウェとの間には、少し複雑な事情があるの」
「同じ1945年にベルリンを脱出した仲間だから?彼女は"地底ナヂス"でしょ?」
「ウチは、独裁者が現れる遥か前からの軍人なの。ソレに私は国防軍だけど…確かに、今は全てが複雑に見えるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その屋形船の様子を双眼鏡で伺う誰か。
「護衛は2人ね」
「YES。2人共スーパーヒロインだから、相手にとって不足はナイわ。で、生かしておくのは…」
「記者だけ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部のラボに顔を出すと、車椅子のルイナはモチロンいたが、お抱えのストリート系ハッカーのスピアがいる。
「あ、テリィたん。爆弾魔のヤヌコの容体は?」
「スピア、ソレが無事ナンだ。医者も驚いているょ…で、思うんだけど、彼女の願いを叶えてあげたいと思わないか?」
「思わない。彼女の目的を理解スルのも無理」
「うーんミユリさんと僕は選ばれちゃったからな」
ココで車椅子の超天才ルイナが話に割り込む。
「私は、自分の将来を見ている気がするの。自分が死んだ後って考えない?自分の論文や理論がどうなるか…私、テレラって割と賢いと思うのょ」
「ルイナもね」
「ありがとう、テリィたん」
ヤタラ率直なルイナ。今日だけか?
「ヤヌコは、物の見方がスゴい。僕には見えないモノが見えてる気がスル…あれ?コレはもしかして!スピア!」
「はい?」
「松住町架道橋のワイヤーフレーム、モニターに出してくれるかな?」
「はいはい。こんな感じ?」
「回転させてくれ。あ、フェルトペンを借りるょ。この爆薬とコレ。ソレとこの爆薬。次は、横からのアングルを出してくれるかな?」
僕は、画像の中の爆薬をマーキングして逝く。
「スピア!今度は横に倒して90度、回転させてくれ」
「胃部レントゲンみたいだけど、大きく息は吸って止めなくても良いの?ねぇコレ、何?ルイナ、わかる?」
「何にもヒラメかないwねぇ。ソレより、もしかして私、いつも今のテリィたんみたいな顔してる?ショック」←
「OK!スピア、ココに等間隔で5本、横線を引いてくれ。そして、左端にト音記号。コレは、ピアノで習ったハ長調の音階だ」
「ソレが何?何か意味がアルの?犯人はピアニスト?」
「うーんソコまではわからないな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その足で蔵前橋重刑務所を訪れ、ドウェ・カータと会う。
「女囚って萌えルンだけど、貴女が協力すれば、最高裁判事も善処するって。"国家保安への重大脅威"という"肩書き"さえ取れれば、死刑を免れるカモ」
「終身刑ってコト?もっと何とかしてょ」
「とにかく、ココで長生きしてれば、いつか秋葉原を裏切ったヲタクも許される時代が来るカモしれない。で、ヤヌコに毒を盛ったのは君?」
「中国。いや、イスラエル。ロシアかイギリスかもしれない。好きなのを選んで」
「そっか。死刑の前に会おう。さよなら」
「ま、待って!実は。テリィたんの言う通りなの!確かに奴は"ヲタ活リスト"を作ってた」
「作ってた?完成してるの?」
「YES。いつか、誰かが作るなら、自分が作ると言ってたわ。確かにヤヌコは切れ者だったけど…病んでた」
「で、リストは何処に?」
「そんなコト、奴が教えるワケないわ。でも、恐らく私は載ってる。で、あのリストに載った者は、リストの抹消を望むから、殺すなら即効性の毒を使うと思うの」
「つまり…犯人は抹消を望まない者ってコト?」
ドウェは、僕を指差す。
「テリィたん。マリレに伝えて。マリレが思うより、アタシは良い戦友だって」
「何のコトだ?」
「マリレには、ソレでワカル。ワカラなければソレまで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朽ち果てた屋形船の中でマリレはカップ麺をススるw
「私、もう寝るわ」
囚われの敏腕記者が立ち上がるや突然停電。真っ暗←
マリレとエアリが音波銃を抜く。
呆然と立ち尽くす、ボーン記者。
「ただの停電じゃない。スマホが圏外になってる」
「妨害電波ね。電気を止めた奴がいる。応援も呼べないわ」
「ボーンさん。貴女はバーカウンターの影で伏せてて。御影石で頑丈だから…」
がしゃん!
マリレの言葉が終わらぬ内に、窓ガラスを割ってM-24型の柄付き手榴弾が投げ込まれる。辺り一帯に蒸気を噴き出す。
「サイキック抑制蒸気?パワーが使えないわ。銃撃戦ょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1回りしてルイナのラボに戻るとスピアと2人で実験中だw
「次。グランドピアノ…次、パイプオルガン…」
色んな音色の音階を流しては2人で頭をヒネっている。
「あ、テリィたん。152通りの音色で118通りの音楽暗号を試してるトコロなの」
「タブ譜にしたり、チューニングを変えたりしたけど…」
「うーん自分で逝うのもナンだけど、正解からスゴいスピードで遠ざかってる気がスルな」←
僕は、頭をポリポリとかく。その時、スピアのスマホが…
「あ。ミユリ姉様?え?テリィたん?ココにいるけど」
「あ、ミユリさん。今宵は僕の元カノ会の会合で…え?何?スピーカーにスルょ」
「SATOのセイフティハウスにいるマリレ達と連絡が取れないのです」
何となくヤバめの展開だw
「神田リバーの屋形船だっけ?直ぐ逝く。現地集合で!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
屋形船は、神田リバーにつき出した、水上バス専用の浮き桟橋に係留されている。
その桟橋上を忍び足で屋形船に迫る女のシルエット。手に音波銃が握られている。
黒レオタードの女暗殺団は、猫のしなやかさで屋形船に乗り移り船内に飛び込む!
どきゅーん!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕が飛び出した後のラボ。
「ねぇスピア。ヤヌコの言動や選択には、常に表と裏の2つの意味があったと思うの」
「ヤヌスの双面神ね?」
「つまり、コッチの情報が増えるほど、相手も正体を現す。敵を知り己を知れば100戦して危うからズってね」
超天才だけど、車椅子のルイナの話し相手は多くない。
だからストリート系ハッカーのスピアの存在は貴重だ。
「さっきの数字はメアドだった。だから、今回は本人を示すと勝手に思ってたけど…もしアドレスの方だったら…ねぇスピア。もう1度、ヤヌコのメールボックスを見せて」
「こんな感じ?」
「あら?何か妙だわ。コレを見て。何でこのファイルだけ、容量が3倍もアルの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突入した黒レオタードの先頭がキリキリ舞いして倒れる!
後に続いた3人はヲタッキーズと音波銃で銃撃戦を展開w
「エアリ!援護をお願い!ボーンを避難させる!」
「了解!行って!」
エアリが立ち上がって音波銃を乱射!
黒レオタードをもう1人、撃ち倒すw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボの解析作業も急ピッチで進む。
「何でこんなに重たいの?余分なコードが含まれてるとか?」
「開いてみるしかナイわ。スピア、開いて」
「え。スタンドアローンにして…うわぁ…果てしなく続く0と1の数列だわ」
目の前を0と1が無限に流れて逝く…
「待って。止めて。ベーコンの暗号だわ。AとBを5つ組み合わせて1つの文字を表すの。その文字を並べて、メッセージを送る暗号ょ。で、ココで言うAとBは…」
「1と0ね?」
「YES。その調子ょ続けて」
スピアのPC画像の中で文章が出来上がる。
「"ヲタ活リスト"はメールボックス」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あぅ!」
エアリのメイド服を殺人音波がかすめるw
暗視装置がアルだけ黒レオタードが有利←
「ヲタッキーズのメイド、降伏しろ!」
「エアリ、お待たせ」
「え?うわっ!」
瞬間、狭い屋形船の船内に"光のビッグバン"が現出!
暗視装置をつけてた黒レオタードはひとたまりもナイw
「ギャー!目が、目が!」
「ムーンライトセレナーダー?姉様、助かりました!」
「マリレは?ボーンさんは何処?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボの解析作業も大詰めだ!
「ヤヌコは、ボーン記者にリークする代わりに、彼女のボイスメールに侵入し、内緒でアカウントを作成した。だから、ボーンはアクセス出来ない。暗号キーを知らないから」
「暗号キー?」
「テリィたんが見つけた音階。今なら、ボーン記者のアカウントにアクセス可能ょ」
スピアがボイスメールに電話スル。
「はい。コチラは"ワラッタ砲"ボーン・パーンのボイスメールです。私へのタレコミはコチラ…」
「ルイナ。さっきのテリィたんの音階!」
「ドイツ語で読むわょ!ツェー、デー、エー…」
果たして、ボイスメールのファイルが開く。
「私の"ヲタ活リスト"にようこそ。私の人生を賭けたヲタ活のコレクションを貴方に託します。今から内通者の名を読み上げます。全てが露見すれば"リアルの裂け目"のアチラとコチラで、合計7つの国の諜報機関が完全に崩壊スルでしょう。MI-6のリチャード・コリンズは、ロシアに情報を流してる。ロシア対外情報庁のアンドレイ・ゴルフは、韓国のスパイ。フランス情報局ローレル・ダッパは、CIAのスパイと不倫している。ヲタッキーズのマリレはナヂスの復活組織"第3.5帝国"のスパイ…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「姉様!ボーンさんはマリレが安全な場所に…」
「だから、何処?」
「コッチです!」
黒レオタード団を後ろ手に縛り上げて畳に転がしたムーンライトセレナーダーとエアリが屋形船の船外へと飛び出すと…
「マリレ!」
ボーンが揺れる浮桟橋の上に跪き、下を向いている。彼女の背後に立つマリレはボーンの後頭部に音波銃を当てているw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
SATO司令部。尋問室。
「何処かの年寄りがボイスメールを吹き込んだ。デッチ上げかもしれないのに、ソレを聞いた途端、信じるんですか?テリィたん?ミユリ姉様も?」
「マリレ。貴女は、ボーンさんに音波銃を向けていたの」
「黒レオタード団から遠ざけようとしただけです」
「エアリを見殺しにして?邪魔なボーン記者を消そうとしたのでは?」
「違います」
「マリレ。残念だけど、明日には私生活を洗いざらい調べるコトになる。銀行口座にクレジットカード。一切合切ょ。だから、歌うなら今しかないの。時間を無駄にしないで」
「姉様…」
「マリレ。あの松住町架道橋での行為は、勇気じゃなくて、単なる時間稼ぎだったの?そんなコトして誰が喜ぶの?」
「誰が喜ぶと思いますか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
蔵前橋重刑務所のメインゲートが開き、車列が出発…
「止まれ」
正面にはロケットランチャーを構えた特殊部隊がいる。
車列は、鋭い音を立て急ブレーキをかける。追突寸前w
「SATOだ。"地底ナヂス大佐ドウェ・カータ"を引き渡せ」
「何?今、ドウェは内調の管轄下にあり、コレより移送するトコロだ」
「首相官邸の命令だ」
その頃、先頭から何台めかのSUVの中では…
「助けて!私をSATOに引き渡さないで!」
「うるさい!静かにしろ!…何で停車したンだ?」
「取引したわょね?私を"地底王国シャンパラパラ"に亡命させる約束でしょ?」
バックドアをバンバン叩かれ…開けるとヲタッキーズ。
「Hello、大佐殿。貴女はヤヌコに毒を盛り、リストを暴露した。コレだけの騒ぎを引き起こしておいて、張本人の自分だけチャッカリ"地底王国シャンパラパラ"に亡命スルつもり?」
「"国家への脅威"で無くなれば、政治的亡命で引き取ってもらえると思った?」
「だ、誰がソンなコトを?」
エアリの背後から、後ろ手に手錠をかけられたマリレw
「マリレ…このビッチメイド。よくも…9ヶ月ょ。アンタのコトを私は黙っていたのに!アンタは、たった5分絞められただけで自供したの?」
「貴女は、黒レオタード団を差し向け、私を殺そうとした」
「違う。ボーンを消そうとしたの。マリレ、本来は貴女がヤルべきコトだった」
「黙って、ドウェ。何も言わないで。もうたくさんなの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"外神田ER"。
容体は急変し、緊急ブザーが鳴る中、慌ただしくドクターとナースが駆けつける。しかし、全ての数値が下がって逝く。
「ヤヌコは"ヲタ活リスト"を作るコトで生き甲斐を取り戻そうとしたのね」
「そして、ソレが裏目に出た」
「でも、この死に方はヲタクとして本望だったと思う」
SATO司令部で全てをモニターしながらルイナがつぶやく。
「つまり、彼女は秋葉原でヲタ活に復帰したのょ。リア充しながら組織でヒッソリ死ぬより、ズッと幸せだと思わない?ねぇスピア」
「でも、彼女のデスクワークも見事だったわ。すごい頭脳だった」
「だから、秋葉原に来て"勇者"になったの。死をも恐れないリアルな"勇者"にね」
ドクターが首を振って管を抜くと、肉体から力が流れ去り、やがて、安らかな死が訪れる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「テレラ・ヤヌコか。話を聞いている内に、他人とは思えなくなった。親近感スラ覚えたょ。きっと、自分のヲタ活は無駄じゃナイ。無駄な人生では無かったってコトを、僕達に伝えたかったんだ」
「テリィ様。私達2人がかりで、ソレがやっとわかったような気がします」
「ミユリさん。アキバの古い詩を知ってるかな」
"死にゆくヲタクにサイリウムをともせ"
彼に、荒ぶる現場に生きる意志を与えよ。
しかし、死神は答えた。
あのヲタクは、既に選ばれたのだと。
そして、彼は逝き、現場に沈黙が広がり、
静けさと安らぎと眠りのトバリが訪れた。
そして、彼方でmixが鳴り響いた。
「素敵ですね。私も死ぬ時は、ただ安らかに逝きたいな」
「僕は…安らかに逝くより、明日には明日のヲタ活がある、だから、今は休もうって感じかな」
珍しくエアリが話に割り込む。
「そぉ言えば"マチガイダ・サンドウィッチズ"のYUI店長が、お2人のコトを、いつか言っていました」
「え。何て?気になるな」
「いつもテリィたんとミユリ姉様…どっちも正しいって」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"スパイのリスト"をテーマに、リストを作った暗号ヲタク、彼を雇った諜報のスタートアップCEO、リストを託された敏腕記者、ヲタッキーズ裏切りの真相を知る"地底ナヂス"の大佐、ついに裏切者?が出るヲタッキーズ、暗号に挑む超天才とストリート系ハッカーなどが登場しました。
さらに、暗号の天才の孤独な老後などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、ほぼコロナ以前に戻りつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。