第51話 尊厳をかけた闘い
マシューは一度自分から離れかけた悪霊を強制的に制御して、その怨念を糧に身体を再生させた。
グリムがピンピンしているのを見て、露骨に焦り、再びこの島ごと消し去ろうと上空へと飛び去ろうとした。
「あの女……! 未だにしぶとく正気を保っていたか……!」
マシューの頭上に一瞬で迫る影があった。
「そう何度もセコイことさせるかぁ!」
ボルクスが両手を組んでハンマーのようにマシューを殴りつけ、地表に叩きつけた。
地面に這いつくばるマシューを、ジークから生えた尻尾が巻きついて拘束する。
「クソがあああぁぁぁああ……!!」
「クソはテメーだボケエェーーッ!!!」
追い詰められ、怒りの形相で叫ぶマシューに、ジークは怒りの拳を叩き込み、そのままマシューと殴り合いを始めた。
ジークとマシューの殴り合いに、上から降りてきたボルクスも参加して、二人かがりでマシューを怒涛の勢いで殴り始めた。
「すごいわねあの地元の人、あの闘いについていけるなんて……」
ボルクスの闘いぶりを見て感心するグリムに、ジャンヌは首を振った。
「地元の人じゃないの彼は、ボルクスっていう名前で、ジークと同じ英雄よ……絶対死なせたくない。どうやってマシューから悪霊を引き剥がすの?」
その言葉に、やはりグリムはジャンヌが生前見せなかった何かしらの感情を感じ取ったが、詮索はしなかった。
レインもやはり、ジャンヌが何かしらの感情をボルクスに寄せていることに気づいたが、口には出さなかった。
「漁師が網で魚とるみたいに物理的に引き剥がすのよ! 見ればわかるわ! 必ず、私が全員成仏させてみせる!」
グリムが鼻息をフンと鳴らし、手のひらと拳を突き合わせた。
マシューの力を目の前にしてもなお、自らの力を信じ、悪霊を全員成仏させると豪語するグリムに、ジャンヌもレインも、とてつもない頼もしさを感じた。
ジャンヌはグリムと共闘するのは初めてではあったが、漠然とした安心感があった。
「ただし、物理的に引き剥がすには、私が直にマシューにしばらく触れる必要がある。ジャンヌ、レイン、あなたたち二人は、あの闘いに加わって、時間を稼いで欲しいの」
ジャンヌとレインがそれぞれ無言で頷き、ボルクスとジークへと加勢しに行った。その後をやや遅れて、グリムが行く。
ジークの尻尾は既に切断されていたが、それでも二人は驚異的な粘り強さを発揮して、なんとかマシューを食いとどめていた。
「四人で四肢を封じてッ!」
最小限の指示、ボルクスとジークは、グリムの狙いを知らなかったが、ジークは無条件でグリムを信じ、マシューの片足を両腕を回し強く掴んだ。それを見たボルクスも、ジークに続いてマシューの片足を掴んだ。続いて来たジャンヌとレインも、それぞれ両腕の動きを封じた。
「放せ雑魚ども! おのれおのれおのれえええええ!!!!!!」
マシューが爆発波を起こしたが、誰一人として欠けることなく、マシューの四肢を封じたままだった。そこに、グリムが、光り輝く手をマシューの胸に突っ込んだ。
「父神オーディンが娘、仮面の守護の名を冠するヴァルキリー、グリムゲルデの下にここに誓う。生前の因果によって悪霊となり、未だこの世に留まり、彷徨う不浄なる魂よ」
グリムが詠唱を始めた。豪快な性格であったがグリムが、美しいヴァルキリーとしての姿を晒した。
「一度私に負けた雌が、今更くだらん勝機を見出して楯突くんじゃねえええ!」
マシューが一つ目から、黒いマナの光線を放った。一度ボルクスは、グリムの安否を疑ったが、グリムは黒い光に飲み込まれてもなお、詠唱を止めなかった。
「私が死後も続いた長きにわたる苦痛と恐怖を終わらせよう。因果を背負い、心を癒し、死後の世界へと導き、全てを終わらせよう。邪悪なる力により囚われし魂を解放し、本来在るべき場所へと還し、安寧を与えよう。救いの手はここにある」
黒いマナの光線が激しくなっても、グリムは耐えながら、詠唱を決して止めなかった。
「苦痛に安らぎを、恐怖に終焉を、心に安寧を、憎悪と怨嗟に救済を、魂に解放と導きを、それら全てを私が与えよう。再び人として生まれ、幸を享受するために、奪われた生と尊厳を取り戻すために、共に歩もう。私の魂と私の行く末は、汝らと共にある」
ヴァルハラもオーディンも消え去っても、人間の魂を導く役目を全うしようとする、神々しく、美しく、気高いヴァルキリーの姿がそこにあった。
「貴っ様ああああああああアアアアアアアア!!!!!」
マシューが自ら四肢を一度切断して再生させた。強引な方法で拘束から逃れ、グリムと他の四人を滅多打ちにして引き剥がす。
「よっしゃあああぁぁぁぁ!!」
グリムが、ヴァルキリーとしての振る舞いから、本来の豪快な性格に戻り、吹っ飛ばされながらもデカイ声を張り上げた。グリムの手には白く光る縄のようなものが握られている。
その縄はマシューの胸元から生えており、反対側はグリムのへその辺りから生えている。引っ張ればマシューから、悪霊を物理的に引っこ抜けるということを、他の三人は容易に理解できた。
「あいつが食らった霊魂を! 全て! ここで! 一気に引き剝がすわ!」
グリムが素早く、自分の胴体に光る縄を巻きつけ、後ろに倒れ込むようにして縄を引っ張った。
「ぬ、ぬおおぉぉおおお……!!」
マシューも腰を深く落として、グリムが引っ張る力に対抗し、光る縄が真っ直ぐ張った状態になる。
グリムの前に、ジャンヌ、レイン、ジーク、ボルクスが列をなし、グリムと同じように光る縄を引く。
力と力の激突ではなく、引き合い。絵面は互いに縄を引いているだけのものだが、その場にいる全員が身体中から力を振り絞っていたために、全員分の闘気がその場に満ちて、島全体が揺れるような気を放っていた。
力を込めて縄を引きながらもジークは、声だけ向けてグリムに聞いた。
「おいグリム! 大丈夫かこれ! 千切れたりしねぇんだろうな!?」
「大丈夫! 千切れたら私が死ぬだけよ! あと引き合いに負ければ、私の魂が引きずり出されて、あいつにまた食われるわ!」
「答えになってねえ!」
驚くジークに、レインも声だけを向けて冷静に解説する。
「大丈夫だジーク! この縄はグリムの魂の一部だ! グリムはこれを霊魂の群と繋いだんだ! グリムが死なない限り、この縄は絶対千切れない!」
「そうか! すげえな!」
ジークの賞賛に、グリムが歯を食いしばったまま、一瞬だけ満足したように笑った。
「私の合図でみんなの力と呼吸を合わせて一気に引くわ! 気合いいれてちょうだい!」
列の一番最後にいるグリムが、前に並ぶ全員に指示を出した。それぞれが肯定の言葉を返すとグリムは大きく合図を出すために、胸に空気を吸い込む。
「せぇーーーーのっ!!」
五人の力が一体となり、一つの強く引く力が生まれる。
「「「「「引けええええぇぇぇーーーっ!!」」」」」
事前に何を言い合わせたでもなく、五人全員が、同じ掛け声を発し、力の限り縄を引いた。
「クソがあぁあああぁあぁあ!! 私の道具を私の支配から引き離すことなぞ絶対に許さん!! 貴様らヴァルキリーとて、死んだ戦士の魂をヴァルハラへと連れて行き、貴様らの都合で戦争の兵力として利用してるだろうが!」
マシューの言葉に、ヴァルキリーとしての誇りを汚されたグリムが怒り、何か言い返そうとしたが、それよりも早く、激しく怒ったレインが烈火の如く反論した。
「お前と一緒にするな! ヴァルハラの戦士たちは戦場で死んでもなお、さらなる闘いを求め、自らの意思で私たちと共に闘ってくれる! 人間の霊魂を強制的に隷属させ、命令を下すだけのお前とは断じて違う!」
「共闘の代償としてヴァルキリーは戦士の魂に媚びて、品性を安売りしてるだろう! それしか能がない雌だからなぁ!」
なおもぶつけられた罵倒にレインは怒りに歯を食いしばる。それ以上のやり取りは体力の無駄と思い、怒りを、縄を引く力に込めた。
「全部……引っこ抜いてやる……!!」
「ぐ……クソ……あの雌……!!」
マシューの胸元から、光る縄に引っ張られて、人の頭の大きさほどの、白く光る何かが出てきた。その何かは球状で、全体の一部分だけがマシューの胸元から外に出ている。
「あの白いのが私の魂と繋いで、球状に一纏めにした霊魂の群よ! あれを私のところまで引っ張り切れば、霊魂は全部あいつの支配下から、完全に離れるわ!」
グリムが叫び、この綱引きの最終目的をはっきりさせた。終わりが見えたことにより、俄然、悪霊を解放するために、五人の力が強くなっていく。
「ならば……!」
マシューは躊躇いなく、人間の霊魂がまとまった光る球の一部を、縄ごと、切り離した。悪霊を少しだけ、自ら支配下から引き離し、強制的に引き合いを終わらせた。
マシューの力の抵抗が急になくなり、縄を引っ張って五人全員が、後ろに倒れ込んだ。
悪霊を少し捨てたといっても、まだマシューは大量の悪霊を抱えている。
「ククク……馬鹿正直に貴様らに付き合う必要なぞなかったな……冥土の土産にその悪霊どもはくれてやる……」
マシューが、五人を見下ろし、飛び去り、性懲りも無く島ごと消しそうとする。
「まだ全員解放してないのに……あいつ……!!」
レインは悔しさに歯を食いしばり、自らも飛び立とうとした。
五人が見上げるマシューの後ろに、一つの人影が覆いかぶさる。
「轟竜波!」
上下に合わせた手のひらから闘気を放ち、マシューの上から、叩きつける。ベオウルフの技を一度、間接的に自分の身体を使って放ったことにより、完全に自らの技としたモラクスが、マシューを再び地上へと落とした。
モラクスを動けるまでに回復させたのは、他ならぬアンナであった。
「今だ!」
モラクスの声にいち早く反応したレインが、地面に這いつくばるマシューに素早く近づく。
マシューはレインの接近に反応して、一撃で殴り飛ばしたが、レインのへその辺りから、グリムと同じように光る縄が生えていた。
グリムのおかげで詠唱もなく、瞬時に、レインは魂の一部を縄状に変え、マシューが抱えている残りの霊魂と繋いだ。グリムと同じように、引き合いに負ければマシューに魂を食われるというリスクを、レインは無条件で背負った。
レインは、すぐさま、マシューが切り離した方の霊魂を掴む。一刻も早く、残りの霊魂を全て解放するために、途切れた光の縄を、自らの体で繋ぎ止める覚悟であった。
マシューが捨てた霊魂を片手で握り、もう片方の手で、新しく繋いだ魂の縄をしっかりと握りしめた。途切れてはいたが、グリムから、マシューの持つ残りの霊魂を繋ぐ、縄の一部に、レインはなった。
レインが覚悟を決めた目線を無言で送り、その意図を残りの五人は瞬時に察知し、再び縄を引く。その列に、モラクスも加わり、力の限り縄を引き、叫んだ。
「この闘いに敗北することは、あいつを生かすことは、かつて人を守った者、人の霊魂を導いた者として最大の恥だっ! 人の尊厳を喰らう外道を決して許すなぁ!」
その声と共にボルクスとモラクスは同時に雷血流を発動した。回復したとはいっても、未だに傷が残る体に莫大なリスクを覚悟で鞭を打った。二つの紅蓮の雷が、魔女として殺された霊魂の尊厳のために、力をこめ、魂の縄を引く。
マシューは何度も悪霊を切り離すのを躊躇したようで、再び、縄を自らの方に引き寄せる。
「…………ッ!!」
両側から凄まじい力で、引っ張られたレインは、身を真っ二つに裂かれそうな痛みに悲鳴一つ上げることなく、歯を食いしばって耐え、その場に踏み留まり続けた。
「がはっ……!!」
しかし、レインの身体自体が、巨大な力同士の引っ張りに耐え切れず、胸が文字通り、縦に、嫌な音を立てて真っ二つに張り裂けた。
縦の線に張り裂けた傷から、血が勢いよく吹き出した。レインが、一瞬怯んでしまい、僅かに力が抜けて、片方だけであるが、手を放してしまう。
レインが、グリム側の手を、マシューが切り離した霊魂を持っていた手を、放してしまう。再び手を伸ばし、掴もうとしても、虚空を掴むばかりで、届かなかった。
一体となっていた力が、途切れる。グリム、ジャンヌ、ジーク、ボルクス、モラクスの五人分の力と、レインの力が引き離される。
レイン一人の力だけでは、マシューからは残りの霊魂を引き剝がせない、救えない。絶望の目をするレインの前に、アンナが現れた。
アンナはレインの手を掴み、もう片方の手で、レインが放してしまった、霊魂を掴んだ。
アンナは何を言うこともなく、ただ、レインに振り向き、微笑んだ。レインの手を繋ぎながら、アンナはレインに回復魔法をかけていた。裂けた傷がゆっくりとふさがっていく。
色々な思いが、レインの胸の内に湧いてきたが、それらをグッと抑えこみ、魂の引き合いに、意識を全て集中させた。
引っ張られている先に、アンナが、自分達の境遇に涙を流してくれたシスターがいると知った残りの霊魂の群は、自ら、引っ張られる先に、動こうとした。
最後に飛び込んできたアンナが、皆で解放しようとしている霊魂自体をグリム側に動かした。それが引き合いの決め手となった。
「ちくしょおおおおぉおぉおぉぉぉ……!!」
マシューの胸から白い球体が、徐々に縄に引っ張り出される。
それでも抵抗していたマシューの両腕が千切れた。抵抗する力がなくなり、白い球が、釣り上げられた魚のように勢いよく、グリムの方へと飛んできた。
「よっしゃあああああーーーー!!!」
グリムは後ろ倒れ込みながら、歓喜の声を上げた。アンナ、レイン、ジャンヌ、ジークも倒れ込み、脱力したが、ボルクスとモラクスは、雷血流を解除しなかった。
「まだだ……!」
力の根源たる悪霊を全て引き剥がされ、人間の姿に戻ったマシューだったが、未だに、その表情には殺意があった。闘いはまだ終わっていない。
マシューがラミエルを吐き出し、構えた。
「滅殺一条……!」
マシューが解詞を唱え、ラミエルを解放する。マシューの力量が足らず、完全解放ではなかったが、目の前の敵数人を一度に飲み込み消し去るには十分な力があった。
自らが数百年に渡り蓄えた悪霊を敵もろとも消し去る判断を、マシューは一瞬で行った。悪霊は集めればいい。
「まだやつにはラミエルがある! 俺が受け止めるから、みんなは絶対に動くな!」
ボルクスが叫んだ。グリム、ジャンヌ、ジークの前に出るのは簡単だったが、前方にいるレインとアンナまでは距離がある。
ボルクスとモラクスは雷血流で同時に駆け出した。しかし、マシューは、ラミエルを振り下ろそうとする。
間に合うかどうかの瀬戸際で、何か風を切って飛んでくる音がした。
ドスと飛んできた何かが、マシューに突き刺さる。
「な……に……!?」
マシューの動きが一旦止まり、血反吐を吐きながら、自分の身体を見た。そこにあったのは白い槍、ゼパルの骨を変化させたゲイボルグだった。マシューが飛んできた方角を見れば、遠い場所に人影があったか、誰かはわからない。
心臓を串刺しにされた、明らかな致命傷、それでもはお道連れとばかりに、ラミエルを振り下ろそうとした。
ゲイボルグが稼いだ時間は、一瞬でもあっても、二つの赤い雷が近づくのには充分だった。二人が前に出た目的は、アンナとラインを守ることから、マシューに完全なとどめを指すことに、一瞬で変わった。
「骨の髄まで思い知らせると、言ったはずだ」
初めにモラクスがマシューの手からラミエルをぶん取り、ノールックでボルクスに投げ渡し、マシューを真上へと蹴り上げた。
モラクスがマシューを追って飛び上がり、抵抗を許さず、両手両足で嵐のような攻撃をしながら、上空へと飛び立っていく。
その後を追うようにして、ラミエルを持ったボルクスが飛び上がり、残りのマナをラミエルへと貯めていく。
「滅殺一条……!!」
完全なとどめのために、完全解放を使うつもりであった。マシューの身体が高く高く、飛び上がり、ガリア島から充分に離れると、モラクスはマシューから離れた。
「ラミエル……!!」
ラミエルの名を口に出し、ボルクスはマシューに、ラミエルを突き刺した。
「終わりだ……!」
マシューの身体を貫いたラミエルから、万物全てを滅する雷が空一面に迸る。その時だけ、ガリア島は雷光によって昼のように明るく照らされた。
「ギィアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!」
人間の尊厳と霊魂を喰らい続けた外道の断末魔は、かなり長い間、ガリア島の空に響き続けた。
「身体と魂の、跡形もない完全なる消滅……それがお前に相応しい末路だ……」
ボルクスより先に降りてきたモラクスが、明るい空と外道の最期を見上げながら吐き捨て、ようやく雷血流を解いた。
身体から赤いオーラが消えた瞬間、モラクスは身体中の力が全て抜け、地面に倒れようとした。一度限界を迎えた体を、アンナに回復させて、さらに酷使した故の当然の結果であった。が、ジャンヌがなんとかモラクスの身体を倒れる前にを支えた。
「モラクス……ありがとう。私の願いを背負って、闘ってくれて、この島を守ってくれて」
震えるジャンヌの声に、モラクスはなんとか力を振り絞って返事をする。
「当然のことをしたまでです……あいつも……受け止めてやってください」
モラクスのいうあいつ、ボルクスを受け止めるために、ジャンヌは素早く丁寧にモラクスを寝かせた。
「ボルクスさんも落ちてきます!」
アンナの声に反応し、ジャンヌが空を見上げる。ラミエルの完全解放にマナを全て持っていかれたボルクスは、全く動けない状態で真っ直ぐに落ちてきた。
このままでは地面に激突することを予感したジャンヌが、ボルクスを受け止めるべく、落下地点に向かおうとしたが、既にアンナがいたので身を引いた。
「どわっ!」
アンナがボルクスの身体を受け止めたが、落下の衝撃で自分も倒れ込んでしまった。その上にボルクスの身体が重なる。
「あいつの気配はもう感じないわ……」
注意深く上空と辺りを見回していたグリムが呟いた。
「終わったのね……」
ジャンヌも安心して呟き、その場にいた全員に安堵の空気が流れた。
「やったわ!! 私たちの勝ちよ!」
「「うおぉぉおおおおおおおおお!!!」」
グリムの声に、ジークとレインとボルクスが勝鬨の声を上げた。
しばらくして、偉大なる勝利の雰囲気に包まれたその場所に、マシューにゲイボルグを投げた人物が姿を現す。
「一体どういう状況だ……」
モードレッドが場の雰囲気を異様と感じて、呟いた。
本来の討伐対象のレラージェとイフリートは、見知らぬ人物と共に何かしらの勝利に沸いている。ボルクスはシスターアンナの回復魔法を受け、何か偉大なことを成し遂げたような、やすらかな表情をしている。
その顔をなぜかジャンヌは得難いもののように見守っていて、シスターアンナもそれを気にすることなく、ボルクスに回復魔法を施していた。ボルクスと瓜二つの人物もその側に転がりながら、シスターアンナの治療を受けている。
状況が全く飲み込めない。夢でも見ているのではないだろうかと、モードレッドは自分の正気を疑った。




