表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Myth&Dark  作者: 志亜
悪魔転生編
1/54

序章 双子座のボルクス


 双子座の英雄ボルクスは兄カストルと同じく、ゼウスとスパルタ国の王妃レダとの間に生まれた。


 ゼウスはオリュンポスの神々の頂点に君臨する大神である。故に弟ボルクスは半神として不死身であり、凄まじい力を秘めていたが、カストルに同じ力はなかった。理由は不明である。


 兄弟で力量に大きく差はあったものの、その仲は兄弟愛の素晴らしさを説く模範とされるほど良好であった。


 二人とも自分とお互いの長所と短所をよく把握していた。ボルクスはカストルに比べて頭が良くなかったので戦闘時やそれ以外の場面でもよく指示を仰いだ。ボルクスはカストルを誇りに思い、カストルも同様であった。そこには劣等感の欠片もない。


 ボルクスは幼い頃よりその力を見出され、カストルはそんな弟のブレーキ役としてケンタウロスの賢者ケイローンの教えを受けた。


 ケイローンはこの兄弟以外にも大英雄ヘラクレス、テセウス、アキレウスなどの数々の英雄を育て上げた古代ギリシア屈指の名門である。ディオスクロイは様々なことを学んだ。剣や槍などの武芸や素手で敵を殴り倒す総合格闘術パンクラチオン。

 

 その中でも兄弟の印象に残ったのは弟子になって一番初めに教えられた英雄としての心構えである。強く生まれた者は弱者を守り、世に蔓延る悪を討つ。


 それこそが英雄たる者の役目であると。兄弟はその教えに深く感銘を受け、その教えに沿って生きようと誓った。事実、兄弟は死ぬまでケイローンの教え貫き、ケイローンに師事した他の英雄達にとってもこの言葉は金科玉条に等しく、生きる指標とした。


 双子の妹の存在も大きかった。双子の妹の内、下の方は特に美しく生まれ、成長を遂げれば絶世の美女になるだろうと親族がもてはやした。王族の出自ということもあり、ディオスクロイは暗殺や誘拐など、政争の魔の手が伸びることが多かったが、その度に2人で力を合わせて刺客を返り討ちにしていた。


 妹はどうだ? 半神で、女戦士の一族アマゾネスのように強くなるのだろうか? 否、そのような力は持たない。少なくともボルクスとは同じではないとうことが感覚的に分かった。


 守らねばならぬ。ボルクスにとって妹の存在は神の力を受け継ぎ強く生まれてもなお、それに満足することなく自らの力をできる限り磨き上げる大きな理由となった。


 ケイローンの元から離れた後、兄弟はアルゴナウタイに加わった。アルゴナウタイとは、とある国の王子イアソンが、王位を奪還すべく黄金の羊の毛皮を求めて航海の旅をする際、アルゴー号にのせた乗組員たちの総称である。


 ディオスクロイの他にも様々な英雄達がその船に乗った。かの大英雄ヘラクレスやミノタルウルス退治の英雄テセウス、俊足の狩人アタランテ、神話にて語られる多くの英雄が一時期、同じ目的で、同じ船で運命を共にしていた。詳細は割愛するが、ディオスクロイは仲間たちとともに数々の武功を上げた。


 しかし、出会ってしまう。イダスとリゲルに。この兄弟はアルゴー号にいたときこそお互いに背を任せ信頼しあう仲間であったが、アルゴナウタイが解散した後、運命の悪戯でディオスクロイと殺し合うこととなる。


 その戦いこそ、ディオスクロイの最期であった。元は同じ仲間だったのになどという感慨は一瞬で吹き飛んだ。あろうことか、イダスとリゲルは双子の妹たちに手を出した。殺す理由としては十分である。凄絶な闘いの末、最後に立っていたのはボルクスであった。


 己の半身のような、血を分けた兄弟の遺体を見たとき、ボルクスは魂が四散する様な感覚に陥り、慟哭した。半神でありながらも、たった一人の肉親すら守れなかった自分の無力をありったけ呪った。今まで挫折を味わったことのない男が経験した初めての喪失感。


 涙が枯れてもなお遺体のそばで悲しみ続けるボルクスを不憫に思い、ゼウスはボルクスをカストルと同じ場所に行けるように、己が力たる雷霆を落とした。不死身であろうが問答無用で葬り去る神の力である。


 そしてディオスクロイの兄弟愛を後世に残すべく、双子座が生まれた。その中で最も明るい星の二つはカストルとボルクスの名を冠する。

 

 しかし今、それを知る者は誰もいない。ディオスクロイだけでなく他の英雄達、神々の逸話、伝説、伝承などは神々が去ったあとの世の人間の手によって闇に葬られる。この物語は生き様を取り戻す物語である。 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ