ユールの夜のおくりもの
しんと静まりかえった真冬の森に、どこからか鈴がしゃらん、しゃらんと鳴っているのが聞こえます。
「さぁ、今日はユールだよ!!」
「ユールの夜が来るんだよ!!」
双子のブナの木の精が銀色の鈴を鳴らしながら、あちこちに声をかけて回り、声を聞いた精霊や妖精たちが一斉に動き出します。
今日はとっても大事なユールの夜。
ユールの夜は人間が精霊や妖精に感謝して、色々なものをわけてくれる日です。
「今年はバター入りのクリームだ!」
「僕のおうちは今年の小麦!」
「あの犬はあったかい冬毛をくれたよ!」
わいわい、がやがや。
みんなにぎやかにもらったものを自慢します。
「見て! 私はネックレスをもらったの!! 赤くて可愛いでしょ?」
白樺の精は誇らしげにネックレスを引っ張ります。
黄色がきれいな葉っぱのドレスを着て、真っ赤なガマズミの実が連なった見事なネックレスです。
「私だって珍しいのよ。サワフタギの青い実だもの!!」
雪の精は得意げに後ろを向いて、青い髪飾りを見せます。
雪のように真っ白な髪に、つやつやした実が、まるで青いティアラのようです。
「ねぇ、あなたは? あら、ひどい恰好ね。あなたは何ももらってないの?」
カエデの精は人間達のお砂糖パーティーで貰ったメープルタフィーを手に、眉を顰めます。
「私はみんな桜の木にあげてしまったの。今は何にもないわ! でも、とっても寒いの。だからユールログの温かさをわけてほしいの」
桜の精はぼろぼろのワンピースで、にっこりと笑います。
桜の精には大事なお役目がありました。
春に桜の花を咲かせるために、寒さの中でじっと春を待っている桜の木に、持てる物も貰ったものでも、なんでもすべて桜の木にあげていたのでした。
カエデの精は話を聞いて、とても残念そうに
「そう。でもね、何にも持ってこない子はここにいてはいけないの。なにか貰ったものを持って来なさいな」
と言いました。
ほかの妖精たちも、
「そうだよ、そうだよ!」
「ここにいてはいけないんだよ!」
と周りのみんなは一斉にはやし立てます。
桜の精はとても悲しそうに、しょんぼりとして離れて行きました。
「かわいそうだけど、仕方ないわね」
カエデの精や白樺の精は、とぼとぼと丘に向かって歩く桜の精を見送りました。
「さあ、みんな! ユールログを燃やすよ!!」
双子のブナの木の精は、積み上げた樫の木の上から誇らしげに宣言します。
それを聞いた虫たちは、楽器を手にして音楽を奏で始めると、火の妖精たちは薪の上でペアになって軽やかなステップを踏みます。
「燃えろ、燃えろ」
「どんどん燃えて」
「お空にとどけ!」
火の妖精たちがリズムに乗ってタン、タンと難しいステップを踏めば、虫たちは負けないよう曲のリズムどんどん速くしていきます。
まわりの妖精や精霊たちも、きゃあきゃあと楽しそうに踊っています。
「いいなぁ。暖かそうでとっても楽しそう。私も一緒に踊りたかったな」
ぽつんと一人、桜の木の精は丘の途中からユールログの燃えるさまを見つめました。
良く燃えるユールログは暖かそうな色でしたが、暖かさは届きません。
とても寒くて、凍える指にはあっと息を吹きかけて、てくてくと丘の上にある桜の木の側に戻ってきました。
「ああ寒いなぁ。はやく春になってくれればいいのに」
桜の精はぺたりと木の根元に座り込むと、桜の木はさわさわと枝を伸ばして桜の精に寄り添います。
嬉しくなった桜の精は一緒にくっついて目を閉じました。
想像するのは春になったこの丘の様子です。
春の丘は満開の桜とお花畑に覆われ、お友達の花の精たちも飛び回る、それはそれは美しい丘なのです。
だけど目を開ければ、今は真冬で花の精は固い殻の中で眠りにつき、真っ白な雪に埋もれる寂しい景色が広がっているだけでした。
「……一人は寂しいよ」
口にすると本当に寂しさがあふれ、悲しくて泣きたくなりました。
あわてて涙かこぼれないよう、桜の精は空を見上げます。
空には大きなオリオン座が天頂に瞬き、見事な星空がひろがっていました。
「私もみんなと一緒に踊りたいな」
桜の精がつぶやくと同時にひゅんと星が流れ、キラキラと瞬きながら桜の精の手の中にすっぽりと納まりました。
「そのお願い、ボクが叶えてあげる! さぁ、元気をお出し!!」
そう言って流れ星はキラキラと瞬きながら飛び回り、星あかりの粉を桜の精にかけました。
するとボロボロのワンピースは、桜色の素敵で温かいドレスに変わりました。
「まぁっ! とってもきれいなドレスだわ。ありがとう!!」
「でもね、そのドレスはボクがこの星にいる時間だけたから、パーティーが終わったらちゃんと戻っておいで」
「わかったわ。ちゃんと戻ってくるわね!!」
桜の精はとてもうれしそうにユールログのパーティーへ向かいました。
パーティーではみんなと楽しく踊ったり、お話ししたり、ドレスを褒めてもらったり。
今まででこんなに幸せな日はなかったと思うくらい、とても幸福な夜を過ごしました。
「ああ、とても楽しかった。ありがとう、流れ星さん」
「どういたしまして。さあ、たくさん踊って疲れただろう」
そう言って流れ星は暖かな毛布を掛けてあげました。
桜の精は暖かさに誘われるように、とろとろと瞼が重くなります。
「そうね。とっても疲れたわ……」
「長い間、この桜を守ってくれてありがとう。君もゆっくりお休み」
「ええ、おやすみなさい」
桜の精は幸福に微笑んだまま目を閉じました。
流れ星は眠りについた桜の精の魂や、他の人間の魂を連れて、空へかけあがります。
その軌跡はまるで満開の桜が散るような流星雨のように見えました。
――そして次の春。
桜の精が待ち望んだ春が来て、丘の上はたくさんの花々が咲きましたが、桜の木に花が咲くことはありませんでした。
側に小さな桜の芽を残して。
■人間達のお砂糖パーティー
煮詰めたメープルシロップを雪の上に流して飴を作る遊び。
煮詰めた後のお鍋には牛乳入れてメープルミルクをどうぞ!