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終結。

「この勇者とお前たちは仲間じゃないのか? それなのにどうして敵意を向けているんだ?」


 敵意を向けてくる三人に僕は親指で自身のことをさして思っていることを問いかけた。しかもさっき僕は彼らのことを助けたのにこの仕打ちだ。


「レイラを、返してください。その体はレイラの物です」


 黒髪の彼女が紫色の魔族と相対していた僕に臆さずにそう言ってきた。だがその体は今にも倒れそうでボロボロなことは誰が見ても明らかだった。


「返さない、と言えばどうする?」


 この体は確かに今代の勇者であるレイラのものだ。だけど今の体の所有権は僕にある。まぁ僕はこの体で何かをしようとは思わないし、僕は男だから女の子の感覚とか知りたくない。


 それでもこの女の子に意地悪したくなった、という感じだ。この子がどれくらいの思いでレイラのことを仲間だと思っているのかが知りたくなった。


「それなら、私の体を差し上げます。それで許してください」

「自分の体を差し出すか。どうしてそこまでする?」


 そもそも僕はレイラが勇者になっているから体の主導権を奪うのが可能なだけであって、彼女の体を奪うことは普通はできない。それでもどうしてそこまでするのか、アシュレイやジェシカに似通ったものがあったから聞いてみることにした。


「彼女は……、レイラは私たちの光。光を失えば人はどこに行けば良いか分からなくなる。だから、それを失うわけにはいかない、どんなものを犠牲にしても……!」

「……こんな女に光を見出すとは、お前たちは目を閉じているのか? 僕にはそうは見えない。せいぜいそこら辺を照らすランプがお似合いだ」

「それでも、今はその光でさえすがりたいのが人間です。……レイラには酷かと思いますが、それでもそれを望んでいる彼女を支えていくのが私たちの仕事です。ですから、私にしてください」


 ここまでの思いを持っている彼女を褒めるべきか、それともこんな思いを持たせている世界をバカにすべきか。僕にはどちらか分からない。


「俺たちのことを忘れてもらっては困るよ」

「そうですね。私たちの体も差し出しましょう」


 男二人が彼女の前に立ってそう言ってきた。この子たちも全身がボロボロで、優男の方は片足を引きずりながら歩いている。僕があの時落として怪我をさせてしまっていたらそれはそれですまないと思う。


 こうやって対峙している図になっているけれど、もう帰りたいと思っている。もう他人と会話したくないし、しばらくは引きこもっていたい。でもこれで戻ったらこいつらの熱意に負けて戻ったと思われてしまいそうで嫌だ。


『早く私の体を返して! この変態!』


 頭の中に再び響いてきたのはレイラの声だった。だがこちらは助けてあげたのに用が終わればすぐに帰れとは非常に不愉快極まりない。しかも変態扱いだ。


 これが勇者の礼儀ですか、とても育ちがよろしいことで! どいつもこいつも勇者の女というのは自分が偉いとでも思っているのですかねぇ!


「よし、僕の命令を一つ聞けば、この体はレイラに返してやろう」

「どんな命令ですか?」


 僕の言葉を一字一句聞き逃さないようにしている彼女に、僕は今さっき思いついた言葉を彼女たちに突きつける。


「まずはそこの女がそのボロボロになっている服をすべて脱げ」

「ッ……変態なのですか?」


 それを聞いた彼女は、命令を無視できないことに悔しそうな顔をしながらも僕にそう言ってくる。そしてボロボロになっている服に手をかけようとする。


「待ってくれ」


 だがそれを優男が手をつかんだことで止めて、生真面目な男と共にもう一歩僕に近づいてきた。


「キャロルを、彼女に何かするのはやめてくれ。その代わりと言っては何だが、俺たちの命を差し出そう」

「どうですか? 私はこの世界のことを良く知っています。世界征服でも何でもお手伝いします。ですからそこにいる彼女と、勇者である彼女から手を引いてください」


 そこにいる彼女やレイラの代わりになろうとしている。だけどこの場においてすべての命を僕が握っているから、代わりというのは意味を成さない。


 ていうか僕はこいつらに何かをしようとは思っていない。いや、こいつらを全裸にしてから僕も全裸になって、全世界に全裸勇者集団として認知してもらおうかと思っていただけだ。命を取るよりかはマシだろう。


 でもそういうことを言う雰囲気ではなくなっている。そもそも助けた奴らを殺すとかどういう神経をしているんだよ。


「ッ⁉」


 これからどうしようかと悩んでいるところに、全身に衝撃が走り抜けたことで僕は倒れそうになる体を前足を出して踏ん張った。


 外部から攻撃を受けたわけではない。内部からの攻撃だ。レイラを筆頭に、アシュレイやジェシカ、それに知らない気配が三つあり、その六人が僕をレイラの中から引きずり降ろそうとしてくる。


 六対一であろうとも、僕が負けることはまずない。それが全盛期ならの話だ。この体にレベルが落とされているから、とてもじゃないけど全盛期とは言えない。


 それでも僕と六人では五分五分と言ったところだ。六対一なのにこのざまとは、引きずり降ろされそうになっているのに笑いそうになる。


 さて、ここで引きずりおろされても良いとは思っているけど、やっぱり気に食わない。手伝うことが当たり前と言わんばかりの言動は許されない。


「……これで良いか」


 僕はデュランダルを目の前に持ってきてよく見る。デュランダルは長年の疲労か、レイラがデュランダルの使い方を分かっていないのか、刃がボロボロになっている。


 片足立ちしてレイラのむっちとした太ももを見ながら上げている足の方の太ももにデュランダルの刃の中央を当てて、持ち手と刃の先端を両手で押さえて一気に力を入れると、綺麗にデュランダルの刃は折れた。


「少しはデュランダルを使いこなせ。どうせ歴代の勇者に頼っていたんだろうが、そのままではまた仲間を失う場面に出くわすぞ」


 そして僕は引きずり降ろされることに抵抗せずに引っ張られたことで視界が暗くなった。


 次に目を開くと、そこはもう何年見続けていたか分からない扉が一つあってその正面に椅子が置かれている真っ白な空間にいた。そして僕は椅子に座っている。


「……ふぅぅぅぅぅぅ」


 僕は深く息を吐いてクソみたいな世界にいたことに憂鬱な気分を覚えていた。息を深く吸って、深くは気を繰り返して、気分を元通りにする。


 それにしても今考えてみれば、あんな奴が四天王の一人だとはあり得ない。あんな頭が弱くてプライドが高く、力押ししかできない奴なんてしょうもなさすぎだろ。


「……触っていれば良かった」


 レイラの体に入っている時は何とも思っていなかったけど、レイラのお胸さまは大きかったから触っていればどういう感触なのか分かったのにと今になって後悔している僕である。


 でもまぁ小娘のお胸さまを触ってもどうも思わない。しかもそういうのは他の人のお胸さまを触ってこその価値があると思う、たぶん。


 そんなことを考えながら、ふとこの空間を見ていてあることが頭によぎった。


 この空間から出た先は、レイラの深層意識が作り上げた世界だと言っていた。それならこの空間は誰の空間なのか。


 今代の勇者であるレイラが城のような世界を作り上げていたのなら、前の世代でも他の勇者が世界を作り上げていたはずだ。だが、ここは真っ白な空間のままだ。


 ということは、この空間は僕の世界である可能性しかないわけだ。長い間僕しかいなかったんだから。それなら僕が何か思えば何かを出せるということではないだろうか。


「……ダメだ、何も思いつかない」


 少しの間考えたけど、僕の必要な物は本当に椅子だけだったようだ。おかしいな、布団とかソファーとか色々思いつくだろうに、僕の装備はデュランダルではなく椅子だったようだ。


 くだらないことを椅子に座りながら延々と考えていると、凝視していたドアノブが回されていることに気が付いた。どうでも良いからぼんやりとしながら入ってくる人を見る。


「……気は、狂わないのか?」


 僕が最後に見た時とは表情が普通に戻っているジェシカが入って来て、この真っ白な空間を見てそう言ってきた。だけど僕はそれに答えずにジェシカの方をジッと見るだけにした。


「何とか言ったらどうなんだ?」


 それが気に食わなかったジェシカが僕の目の前まで来て見下ろしながらそう言ってくる。ただ僕はこいつから殴られていることを根に持っているから何も答えないことにした。


「……まぁいい。それよりもお前を呼んでいる人がいる。出てこい」


 フン、どうして僕が呼ばれているから出ないといけないんだ。僕に用事があるのならこっちに来たらいい。とりあえず煽りのためにあくびをしておくか。


「ふわぁぁぁ……」

「よし、無理やりということだな」


 僕の煽りが分かったようで、ジェシカはそう言って僕の胸倉をつかもうとするが僕はそれを許さずに手を弾く。ジェシカは弾かれてもすぐに僕の胸倉をつかもうとするけど、僕は再びそれを弾いて何十もの攻防が繰り広げられた。


 一向にジェシカが僕の胸倉をつかめることはなく、段々とジェシカの表情が恐ろしいものになっていることにも気が付いているが気にしない。ただ段々と表情が変わっていくジェシカが面白いと思っているのは秘密だ。


「……いい加減に諦めたらどうだ?」


 でも数十分もこうされていては僕もたまったものではない。よくそんな精神力を持っているなと感心しながらも、僕は言葉を投げかけた。


「それならお前が諦めろ。言っておくが、私はお前がここから出るまでいつまでもやるつもりだ」

「暇なのか?」

「お前と同じように、レイラを助ける以外は特にやることがないからな。レイラに力を貸すまでは、ここで嫌がらせのようにしておいてやろう」

「嫌がらせのように、じゃなくて立派な嫌がらせだ。そもそもお前は僕のことが嫌いじゃないのか?」

「さぁ、どうだろうな」

「嫌いな相手と一緒にいるとは、心の修行でもしているのか? 死んでもなお大層なことだ」

「勝手に私がお前のことが嫌いだと決めつけるのはやめてもらおうか」


 そう会話している中でも、僕とジェシカの攻防は続いていた。いや、もう諦めてくれ。これ以上女の子の手をはたいているのは疲れる。


「どうだ? いい加減に私に付いてくる気になったか?」

「全然ッだねッ!」


 そう言われるとやっぱり反発したくなるのは仕方がないことだ。何ならこの状況は女の子とキャッキャうふふな状況だと解釈を変えることはできる。女の子と手を触れているとか、そういう状況じゃね? とか童貞みたいなことを考えて乗り切る。


「やっぱりつまらないな。いい加減にやめよう」

「そうか? 私は一年、十年し続けても良いぞ?」

「お前はどんな苦行を経験したらそんなことが言えるんだ?」


 いい加減に飽きたから僕は手を弾くのをやめてジェシカも手を引いた。その代わりに僕の腕に抱き着いて逃げられないようにした。


「それじゃあ行こうか」

「はいはい、今回はお前の勝ちだよ」


 ジェシカの胸を腕で幸せを感じながらジェシカに引っ張られて行く。アシュレイと言い、ジェシカと言い、どうしてこんなに粘り強いんだろうか。


 僕の真っ白な空間から出て、先刻にアシュレイに勇者の間に連れていかれた時と同じ道のりを進んでいる。どうやら目的地はそこのようだ。


「で? 誰が僕のことを呼んでいるんだ?」

「初代勇者だ」

「初代勇者がねぇ……」


 初代勇者さまが僕に何か用でもあるのか? いや、文句を言われても仕方がないことをした自覚はある。でも僕を歴代の勇者として組み込んだこと自体が間違っているんだ。僕は悪くない。


「その顔は自覚があるという顔だな」

「出たよ、また知ったかぶり。アシュレイと言いお前と言い、お前らは僕のことを分かった気でいるのが好きだよな」

「分かった気、ではなく本当に分かっている。ノアのことを知らないのはレイラだけだろうな」

「何それ、すごく嫌なんだけど」

「仕方がないことだ。お前が知らないだけで勇者ノアは有名だからな」

「ふぅん……、そうなのか」


 そういうことを一切聞かないようにしていたから僕が有名だという話は理解していない。それに僕が有名になったところで、悪名が広まっているのがいいところだ。


「ここからはお前一人で行け」

「僕だけがお呼ばれということか」

「そういうことだ。くれぐれも気を付けろ」

「それを僕に言うか?」

「言ったからな」


 意味深げなことを言い残して、勇者の間に入る扉の前でジェシカはどこかに消えていった。


 ここで僕が逃げないのかと思わないのだろうか。四割くらい逃げようと思ったけど、逃げたら逃げたで言われそうだし、ここまで来たんだから行くしかない。


 僕は勇者の間に入る扉の前に立つと、ひとりでに扉が開き段々と中が視界に入ってくる。前来た時と同じように椅子が並んで、その一つに座っている人がいた。


「ようこそ、勇者ノア」


 太ももに開いていた本を閉じて、僕の方を見てきた長い金髪にお淑やかな雰囲気を持った女性がそこにいた。

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