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今代の勇者との邂逅。

「はぁぁぁぁぁ……、ひまだぁぁぁぁ」


 ただただ真っ白な空間が広がる場所に、ポツリと置かれている立派な椅子に僕は座っていた。見掛け倒しとかではなく、本当に椅子以外何もない。


 ここ、何もすることないじゃん。何だよ、地獄より地獄だろ。僕を精神的に追い詰めようとしているのか知らないけど、僕がそんなことで狂うわけがない。狂わせるのならこの椅子をどこかに持っていくことだな!


 とにかく意識がハッキリとして、ここが何もないと分かった時からしばらく歩き回った後にこの椅子で格好いい座り方を研究している。


 今のところ足を組んで座る方が格好いいと感じているが、それも限界が近づいている。だって格好いい椅子の座り方で時間を潰すなんてたかが知れている。


 もう頑張った方だろ。どれだけ時間が経ったか知らないけど。一時間くらいかもしれないし、百年ぐらいかもしれない。僕の時間感覚が崩れているから全く分からない。


 まぁ、一つ嘘は言ったな。椅子以外に何もないわけではない。この真っ白な空間には椅子と、扉が一つだけ存在していた。


 だけど何か開くのが嫌だったからずっと開いていない。後ろに回り込んだら扉は見えなくなる不思議な扉だ。暇つぶしに壊そうとしても全く壊れない不思議な扉。


 だけど一つ言わせてほしい。扉の分際で壊れないのは何事だ! 人間さまを舐めやがって。扉なら扉らしく壊れたらいいだろ! はい、今扉の界隈がすべて敵に回りました。早めにごめんなさいをしておこう。ごめんなさい。


 それにしてもここでは眠ることも食べることも性欲を満たすこともできないから不満でならない。せめて人間らしいことをさせてほしいものだが、それすらできていないから狂いそうだ。


「……いや絶対に開けてやんねぇ!」


 どれだけ狂いそうになっても、僕は意地でもこの開けろと言わんばかりの扉を開けることはしない。開けろと言わんばかりって、それなら開けろと言えよな。それに開けろと言われたら逆に開けたくなくなる。


「はぁぁぁぁぁぁ……」


 ため息を吐きながら椅子にどかりと座り、何も考えずにボーっと何もない白い空? 天井? を見つめる。


 もうやっていることが老後のおじいちゃんだよ。これで愛犬を膝にのせていれば余生をのんびりと太陽に当たりながら過ごしているおじいちゃんだ。


 せめて寝ることができれば文句はないけど、それすらできないとなれば僕のことが嫌いとしか考えられない。なんて陰湿なんだ。せめて面と向かって嫌いだと言ってくれ方が反撃ができるのに。


 いくらでも時間があるからそんなことを延々と考えていた。だけど、壊そうとした時以外に触れていなかった扉の丸いドアノブが回っている音に気が付いた。


 僕は息すらしていないから僕から音がすることはない。この場において僕が喋らなければ無音状態であるからそのドアノブの回る音が余計に大きく聞こえてきた。


「ここが……」

「そう、ここが最後の一人の部屋よ」

「ここの人が唯一の男性ですよね?」

「えぇ、そうよ。唯一の男にして、最強の男」


 扉を開けている最中に聞こえてくるのは二人の女性の声。一人は若く透き通った声をした女の子で、もう一人は落ち着いて色気のある声をしている女性であった。


 いつかはそちらから接触が来ると思っていたから驚くことなく、椅子に座りながらそちらに顔を向ける。


「うわっ、真っ白」

「……本当ね。ここでよく長い間いたわね」


 先陣してきたのは手入れされた茶髪を肩まで伸ばしている十代後半の女の子で、真っ白な光景に驚いていた。


 その次に入ってきたのは長く伸びた黒髪を左側頭部で結んでいる声の通り色気がある三十代くらいの女性で、女の子と同じく少し驚いた様子だった。


 その二人を見て、僕は訝しげな表情を浮かべただろう。こんな奴らが僕と同じものであったのかと思うと、ため息しか出ない。


「は、初めまして。私は今代の勇者のレイラです」


 レイラと自己紹介をした女の子は緊張した面持ちだった。


「私はあなたのことを一方的に知っているだけだから初めましてね。私は五代目勇者のアシュレイよ」


 三十代くらいの女性、アシュレイは僕のことを知っているようだけど僕は全く分からない。知りたくもないが。


 僕は二人をジッと見るだけで、何も言うことはしない。特に意味はない。意味を作り出すとすれば、お前たちと話したくないという意思表示をしているとしよう。


「……あの、何でこちらの方は何も言わないのですか……?」

「……彼、少し変わっているところがあるから」


 アシュレイはまるで僕のことを知っていると言わんばかりだった。その言い草が少し気に食わない。僕のことは知られているのに、僕は彼女のことを知らない。不公平だと思う。


「ど、どう話をすればいいんでしょうか……?」

「あなたはこういう雰囲気の男性と話すのは初めてだったわね。良いわ、今回だけは私から話しかけてあげる」


 僕のことを腫れ物みたいな扱いをしていることも気に食わないな、人生すべて上手く行っているみたいな顔をしている奴らが。確かに僕はお前らとは正反対の生き物だ。股間についているものもな。


 だからこそ僕はお前らのような奴らが気に食わない。お前らがあたかも自分たちは正しいという顔をしているところが特にな。


「自己紹介くらいはしたらどう? 十一代勇者のノア?」


 まぁ確かにアシュレイの言う通りで、このまま黙っていても何も話が進まない。こいつらのことを気に食わないと言っても、自己紹介くらいはすべきだな。


 ただ、久しぶりに人と会って少しだけテンションが上がっているのは内緒だ。生前はあまり人と話したことがないから人と話さないことが当たり前になっていたけど、まぁ話さなかったら話したくなるものだ。


「……僕は、十一代勇者のノア。別に仲良くするつもりはない」

「もう、いつまでそういった感じで行くの? そうやってしているから友達がいなかったのよ?」

「黙れ。そんなことを言うつもりで来たのなら帰れ。それに僕は友達がいなかったわけじゃない、友達がいらなかっただけだ」

「こういう感じでノアは面倒くさい性格をしているけど、実力は確かよ」

「ほっとけ」


 僕は自分で自分が面倒くさいと理解している。だけどそんな自分を好きだし、変えるつもりもない。他の奴らなんて、周りと上手く接しているだけの大量生産の人間だ。


「アシュレイさん、ここからは自分で話します」

「そう? それなら頑張りなさい」

「はい!」


 僕と会話することがそんなに難易度が高いことなのか。僕としても彼女たちと話すことは精神が削れる行いだ。それなら会話しない方がお互いのためになるだろ。


 人と会話するのは久しぶりでも、さっきの数回だけで僕は満足している。テンションなんていつも通りどころかいつもより下がっている。


「今、私は今代の勇者として戦っています」

「まぁそれしかないだろうな」

「十年前から始まった聖魔戦争は激しさを増し、人間勢力は劣勢に立たされています」


 人間と魔族では、魔族の方が地力は強い。ただ人間は魔族に対して魔族特攻の聖光の力を使うことができるから対等に戦うことができる。


 でも長引けば長引くほど地力が強い魔族の方が有利になってくる。十年ともなれば、魔族に有利なのは目に見えているしこれから戦っても魔族に軍配が上がる。


「私は勇者に選ばれてから仲間と共に旅を続けていました。辛く、苦しい道のりも仲間や、デュランダルの歴代勇者に助けてもらって今ここにいます」


 僕とは正反対の生き方をしている女の子だ。ますます気に食わない。別に彼女に僕の生き方を強いるつもりはないし何かを言うつもりはない。でもだからこそ力を貸す義理もない。


「でも、今は仲間が敵に捕らわれています。早く助けに行かないといけないのですが、今のままだと私は敵に勝つことができません。ですから、力を貸してくれませんか?」

「……お前、何代目の勇者だ?」

「彼女は三十六代目の勇者よ」


 僕の質問にレイラの代わりにアシュレイが答えた。


 それにしても三十六代目とは随分と代を重ねているようだ。いや、本音を言えばそんなに時間が経っているのか⁉ と言いたいところだ。ここで椅子と遊んでいてそんなに時間が経っているとは普通は思わない。


「それなら隣にいる勇者とか、他の勇者に頼めばいいだろ。何せ僕を除けば三十四人もいるんだろ? 勇者たちが」

「……他の勇者たちは、消えている人もいれば消えかけて今は動けない人もいる状況になっています」

「勇者がね。情けないな」

「これは私の責任です。敵の攻撃から未熟な私を守ってくれました。ですから消えていった歴代の勇者さんたちのためにもあなたの協力が必要です。ですからお願いし――」

「断る」


 レイラが言い終わる前に僕はお願いを断った。その言葉にレイラはとても驚いた表情をしているが、隣にいるアシュレイはどこか分かっている感じの表情だった。


「ど、どうして、ですか?」

「どうして? そんな分かり切ったことと聞くな。どうして僕が弱いお前の尻拭いをしないといけないんだよ。恋人でも嫁でもないお前の尻を」

「で、でも! 世界の危機なんですよ?」

「そんなこと知ったことか。僕はも死人だ。今を生きている奴らが解決しないといけないんじゃないのか? そんなことで甘えているんじゃないぞ」


 僕の鋭い視線にレイラは少しだけ目を潤ませている。他の勇者が甘やかしているから、こんなことになっているのだと思ってアシュレイに視線を向けた。


「この子に力を貸してくれないのかしら?」

「誰がするか。そもそも何人が消えて何人が残っているんだ?」

「この子を助けるために三十人の勇者が身を挺した結果、二十五人が魂を消滅させて、残りの五人は消えかけているわ」

「つまり残っている歴代の勇者は俺を含めて十人で半分は使い物にならないわけか。勇者のくせに不甲斐ない奴らばかりだな」

「口を慎みなさい。何もしていないあなたが言って良いことではないわ」

「その何もしていない人間に助けを求めているお前らは、惨めだな」


 僕の言葉にアシュレイは鋭い視線を向けてきた。美人がこうやって睨んでくるとすごみが増すと思いながらも、僕は受け流す。


 こいつらが何を言ってきても僕は何もするつもりはない。気に食わないのだから仕方がない。こいつらも嫌々力を手伝ってもらう方が嫌だろう。


「話は終わりだ。早く出ていけ」


 何もするつもりはないからこれ以上こいつらと話すことはない。だけどレイラはそうではないようで食い下がる。


「助けたいんです! だから力を貸してください、お願いします!」


 レイラは前のめりに倒れるのかと思うくらいに僕に頭を下げてくる。それでも今の僕に何を言っても意味がない。


「他にもアシュレイを含めた四人の勇者がまだいるわけだ。僕に頼まずにそちらに頼めばいい。勇者と名乗っているんだから、それはそれは大層な力を貸してくれるに違いない」

「それが無理だったから、ここに来ているのよ」


 僕の嫌味にアシュレイは少し怒っている感じで答えてきた。


「無理? それはどういう無理だ? 力を十全に発揮できなかったのか、それとも力を貸してくれなかったのか、はたまた十全に発揮したけれど勝てなかったのか」

「消えていく前の勇者たちは全員が力を貸してくれたし、レイラは十全に力を発揮したわ。それでも勝てなかったから、あなたにお願いしているの」

「勇者が三十四人いて、僕以外力を貸していたのに勝てなかったのか? ……ぷはっ! あははははははっ! これは傑作だな! どういう仕組みかは知らないけど、それだけ勇者がいてもなお勝てなくて、ほとんどが消えたか! 笑わせるために冗談を言っているのか!」


 こいつらが落ちぶれている姿を見ていると笑いが止まらなくなる。別に気に食わないという理由だけでこいつらが落ちぶれてほしいと思っているわけではないけど、それでも人の滑稽な話を見ているのは酒の肴になる。


「ッ! 私を助けてくれた人たちを笑わないでください!」


 僕が笑っているところにレイラが大声を出してきたから僕は笑うのをやめた。レイラの方を見ると、レイラは涙を浮かべながら鋭い視線を向けてきている。


「もうあなたには頼みません! 困っている人を助けられない人は勇者でも何でもありません」

「そうだ、僕は勇者じゃない。勝手にお前らが勇者と呼んでいるだけだ。さっさと出ていけ」

「言われなくてもそうさせてもらいます!」


 レイラはキッと僕の方を睨みつけながら僕の空間から出て行った。それを追うようにアシュレイも空間から出ようとする際に、僕の方を向いた。


「あなたが過酷な人生を送ってきたのかは分かっているわ。でもあの子もあの子なりに頑張っているの。少しは考えていて頂戴」

「随分とあいつに入れ込んでいるんだな。僕にはとてもそうとは思えない」

「あなたからすればそうでしょうね。でも私たちはあの子に希望を見出している。あの子なら世界を変えてくれる、そう信じている。あなたが勇者と戦っていたようにね」

「それならやめておけ。勇者は所詮大量殺人鬼、ああいう奴はきっと最後に自分のしてきたことの重みに耐えられずに自己崩壊してくのが関の山だ」

「それを支えるのがあの子の仲間や、私たちの仕事よ」

「お前らは酷い奴らだ。責任をレイラに押し付けて自分たちはそれを支えるという簡単な仕事をするだけとは。それならいっそのこと、世界は滅んだ方が良いんじゃないか?」


 僕の言葉にアシュレイは答えずに僕の空間から出て行き、扉は閉められたことで再び静寂が訪れる。


「……三十六度目の最悪か。世界は混沌がお好きなようだ」


 僕はぼそりとそう言って、座っている状態で片足を椅子に乗せてその膝に腕を置いて扉の方をジッと見続けた。

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