プロローグ
夏もまもなく終わろうとしていた8月21日、自然溢れる山梨県の田舎町ではセミが鳴き美しい小川のせせらぎが聞こえてくる。こんな絵画のようなすばらしい大自然を目にすることも、優雅な音を耳にすることもなく部屋の片隅でヘッドホンをつけている男が一人。
彼の名は池田 真、ある健康食品メーカーに勤める会社員である。これは取り立てて特筆すべきことのない彼の不思議な物語。
「・・・この組み合わせもダメなのか・・。結構いい線いってたと思うんだけどなー」
俺はそう呟きながらヘッドホンを外した。TV画面には俺が今しがたやっていたゲームの映像が映っている。そこにはBAD ENDの文字が浮かび上がっていた。
「ハァ・・・、これで999回目のクリアだな」
999回もクリアしておいてバッドエンドとはいかに?と思うかもしれないが俺がいまプレイしている「女神の使途」は13年前に発売したRPGだ。俺はこのゲームを13年間ほぼ毎日プレイしている。このゲームは数多いる仲間の中から8人を選びその仲間と魔王を倒す王道のRPGである・・と当時誰もが思っていた。だがふたを開けて見ると、苦労して魔王を倒したかと思えば、勇者サイドで戦争が起こりバッドエンド、逆に魔王サイドに立って人間を攻めると最後に魔王軍の裏切りに合いバッドエンド、ついには人間サイドと魔王サイドの和解シナリオでも最後に邪神が復活して強制ゲームオーバー。そう、ハッピーエンドがないのだ。いや正確にはあるかもしれないと数多くのゲーマーがシナリオの解析に勤しんだ。・・・だが皆一様に投げた、それはもう盛大に匙を投げたのだ。それもそのはず、主人公の名前一つで分岐が変わる上に完全なるフリーシナリオで、街に行く時期や順番、さらには仲間にするキャラクターの順番やレベルに至るまでシナリオの変わる選択肢が多すぎるのだ。そして極めつけに製作会社が倒産したことで、続編や追加シナリオによるハッピーエンドなどの可能性もなくなり終ぞ完全なるクリア者は出なかった。なぜそんなゲームを俺は未だやっているのか? 俺はそもそもゲームをあまりやる方ではない。親も厳しかったし、部活でバスケをやっているほうがよほど楽しかった。だが、中学3年の春に接触プレーから膝を壊してしまい、幸い日常生活に支障が出るほどではなかったものの3ヶ月ほどのリハビリもあってか最後の試合に出る事が出来ずやる気を失っていた。そんな中で普段はうるさい母親が、腐っている俺を見かねたのだろう。何か楽しめるようにとゲーム片手にこう言ってきた。
「真くん、たまにはこういうゲームしてみたら?」
正直、あまり興味もなかったが、あまりにも母親が珍しい事をするもんだから試しにと思って始めたのだ。
・・・そしてそこから13年、なぜか俺をひきつけてやまないこのゲームは未だ完全にクリアできないにも関わらず続けている。
「今回もクリアは出来なかったなー、でも傾向はつかめてる。前回で確信できたわ。しかし王道ルート全部外して行く感じなのか・・・。でもこれでも足りないなんてどーいうことなんだよ」
俺がこのゲームに飽きていないのは1度たりとも同じエンディングを迎えていない事が大きい。ネットを見る限りでは同じエンドも結構あるはずなのに1度も同じであったことはなかった。しかも1回毎にすこしずつハッピーエンドに近づいている気配もあるのだ。だからやめられなかった。でも毎回今一歩足りない。一番足りないのはおそらく時間だ。ゲーム内時間はストーリーに大きく関わっていてバッドエンドの大体が、時すでに遅しと言う状況になっている為に起きる。それ以外はルートミスによるバッドエンドだがこちらは圧倒的に少ない気がする。かといって時間を延ばす方法はないので気づいても意味はないのだが・・・。
「主人公は17歳スタートだけど、実際8歳くらいから始めたらどうなんだろ?」
行き詰っていたこともあり、8歳からはじめた前提でルート構築をしてみたらふとあることに気づいた。
「あれ?確かに時間が欲しいって思ったけど本当に8歳ルートなら・・ここも上手く通れるしレベルも足りる?そしたらこのルートで最短に・・・。え?まさか8歳スタートが前提なんてことあるわけ・・」
「ようやく、気がついた」
えっ?
俺は意識を失った。
続き気になる方がいれば続き投稿しようと思います。