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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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何故 私は過去の世界へ

「お客様を一人にしてしまって悪かったですな」

「いいえ ちっとも そろそろ失礼しますから」

「えっ そうですか。それはちよっと残念だったなぁ」と

老人は急に寂しげな様子


「何かご用でも」

「いや 用という程では無いがわしの研究室をお見せしたかった。

 いや 是非とも見て頂きたくて今 用意をして来たところじゃ」

「まあ~それは」

「お嬢さんがさっき 興味があると言ってらしたので

 久しぶりにわしの研究の成果がご披露できると喜んで、、、、、

 いや 年がいもなく笑って下され。つい いい気になって」と

寂しく苦笑した。


チサには息子夫婦に去られ、生きがいというべき仕事も無くなった

老人の寂しさが良く分かった。

7年程前に死んだ祖父も長年勤めた会社を定年退職してからは

急に老け込み、いっ時に爺臭くなったのを思い出す。

チサは寂しそうな山中老人の顔を見るにつけ 何かこのままでは

帰りづらい気持ちにいつしかなっていた。


(少しぐらい遅くなってもいいかなぁ まだ2時前だし

 家には後で電話しておいて) そう考えると

「せっかくだから見せて頂きます。あまり長居はできませんが」時

明るく言っていた。


「えっ それではお付き合い下さるのか。このわしに」

老人の顔が喜びにあふれた。

「あまり難しい事は聞いても分かりませんけれど」

「いや 見て下さるだけで結構 ほんの15分か20分位です。

 そんなに広い研究室でも無いし」と言いながら

先に立って階段を下りて行く。廊下の突き当たりに電話台があった。


(家にかけておこうかな)と思ったが20分位のことだしと

思い直して通りすぎてしまった。

第一山中老人はさっさと先をまるで小走りに走っているのでは

無いかと思われる程急いで歩いて行くのだ。


「さあ~ここから下へ 研究室は地下になっているんです」と

示された入口は柔らかい春の陽射しをいっぱいに浴びた

部屋の中程にあるドアだった。

地下室と聞いて一瞬 チサは嫌な気がした。

暗い かび臭さい部屋を連想したし いかに老人とはいえ

二人きりで地下にに入るのはためらわれた。


しかし老人がそのドアを開けると思っていたのとはまるで違い

地下へ下りる階段には今いる部屋と同じ 緑色の絨毯がひかれ

明々とルームライトに照らされていた。

それに地下の部屋の入口というのもほんの5・6段で

すぐそこに見えていた。

「さ どうぞ」

老人は先立って下りて行く。 その気安さと部屋の明るさが

つい 気を許す。ついて下りて行きながら今入って来たドアを

見返るとドアはいっぱいに開かれ 陽射しが入口まで届いていた。

どこかで食器を洗うような音が聞こえた。


(婆やさんがいたんだわ)

何かしらホッと安心してドアをくぐった。

それがどんな運命を与えるかも知らずに、、、、、、



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