お万の方 大奥総取り締まりに、、
「武士に限らず 町屋ので者も豊かな暮らしに慣れすぎ
貧しい百姓や名もない民人ばかりが 生活に苦しめられる一方
要領良く金を掴んだ商人の中には 武士や大名にまで金を貸し
仕舞いにはその藩の内情に口出し 金の力に寄って自分達の商いに
都合の良い肩書きを持つ人々に 多大な賄賂をしてその引きにより
また 金儲けするというようになります。
その為 綱吉亡き後の徳川幕府は 酷い財政難になってしまいます」
「ふむ」 伊豆守は天井を見上げて嘆息した。
そんな伊豆守に チサはからかい気味に問うた。
「信じられますか? 私の言う事」
「いや にわかには、、 しかしそういう事は無きにしも有らず
今は何とも言いがたい心持ちでござる」
「そうですね。 まだこれから先に起こる事ですものね。
信じろと言う方が無理なのです。 でも竹千代君を丈夫にお育てして
立派なお世継ぎを残されるようにすることには反対なさらないでしょう」
「それは毛頭 我等 幕臣にとって竹千代君は大切なお方
上様のご嫡子でござる。 そのお方をもって五代様を得られることが
最も望ましゅうござる」
「ああ 良かった。これで私も力強い味方が出来たと
思っていいのですね」
「でも お話しがある時 どうして貴方様に連絡したらいいのですか?」
「その手立ては これから考えねばなりませぬ」
「私は大奥より簡単には 出られぬ身ですから何か良い
方法をお考え下さいませ」
「心得ました」と いう訳で
その日はそのまま別れた。しかしこれは伊豆守にとっても大問題だった。
大奥にはお広座敷というひと間があって
そこでお年寄や中臈が 表御殿の人々と面会できるようになっていたが
本来 何の繋がりもないはずの伊豆守とチサが そこで度々
会う訳にはいかない。
良い考えも浮かばぬ内に日はすぎ 中奥に篭って春日局の喪に服していた
家光も ようやく精進落としをして政務に復帰し
その翌日に久しぶりの大奥お成りがあった。
お目見得以上の奥女中達 総出でお鈴廊下にお迎えし
仏間拝礼の後 お小座敷で休息される将軍に大奥を代表して
お万の方が弔辞を述べた。
家光は悔やみの言葉に深く頷き
「春日も功なり名を遂げて このように大勢の人々に惜しまれつつ
世を去ったのだから本望であろうが わしはもう少し
せめて竹千代が長ずるまで生きて欲しかった」と 言うと
お楽の方は 堪え兼ねたように顔をそむけて 目頭を押さえる。
一同 しんと静まる中 家光は
「さて 春日亡き後の大奥を束ねる者がいる。
それを決めねば わしはその役目 お万に任せようと思う」と
言うので お万の方は驚く。 本来ならばこの役は世継ぎのご生母
お楽の方がなるのが準当だったからだ。




