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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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初めて会う松平伊豆守

局の屋敷に着いて見ると 何となく邸内が騒がしい。

どうしたのかと尋ねる和島に 家の者は夕刻より局の容態が急変し

今 医師が駆けつけ往診中だと伝え ひとまず控えの間でお待ち下さる

ようにとのことであった。



燭台のろうそくで明るく照らされたひと間に 

暗い気持ちで座る和島とチサのところに 間もなく

「お局様が おチサ様をお呼びでございます」と

侍女が呼びに来た。 急いで駆けつけたチサの眼に高熱の為

脂汗を流して苦しむやつれた局の姿



「お局様」

声も涙に駆け寄るチサに 局はしっかりと頷き

「チサ 春日亡き後も教えた事は必ず守り上様にお尽くし申し上げるのじゃ」

途切れ途切れに言う。

「は はい」  後は言葉にならず流れる涙に頬を濡らして

局の手をしっかり握る。



素人目にも死期が迫っている事は明らかだった。

局は大きく息を吸い

「チサ そなたに」とまで言った時 急に呼吸が乱れ大きくもがき苦しんだ。

慌てて薬湯を飲まそうとする医師の手を頑強に払い除け苦しい息使いで

「チサ 後の事は伊豆殿にゆうてある。

 伊豆殿に会って話すのじゃ」と 言ったきり意識を失った。



「お局様」

縋り付くチサを押さえて医師は脈を取り

「もはや お脈も弱くなっております。親者の方々をお呼び下さい」と告げる。

その夜 春日局はついに意識を取り戻すことなく永眠した。

有名な{ 死しても徳川を守るべし }のような言葉はなかった。



春日局逝去の知らせは 夜明けを待って家光の元に届く。

家光は育ての母たる局の死を深く悲しみ

その日から表御殿にも大奥にも足を踏み入れず 中奥に篭ったまま

食べる物も魚肉を避けて精進料理にする等 ひたすら局の喪に服した。



春日局の葬儀は盛大を極め 大奥はもとより表からは家光の命を受けた

譜代の家臣も動員されて 今 静かに眠る柩は本郷湯島にある

天沢山麒梓院へ安置される。

その日 柩の輿に従う者は 男は無紋の裃姿 女は白無垢姿で延々と続く。

その葬列の中で 駕籠に乗れるのは松平伊豆守はじめ老中格の者や 位の高い人々

女では 将軍の姉君 天樹院のご名代 御台所たる中の丸殿のご名代

お世継ぎ生母のお楽の方



上臈お万の方 和島はじめお年寄の各位 続いてお客会釈梅山達

チサ達中臈が続く。長い列が麒梓院に着く頃は陽も傾いていた。

祭壇近くの右手には老中や重臣達

左手には天樹院のご名代から順に座に着き葬儀の始まりを待つ。



その中で右手に居並ぶ重臣達の目は

誰言うでもなく 前に座っている人々 つまり男子禁制の大奥に住む

女達に注がれる。 特に興味をひくのは将軍の愛妾であった。

お万の方の美しさ 臈たけた優雅さは他を圧っしてみなの心を打つ。

竹千代君生母 お楽の方も子供を産んだ後の落ち着いた美しさがにじみ出て

誰の目にも美しいとうつる。



続く中臈お玉 お里沙も京女特有の瓜実顔に色白く

京人形を連想させるような美しさである。

ちなみにお夏は 懐妊中の為ここにはいない。

だが 次に座るチサの姿を見て誰も言葉には出さぬが 

みな一様に胸の内 首を傾げる。

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