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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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竹千代の百日咳

その5日後 またもやお楽の方から呼び出しを受けて

行ってみると 彼女は佐和と共に出迎え チサの言った通りに

したところ お乳を吐く回数がずっと減ってきたと顔を輝かして報告した。

そうして一度会ってくれと竹千代の部屋に案内する。



見ると大きな部屋に小さな布団が一つ

下段の間にはズラリと侍女達が並んで座っている。

小さな布団のその中に これまた小さな皺くちゃの赤ん坊が

葵の御紋入りの立派な産着を 何枚も着せられてうごめいている

様にチサは驚いてしまう。



「まぁ こんなにたくさん着せて、、」と ため息をつく。

「えっ 何かおっしゃいました?」

お楽の方が聞きとめて尋ねる。

「いえ あの あまりにたくさんのお召し物に驚いて

 しまいました」

「夏とはいえ まだ日も浅く もしもの事がござりますれば」

佐和が口を挟む。



「そうですね それに今は お眠りになっているのが

 ほとんどですものね」と

チサもあえて逆らわない。 3ヶ月を過ぎて本当に薄着が必要な時

それとなく注意すれば良い事である。

ぜひともこの若君には 丈夫に育って貰い四代将軍職をまっとうし

綱吉の犬公方を避けなければならない。



竹千代は日々成長し 夏を迎え手足を良く動かすようになった。

チサはお楽や佐和に 夏の事とてもう少し着せる物を少なく

するように進言した。 またチサが二人に注意したのは食事

その当時の事とて 離乳食という物はない。

みな思い切り長く 乳を与えそれからお粥 柔らかくしたご飯と

変わって行く。



チサは姉の子育てを知っているから 竹千代が生後3ヶ月ぐらいから

野菜スープや果汁スープをと思ったが 当時の人から簡単には

受け入れられない。 無理とは思ったがそれを説得して説得して

スープを作り 自分で飲んで見せ お楽や佐和にも飲ませて

赤ん坊の身体に害がないといい事を 口を酸っぱくして説明した。



それでも実際に竹千代がスープを口にしたのは5ヶ月も近い頃だった。

まず 木のスプーンでひと口 ほんの少しを流し入れると

はじめはビックリしたような顔をしたが 三口目からは進んで

口を開けるようになったのでチサもひと安心



スープから始め 重湯 お粥 くたくた煮の野菜

すり潰した白身の魚と 気を配りながら進めてゆくと

竹千代は風邪一つ引かぬ活発な赤ん坊に育って行く。

それには子育て経験のある佐和や お付きの老女達も感心することしきり

今まで自分が育ててきた我が子達に比べ

その発達の良さに驚く。



ともかく 良く飲み 良く食べ 良く出す{ウンチ} なのだ。

チサは気候が良くなるに連れ 薄着にさせる事に成功し

生後7ヶ月もすると寝返りを始め 10ヶ月には

ハイハイを始めた。

このスピードに周りの人々は驚いた。



何しろ昔は 足を隠してしまうような長い着物をきせて

いた為に 私達からすれば足の発達が遅れるという観念がない。

当時の幼児は歩き出すのが1歳半過ぎてからとか 2歳になるのも

珍しくなかった。 しかしハイハイを始めると目が離せない。

竹千代はすぐ あちこちで頭をぶつけたり足をぶつけたり

虫に刺されたり腫れ物が出来たりと忙しい。



一度腫れ物が出来ると治りが遅かったり 打ち付けた所がなかなか

良くならなかったりという 本来なら虚弱児という体質は

なかなか変わらない。

チサのおかげで 持ちこたえているといるというところか、、、



それは医師達も良く診ていて

「若君は元来 病弱な体質をお持ちであるから

 くれぐれも注意を怠らぬように」と

周りの人に常々言っていた。

それだけに側にいる佐和やお楽の方はいつも気を使う。



こうして竹千代はめでたく三歳の誕生日を迎え

その月の吉日を選んで  生母お楽の方 乳母佐和はじめ多くの女中達

家臣を引き連れて二の丸に移って行った。

本来 世継ぎの若君は将軍の住む本丸に準ずる西の丸が通例と

なっていたが 幼かったのと病弱の気があるという事も

あって本丸に近い二の丸が当てられた。

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