お蘭の出産
上様が上機嫌で中奥に戻った後 局は北の御部屋から長局へ廊下を
たどりながら 不思議でならない。乳人の一件と言い今度の事と
言い先に分かるはずのない事を チサは言い当てる。
本当に占いか? いや そんなあやふやなものでこうも詳しく
分かるのだろうか。 どうも信じがたいがと 自分の戻り
一段落つけてから 局は人気の無い庭先へとチサを連れ出した。
「お蘭の一件 先日そちが言った通りの事が起こった。
こなたが先に聞いていたゆえ 大事には至らなかったが
チサ どうしてそちには2日前にこの事がわかったのじゃ」
チサの眼をひたと見つめ 真剣に問われても答えるすべは分からない。
「それは占いの一種と」 苦し紛れに言ってみるが
「まこと それは人の運命を占うことができるのか」と
言われても そうです とは言いきれない。
チサは局に分かって貰えるとは思わないが
真実を話すしか無いと思った。
「お局様 ではお話し致しましょう。 あれは占いではありません。
しかし これからチサの申す事 お局様には信じられぬと
思われます。無理に信じてくれとは申しません。
あまりに不思議な事なので 私自身も今だに信じられない
ような事なのです。それをお心に踏まえてあまり驚かないように
して下さいませ」
いつにないチサの真剣な表情に 圧倒されて局は
身が凍るような錯覚におちいり ぎこちなく頷いて
「申して見よ」と 先を促す。
「はい お局様は私をご覧になって常の女と違う変わり者と
思し召しでしょう」
「少なからず変わっておるな」
「そのはずでございます。 変わっていて当たり前なのです。
実は私 この時代の日本の人間ではございません」
そう言われても局には 何の事かさっぱり理解できない。
「今よりずっと後の 300年余り後の世に生まれた者で
ございます」
「ええっ
チサがあまりに突拍子もない事を言い出したので
気が狂ったかと気味悪げに 後すざりする。
そんな局にチサは
「別に気がふれた訳ではありません。 私は正気です」と ニッコリ
とは言うが、、、と まじまじと見つめてしまう。
「ですから はじめにあまり驚かないで下さいと申しました。
そうして信じてくれとは申しませんから、、、、
でも嘘ではありません。300年余り先のある日
私は友人の婚礼からの帰り道
突然 ある事件に巻き込まれてこの世界
私が生きていた時代とは大違い 過去の時代
昔の徳川三代将軍の時代に来てしまったのです」
「そんな事があるものか」
「本当に 本当に不思議な事なのです。
私も今だに信じたくはありません。 夢であったらと
何度願ったことでしょう。 嘘であったらどんなに嬉しいことか。
そうすれば私は今頃 父や母 姉 友人達と楽しく
暮らしていたのに、、、、、、」




