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チサと大奥  作者: 五木カフィ
39/150

斬新なお掻いどりに 皆の眼が、、、、

チサのお掻いどりはその翌朝 将軍お迎えのお鈴廊下で当然 

奥女中達の目をそばだたせ  見る者すべてに驚嘆の声を

上げささずにはおかなかった。

「まぁ 素晴らしい 綺麗」

「なんて美しい」

「ちょっと触らせて」等と

口々に誉めながら チサの周りに集まって来る。



「おチサ様がこの柄を お考えになったのですよ。

 素晴らしいでしょう」と

チサが答えるより早く 無口なはずのお蘭がまるで 自分のことを

誉められたように 嬉しそうな顔をして話してしまう。

「おチサ様が ご自分で」

「まぁ 素敵」

「今度 私のも考えて頂く事になっています」

「まぁお蘭様が うらやましゅうございます」

「私も欲しい」等


常はおしとやかに振る舞う奥女中も こと着る物に関しては

目がない。 口々に騒ぎ立てるのをお玉達中臈の三人と

その侍女達は羨望と妬ましさの入りまじった目で

冷ややかに見つめていた。


「これっ はしたない 何を騒ぎ立てておるのか

 間もなくお成りの刻限というに」 

その時 和島の厳しい声がとんで みな慌てて潮を引くように

サアッと左右に分かれ 長いお鈴廊下に平伏した。


その中を厳めしい顔付きの春日局を先頭に 四人のお年寄が続き

お錠口に間近い場所に いつものようにひざまずく。

局はチサとお蘭の前を通る時 チラッと視線を投げかけた。

お蘭はいつになく頬を染め 楽しげに見える。

(思えば不思議なことじゃ) 局は思う。



二人のお手付き中臈がいさかいもなく お掻いどりの図案を

書いて上げる ありがとう とまことに仲が良い。

上様は チサは気にすまいと言われたが本当の事であったと

今改めて思った。  

間もなく 鈴の音が鳴り響き将軍家光が入って来た。

みな一斉に 平伏す中を機嫌のいい顔で歩んでいたが

その足がチサの前でハッと止まりかけた が 思い直したように

そのままスタスタと通り過ぎた。



だが 仏間礼拝が済み お小座敷で休息のおり

局の立てるお茶をゆっくりと喫しながら 居並ぶ他の側女達には

見向きもせず しげしげとチサを見つめて

「それは良く似合っておるのう」と

濃紺地にカトレアと小花の衣装を見て 眼を細めた。

そんな事は初めてだった。女達は一様にハッと胸をつかれて

思わずチサに視線が集まった。


「初めて見る模様じゃのう なんと言う花か?」

「はい あのう」

尋ねられても困るのだ。  まだこの時代にカトレアの花は無い。

仕方なく

「私が考案した花で 下絵を書いて呉服の間にお願いしました」と

答えると 家光はビックリしたように

「そちは 絵を描くのか」と 尋ねる。



「いいえ そんな絵と言うような物は書けません。

 ただのなぐり書きにして後は 口で説明しました」と 慌てて取り消す。

「そうか さもあろう  わしにはそちがおとなしく

 絵筆をとっている姿など およびもつかぬ」と

笑いながらチサをからかった。 余人のいる前でこんな事を

言うのも初めてだった。まるで人の目を意識しない二人だけの

時の会話のようである。 春日局は眉をひそめ


「そろそろお時刻にございます」と さりげなく促した。

「うむ」と

素直に立ち上がり 行きかけながら思いついたように振り返って

「また 変わった物を描いたら今度は わしにだけ見せよ。

 それなら絵がまずうても構うまい」  この一言が多かった。


お玉 お夏 お里沙達は一瞬 顔面蒼白 噛み締めた唇がブルブルと震える。

局も今度は 険しい表情で

「おたわむれが過ぎましょう」と 強く言う。

そこまで言われて家光は やっと馴れ馴れしくし過ぎたと気づいたが

あまり動ずる様子もなく

「ハハハ 戯れ言じゃ 気にするな」と

照れ隠しに笑いながら行ってしまった。



その後が大変だった。 お見送りが済んだ後 チサはお玉 お夏 お里沙

および アンチ チサ派の女中達から文字通り刺すような視線を

一身に受けた。

日頃 チサが密かに敬愛しているお万の方もさすがに

気分を害したらしく 伏し目がちに顔を背けて去って行った

チサの胸は痛んだ。

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