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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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春日局の登場

局は驚いた。

そうして最近 他の女達をも閨に上がるようになったと言われる陰に

チサという女の口添えがあった事を知り唖然とするのだった。

その内に家光は政務をとるため表御殿に行く時間が迫ってきた。

彼は局の返事も待たず 立ち上がると

「では しかと頼んだぞ」と

言いおいて行ってしまった。



後に残った局は大奥に戻る廊下をたどりながら考えていた。

どうやら 今の家光の心はチサで占められていると

思って良い。チサは気にすまい と上様は言われたが

お蘭はそうはいかないだろう。

(かわいそうに、、)

そこまで気を配われてはいないのだ。


しかし局が心外だったのは  チサが自分から他の側女を

召し出せと言ったらしい事だ。

我が身一人が愛され いち早くお腹様になる事を願うのが

お手付き中臈になった女というものと

考える局には どうにも解しがたいチサである。


また その意見を素直に聞き入れた家光

局の心中 穏やかならぬものがあった。

だが ここで一つ安心なのはお万の方のように身分が

あるという訳でもなく 強力な後ろ立てもないという事

和島の話によれば生国すらはっきりせず

両親 兄弟の類いもないまったく天涯孤独らしいという事だ。


それと自分の部屋に預かるとなれば十分に監視の目が届く。

他の側女達をもと家光に すすめたのも結果として

それだけ懐妊するチャンスが多くなると言う事

そう考えてくると 少し気が楽になり

部屋に戻ると早速  お蘭だけをひと間に呼び寄せ

チサの事を打診して見た。


家光が命じた事は伏せてである。

それを言うのはお蘭に限らず 他の者にも刺激が強い。

チサが家光に頼んだ事柄も一緒に 内緒にしておかなければ

ならなかった。


「近頃 上様のお側に上がったチサと言う女を存じておろう」

「はい」

お蘭は長い睫毛をふるわせて小さく答えた。

美しい女だった。 こんなにも美しく可憐な女が

いると言うのにと 春日局は胸の奥でつぶやいた。

噂に聞くチサという女は 特徴のないどこにでもいるような女と聞く。


「聞けば その女は気が強く諸事振る舞いも側女に相応しからぬと言う

 大奥に参って日も浅く 仕方がないとは申せ今 預かる梅山が

 注意してもいっこうに改めようとはせず 手に持て余して

 いるらしい。 それに梅山はお客会釈の役職じゃ

 本来ならば中臈を預かる分ではない。

 そこで考えたのじゃが その女をこなたが預かって見ようかとも

 思うが どうであろうか」



局にしては 恐る恐る切り出して見た。

ハッとお蘭は顔を上げたが すぐまた面を伏せた。

そうして ややあったが

「結構なことと存じます」と はっきり返答したので

「えっ 良いと言うのか?」と 局の方が面食らう。

「私 皆さんが言うほど その方が悪い人とは思えません。

 どうぞ 私にお気使いなくお呼び下さいませ」



お蘭は内気な女であった。

自分の思う事の半分  いや 十の内一つしか言えない

ようなところがあった。

その上 お万の方やお玉達のように公家 旗本の家柄と

いうのでもなく 春日局に拾われた町人の娘だったので

身につく教養も低い。


それゆえに いつもお玉やお夏 お里沙達から

目の敵にされ 事あるごとに身分の違いを意識させられて来た。

それに引き換え チサという人は 自分より素性がはっきり

していないと噂される人  まだ親近感が持てる。

また 自分とは反対に何でもズバズバ言うようなたくましい

性格らしい。


常々 自分もそんな風になれたらと羨ましく思っていた。

元々 望んで大奥に入ったのでなく 局に半ば強引に引き込まれ

指導を受けて側女にさせられたのである。

だが お玉達からは町人上がりと白い目で見られるし

家光が優しくしてくれる訳でもないので

家にいた時の方がずっと幸せだった。

ほのかに想い合っていた人もいたのである。



しかし 今となっては遠い昔の事

お蘭は二度とあの楽しい町家の暮らしには戻れない。


反対すると思いきやお蘭があっさり承知したので

局はホッとしてお年寄達を集め チサを自分の返答に

預かることを打ち明けた。

お蘭様がいるのにと 彼女達はいぶかったが

お蘭が承知の上と聞かされて二度びっくり。


そんな中 和島だけはこの無法とも思われる部屋預かりの

一件の裏に家光の強い希望があったのだろうと 早くも察しがついた。

上様のご寵愛は それほどに深いものであったかと

心中 呆然としたが その無理を言う上様の心も分かる気がする。

お万の方に対する局の 冷たい仕打ちを上様はご存じなのだ。

それゆえに今度は あのチサを局の手の内に入れて

安心させようとなされたのだろう。

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