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チサと大奥  作者: 五木カフィ
32/150

チサの提案が、、、、

後に残された家光はあっけに取られてしまう。

将軍たる自分に対してなんたる無礼な奴。

思えば腹も立ったが チサの態度があまりに唐突だったので

しばし 呆れていた。 まったく何を考えているのか

さっぱり分からない女である。


家光と一つ部屋に寝ながら身体には触らせない。

それでいて固くなる訳でもなく 明るく無邪気と言っていいほどの

笑顔で いろいろな事をしゃべり続け自分には想像もつかない

不思議な事を話したり 家光の幼年時代の話しを聞きたがったり

表御殿で行う政治の事を聞きたがったりと

とにかく 今まで彼が知っていた女とはまったく違っている。


そんなチサに会うごとに魅かれていった。

話し合うつど 新しい話題があり新しい考え方をするチサとの夜のひと時

それがたまらなく楽しいこの頃の家光だった。

彼は初めて女を顔の美醜に関係なく 人間として魅力ある者として

見ることができた。


そうしてチサを今では 離し難い奴と思ってまでいるのに何とした事か

こともあろうに他の女達とも 閨を共にせよと言い出したのだ。

家光にはチサという女がまったく分からなくなった。

(わしの心も知らずに)と

腹立たしい気持ちでチサの方に目をやると 背を向けて深く被った

布団の肩の辺りが 小刻みに震えている。


(泣いているのか)

家光はびっくりして側まで寄っていった。


チサは泣いていた訳では無い。

ただ 名状しがたい恐れのようなものが 襲ってきて

身体の震えを押さえる事ができなかった。

(本当に上様と私が愛しあうような事があるのだろうか。

 結婚 ああ こんな形の結婚なんて無い。

 私は彼を本当に愛したのかしら?)


チサにも今まで付き合った人は2・3人いた。

だがそれは 結婚まで考えていた訳ではなく恋人よりも

ボーイフレンドに近い存在だった。

でも その彼氏と会う時はウキウキするような楽しい

気分だったし 話していてもそうだった。

食事をしたりドライブに行ったりしてもいつも楽しかったし心弾む時間


それに引き換え今は、、、、、

家光との時間は比べようも無い。

育った環境があまりに違い過ぎる。 それは仕方ないとして

家光には側女が五人もいる。

言わば本妻さんと別居していて 1号さん 2号さんと5号さんまで

いてそれが同居している訳である。


そんな不自然な形 生活に自分はついて行けるのか。

家光と過ごすひと時も楽しいとは言い兼ねる。

それよりも一種の緊張感があると言った方が 言いかも知れない。

いつ 無礼な奴めと切られるかも知れないという思いが

いつも心の片隅みにあったからだ。


だが チサの話しをいつまでもじっと聞いてくれる人だった。

彼に分かるはずのない現代の話を懐かしんで している時も

黙って楽しそうに聞いている。

チサを思い通りにしようと思えば わけない立場にあっても

無理強いする訳でもなく このひと月 何事もなく過ぎた。


これは彼の優しさなのだろうか。

まだ本当の恋愛に巡り会ったことのないチサには

分からない事ばかりだった。

もし チサがここでから愛していたら 他の女を閨に呼べなど

決して言わなかったはずである。

なぜなら恋は その人を独占したいと思い 少なからず束縛

したいと思うものなのだ。人をわがままにするものなのだ。


だが そこまで気づかないチサは 今の妙な心の高ぶりに驚いて

家光との話し合いの中 慌てて布団に潜り込み気持ちの

整理をつけようとしていた。 そこへ家光が寄って来て

「どうかしたのか」と 声をかけた。


チサが黙っていると 困ったように

「わしには そちという女が分からぬ。 なぜ 他の者を

 閨に呼べというのか。それほどにわしを嫌うか?」

「いいえ」

チサは起き上がってゆっくり 家光に向き直った。

「私は 自分の言った言葉に自分で驚いているのです」

「それはまた なぜじゃ」


「私はさっき 上様にいつの日か新しい女が現れ

 私は忘れられて惨めになると申しました」

チサは一語一語 その言葉を噛み締めるようにゆっくり話した。

家光は黙って聞いている。

しばし 言葉が途切れたが やがて思い切ったように

「そうなる事を恐れているのでは無いかと思ったのです。

 上様を愛してしまってから忘れられ 捨てられるのは

 嫌だと 他の方々の為でなく自分の為に、、、」



「チサ もう良い」  家光はチサをさえぎり

「もう言うな それならば良いのじゃ わしはまたそちが

 わしを嫌って ここに来るのが嫌さにそんな事を言うのかと

 腹立たしく思っていたのじゃ  わしは次第にそちを愛しく思うに」

「上様っ」

「もう言うな わしの心は決まった チサが何と言おうが

 生涯 わしの側を離さぬ」と

力強くチサの手を引き寄せた。


(怖いっ)

何が怖いのか分からなかったが 反射的に身を引こうとしたチサ

だが 反対になお強く身体を引き寄せられた。

チサの心に起こった小さな迷い

家光を愛したのだろうかと思った迷いが言わせた言葉

人の為ではなく自分の為ではなかったかと言う一言を聞いた時

家光の心は決まった。


燃え上がるものに胸を押しつぶされ 衝動的にチサの身体ごと

引き寄せていた。

「待って 上様 怖いっ」

まだ 決心のついていないチサは震え上がり

必死の抵抗を試みるが その間も無いほどに彼の行動は早かった。

男の力の前にはチサのあらがいも 何ほどになろうか、、、、、

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