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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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チサの提案が、、、、

そうしてお祝い言をのべ 自分の忠告を素直に聞いてくれた事に

感謝すると チサは急に笑いだし しかしすぐに真顔になって

「上様はとても お優しい方でございました」と 報告した。

「そうであろう そうであろう」と

梅山は感激している。


およの達も眩しそうにチサを見ていた。

チサは彼女達に昨夜の事柄を話して聞かせたら

どんなに驚くだろうと考えるだけでも面白かった。

そうしてその夜も また次の夜も将軍は大奥泊まりの時

チサを召し出した。


そして宵の内は話しをして別々に眠り 

朝 何食わぬ顔をして中奥に戻る。そんな生活がひと月くらい続いた。

そんな中 あまりチサばかり召されるので長局での

風当たりがだんだん強くなってきた。

特に気位いの高いお玉がいるお年寄 花岡の部屋などは

部屋中の者が 梅山の部屋子にまで目の敵にして来るので

時々 いさかいがおきたりした。


お夏のいる波野 お里沙のいる姉島の部屋でも

似たり寄ったりで これという後ろ立てのないチサと

我等とは格が違うと見下げていた。

もう一人の中臈 お蘭のいる春日局の部屋では局の病いが

長びいているのをもどかしく思っていた。

局が大奥にあれば上様に対して何かとは忠告もしようし

手のうちようも有ると言うもの、、、、


「あんな はしたない振りをして上様のお目に止まった女

 どんな嬌態を見せてたぶらかしているのやら」と

言うのがアンチ チサ派の言い分である。

しかし反対に好意的とは言えないものの あからさまに

反抗的でない人もいた。四人いるお年寄の内 

花岡はアンチ チサ派 波野と和島もそれに近い。


しかし 残る一人仲里は口で言う事と腹の内では違う女達の中で

自分の意志をしっかり持ち 実行するチサを見て好ましく思っていた。

また 側女の中でも別格のお万の方は教養も高く

優しい心をお持ちだったので チサばかりがお閨に召されても

さほど気にとめず将軍の為 早くお世継ぎが生まれる事を

神仏に祈っておられた。


そう言った賛否両論の渦巻く中臈チサを預かる梅山は

もともと小心者 毎日が身も細る思いである。

今 ご寵愛の深いチサの身に万一の不祥事でも起きたらと

心配でならない。

元来 お手付き中臈はお年寄との相部屋と定められており

その監督を受けることになっていた。

だが今は それを決定する春日局不在とあって

まだ梅山の部屋に同居している。


その日は非番だったので 疲れた身体を部屋で休めていた。

すっかり春めいた庭先に目を向けていると

気持ちも和み ほんのりとして来る。

チサはというと これはおよの達と一緒にせっせと

部屋中の掃除をしている。

中臈はそんな事 しなくていいのだと言ってもじっと座って

いるなんて退屈な事はできないと言い張る。


さっさと庭掃きもするし 拭き掃除もする。

さすがに用所(トイレ)だけはおよの達が断固 拒んでさせなかった。

梅山が脇息にもたれてうとうとしていると急に

慌ただしい足音と共に一番若い部屋子 お仙が泣きながら

かけ戻ってきた。彼女は部屋に入るなりワッと泣き伏す。


突然のことにみなびっくりして思わずお仙の側にかけ寄った。

「お仙 どうしたのじゃ」

梅山も心配そうに尋ねたがお仙は ただ泣くばかり

見ればめくれた裾からのぞく足の脛がかなり広範囲で赤くなっている。

「泣いていては分かりません。 脛が赤くなっているけれど

 転んだの?」と

春江がただすとお仙は泣きじゃくりながら事の次第を告げた。


「私 先程 旦那様からお言い使りの本を持って花岡様の

 お部屋の前を通りました。廊下を拭き掃除なさっていたので

 邪魔に成らぬよう気をつけておりました。

 いつもはおしゃべり等しながら 賑やかになさっているのに

 今日は何も言わず妙だなと思いながらいますと

 突然 ワッと笑われました。 

 あまり急だったので私 慌ててしまって駆けだそうとしましたら

 ツルリと滑って転んでしまい その中の一人にぶつかって

 しまいました。そうしたらみなさんに さんざんな事を、、、


 この頃は 偉ぶって上を向いて歩くから転ぶとか

 お部屋の方のお作法が知れますとか 果ては嫌がらせに

 わざとぶつかったのだそうとか もうさんざんな事を

 口々に言われて、、、」

お仙は悔しさにまた泣き出す。


春江はお仙の着物の裾にこびり付いていた蝋燭を指先にとって

「旦那様 廊下に蝋を塗ってあったのです。

 わざと転ぶように」と 梅山に見せる。

「まぁ ひどい」

およの達は口々に花岡の部屋子達を非難する。

中には こんな事もありました とっても告げる者もいた。

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