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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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チサは過去の世界へ

歩きながら家光はチサという女に何か心惹かれるものを感じていた。

熊みたいな男かも知れない等と無礼な口を叩いていたが

女には珍しく自分の意見 主張 考えというものを持っていると思われた。

いつも彼の側に侍る女はこちらが何を言っても

はい はい と浮き草が水に漂うごとく従うだけで

どこに心があるのか 本当は何を考えているのかはっきりしない。

男性的な気質の家光はそういううじうじしたのをあまり好まなかった。



「今 聞いた事はいっさい他言しては為らぬぞ」と

小姓に命じた。

「はいっ」

小姓は不服らしさを滲ませて返事をする。彼女にしてみれば

(あんな大それた事を言って置きながら)と

思ったに違いない。 しかし家光は重ねて

「良いか しかと申し付けたぞ」と

強く言いつけた。


彼はチサという女に会ってみたいと思うようになっていた。

だが それから政治の事でちよっとした事件が起こり

間もなく忘れてしまった。

しかしまたも偶然に 家光とチサが巡りあう日が意外に早く訪れた。


それは毎年 吹き上げ御苑にて行われる花見の宴であった。

例年 大奥でも花が咲き揃う頃には奥女中一同

晴れ着を新調してこれにのぞんだ。

本来ならば御台所が一同を引き連れて行うものであったが

家光は御台所とは反りが合わず 中の丸という所と別れて暮らしていた。


それゆえ ここしばらくは春日局が代行しており

その日には家光自身も花見の宴に 顔を見せる事もあった。

しかし今  その春日局は折悪しく風邪を引き込み拝領している

自分の屋敷で伏せっていた。


今年の花見はお流れかとおよの達は歎いていたが

3日前 急遽 将軍より上臈お万の方の引率にて花見の宴を

行なえと御達示があり  奥女中達は生き返ったような大喜び

何しろ 奥から出て広い庭で飲んだり食べたり踊ったりと

さんざん羽を伸ばした自由行動ができるのだから、、、


日頃 畏まって生活している身には羽目を外して大騒ぎが

できる又とないチャンスなのだ。

実は この花見の宴が行なわれたのには春日局の強い希望が

あった事をおよの達も多くの女達も知らなかった。


大奥の高職者も家光自身も局の不在とて 

今年は取りやめにしようという意向だった。

しかし 先頃 家光が局の見舞いに訪れたおり その事を話すと局は

「私めの病いの為に 女中達が1年に一度と楽しみに

 している花見を取りやめさせるのは 心苦しく思われます。

 幸い病いもの軽く 後しばらく休養致しますれば出仕も

 叶いますゆえ どうぞお心おきなく」と

言って宴を行なうように勧めたのだった。


しかし その事にはついては局は局なりの計算があった。

それは未だに恵まれぬお世継ぎの為である。

家光には現在側室が五人  上臈お万の方はじめ中臈 お蘭 お夏

お玉 お里沙がいたが 誰一人として若君を授かった者はない。

ただ一人のお子は姫君であったし その生母お振りの方は

すでに他界していた。


この五人の内 家光がもっとも親しんで寵愛しているのが

お万の方だった。 公家の出身でずば抜けた美貌を持ちながら

出家して尼になっていた彼女を家光は

自分から望んで還俗させ側室としたが 惜しむらくは

産まず女であった事だった。


それについては春日局がお万の方に実権を握られるのを

嫌って医師と謀らい何やら画策したという噂があるが

真偽のほどは定かではない。

だが 将軍家の血筋に公家や皇族の血が入ることを

極力 避けていた事はあったようだ。


お万の方は天性の美貌の上 心根も素晴らしく教養持ち深い人だったので

家光の寵愛は深く その事がいつでも何事にも家光にとって

第一人者で有りたい局の気に入らず 二人の仲は

決して穏やかなものではなかった。


だが そんな局に反抗するかのように彼はもっぱらお万の方のみを

愛し局が勧めたお蘭やお玉  正室の孝子から勧められたお夏やお里沙とは

あまり親しもうとはしなかった。


それゆえ人局は六人めの側女の必要を感じていた。

それも先の四人の事から考えて 人から勧められたのでは無く

自分から見初めた女で成らぬと悟っていたので

家光が大勢の奥女中達を自由に見て回れる花見の宴を

絶好の機会と見て積極的に勧めた。

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