チサは過去の世界へ
「何が古いって言われるのか私にも分からないの。
でもねぇ 家のお部屋に来秋 婚礼を迎えることに
なっている方がいらっしゃるの。
文や贈り物等 しげしげと交わしているようだし私達も
女だから興味があるでしょう。
だからからかい半分に尋ねるのよ。 どんな方だとか
何のお役目とか どんな事を書いて送って来られるのとか
果ては もう手など握られた事があるかとか」
「キヤ～」
女達はいっせいに声を上げて恥じらう。
その実 もっと先を聞きたいので目を輝かせて身を乗り出す。
「けれどねぇ そんな私達を見ておチサさんはバカに
したように笑ったの。フィアンセ同士なら当たり前よ。
キスしてたっておかしくないわって言うのよ」
「ね ねぇ そのフィア何とかって何の事」
「キスってなぁに？」と
女達は騒がしい。それをチサと同部屋に女は手真似で押さえて
「それが大変なの。後で聞いたのだけどフィア何とかってのは
許婚の事と分かったけれど問題恥じらうキスという言葉よ
何の事だと思う」と
わざわざ気を持たすように女達をグルリと見回す。
これから先の自分の答えが、嵐を巻き起こすのを楽しむように、、、
「止めなさいよ。 おりゅうさん」
一度聞いて知ってるおよのは苦々しそうに止めたが女達は聞き入れない。
「いいじゃない 聞きたいわ」
「教えて 教えて」と
ますます騒がしく催促する。
「あのねぇ」
おりゅうと言う女 一段と声を低めて さも意味ありげに
「ほら 聞いたことあるでしょう。男と女が口を舐めたり吸うこと」と
言ったので女達の驚きは大変
悲鳴を上げて口を覆う者や顔をまっ赤に染めてうつむく者
袖で顔を隠す者 耳を押さえて頭を振る者など大変な騒ぎ、、、
障子の内の家光も驚いた。
日頃 自分の前ではしとやかに振る舞う女達がと、、、
とは言っても今 その庭にいる女達はみなお末か
高職者の部屋子ばかりなので、直接 将軍が目にする事はない。
しかしそれは家光の知らぬ事 彼はいつも大奥に居並ぶ
女達の中の者と思ったのだった。
その時
「ああ あ 呆れた」と
ひと声大きなチサの声
「あなた達はキス いいえ 口づけを知らないの
それとも猫かぶって知らない振りしてるの」
「まあ～ 猫かぶりなんてしてないわ。
じゃあ おチサさんはした事があるの？」と
お末の一人が興味深げに聞いた。
「キスくらいなら 何人かした事があるわ。ボーイフレンドとね」
「そのボーイフレなんとかって何」
「男友達の事よ」
「男の人の友達」
「ええ みんないるでしょ。 幼なじみとか学校 いいえ寺子屋で
一緒に学んだ時 特に気の合った男の子」
「そんな人いないわ」とか
「それならいるわ」
とかいろいろに別れる。
