家光と愛姫とチサ
お玉や居並ぶ年寄り達には見せなかったが 徳松のひ弱さが気になった。
いつも愛姫のはちきれんばかりの元気さに慣れてしまっていたせいか
身体の細さ まだ座ることも覚束ないように見える。
竹千代 長松と元気に育っているのにあのひ弱さは何か、、、、
それから1ヶ月後 家光はお小座敷での歓談の後 ひそかに別の部屋に入り
小姓に年寄り筆頭 和島を人知れず呼びにやらせた。
「お呼びと伺いました」
「うむ これからわしが聞いた事は他言無用じゃ 分かるな」
「はい おおせの通りに従いまする」
「実は徳松が事じゃ あれはいつもあのようにひ弱なのか?
聞けば始終 お匙の世話になっているとか、、」
そこで和島は包み隠さず 現在のお玉親子の現状を話した。
それから間もなく お玉は徳松と共に三の丸に住むよう命じられ
聞いたお玉は落胆した。
今 上様の閨に上がるのはお里沙のみ
産後の身体も元に戻り 早く自分もまた召されて第二子 第三子を
儲けようとしていたのに三の丸に追いやられるとは、、、、、、
これもまたチサとお万の方のたくらみかと 気をまわすが
もとより二人は 預かり知らぬ事だった。
家光は和島の報告を聞くにつれ 元気で成長の早い愛姫と比べ
病気がちで ピリピリしているお玉の様子に
大奥を離れてゆっくりと時間をかけて 子育てをしてほしいという
家光の親心が根底にあった。
だが お玉はそうは取らなかった。
お万の方が退いた今 一番美しいのは自分だと思っているし
若君を産んだという自負もある。 それを脅威に感じたチサとお方様が
たくらんだ事と思い込んでしまった。
大奥の部屋一つより三の丸という御殿を与えられた方が格上となるのに
それは大奥から自分を 追い出す為の口実に過ぎぬと思う。
だから大奥を去る挨拶に 各 部屋回りの最後におチサの方の部屋に
おもむく時 先導の侍女が
「お玉の方 大奥下がりのご挨拶に参られます」と
告げる声の終わらぬ内に きらびやかな衣装を纏ったお玉がズイッーと
一歩 足を踏み入れ チサには見向きもせずに愛姫を見やった。
その迫力とでも言おうか、、、、
正子は思わず姫を抱き寄せ 庇うような仕草に、、
だがお玉はそこより一歩も動かず 姫の顔を見つめていたがその幼顔の
中に間違いなく 美女の面影を見て唇を噛み締める。
そうして
「父君に似て祝着なことじゃ 運の良い姫よ」
捨てゼリフとも言うべき言葉を残し サッときびすを返して去って行った。
あんに チサに似なくて良かったと言っているのだ。