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チサと大奥  作者: 五木カフィ
135/150

早速 椅子がきた。

とは言え顔もはっきり思い出せないような相手である。

おこうは母への返事に託して それを相手に知らせた。

自分は生涯 大奥勤めを続けたい事

失礼ながら貴方様のお顔もはっきり思い出せないとはっきり書いたのだが

その後 又四郎は諦めず ふた月 み月に一度の割合で

文をよこすようになった。



こうなるとおよの達が気づかぬ訳がない。

「誰 誰なの?」

「母からの文よ」

「嘘っ お母様の文なら私達に隠れてこそこそ読まないでしょう」と

好奇心 丸出しで聞いて来る。

「隠れてなどいません。 母からのものです」と

上書きを見せるがおよのもかな江も 納得していないようだった。



おこうも内心困っていた。

彼はおこうが返事を書かなくても文をよこすのだった。

内容はとりとめのない話で 自分が通う道場の話や近所の猫の話まで

ちょっとユーモアをまじえて書いて来る。

何時しかおこうはそれを読むのに嫌ではない自分に驚いた。



そんなおこうの宿下がりの一件も落ち着いた頃は

もう桜の季節もすぎようとしていた。

チサも臨月に近づき 重くなったお腹は身動きしづらい。

今までならサッと立ち上がれたところが バランスを崩す。

(そうかぁ)と チサは思い当たった。

この世界では椅子という物は普及していなかった。

有るにはあったも丸椅子や 木箱を重ねたような物で今のように

背もたれ 肘掛け付きのような物は普及していなかった。



妊婦には正座より椅子の方が 断然楽である。

チサは早速 椅子の全体図を書いてお広敷きの役人に渡してもらった。

「これは何でございますか?」 かな江がチサに尋ねる。

「椅子という物ですよ。木で造れるからすぐに作って貰うように頼んで」と命じる。

かな江から図面を受け取ったお広敷き役人は 以前椅子を見た事があった。



長崎から将軍に拝謁する為 参府して来たオランダ人が

道中 一緒に持って来た物であった。とにかく役人の一存で椅子を造る事は

できないので老中に相談する事にする。

ちょうどその日の当番に 伊豆守がいたのは幸いだった。

彼はチサが未来から来た者である事を知る ただ一人の人物



それだけにチサが心細がっているだろうと察しがつくので

何か自分にできる事はないか 励ます事は出来ぬものかと

心底 気にかけていた。

しかしそこは大奥 伊豆守が立ち入れない北の御部屋

チサの図にあった椅子を見た途端 彼はすぐにひらめいた。



今から造らせるよりは先年 何回か将軍に拝謁する為 参府して来る

異国の使節団の献上品の中に この絵のような椅子が何点もあった。

あの一つをおチサ様に お貸し願おうと思いたった。

彼はその足で すぐさま家光に会いに行く。



家光はご休息の間に近い小座敷で 小姓相手に将棋をさしていた。

伊豆守が伺うと彼はさしていた将棋を止め 小姓に下がるよう命じる。

伊豆が来るからには 重要な用件なのだろうと思ったからだった。

「どうした?」

家光は幼少時代を共にした伊豆には親しい。



「お楽しみのところを邪魔だて致しまして申し訳ございません。

 大事ではございませんが 実は本日 お広敷き役人からおチサ様の

 ご要望として このような物を欲しいと言われました」と 図面を見せる。

「何っ チサが」と 家光は嬉しそうに手に取り

「これは あの椅子では無いか」

「はい 先年オランダ使節団より献上された椅子が何脚かございます。

 おチサ様はこの図のような物を作って欲しいとおおせられたとか」



「椅子を何に使うのであろうな?」

「伊豆に思い当たる事がございます」

「何 さようか 申して見よ」

「はっ 実はみどもの妻が身篭ったおり 腹が大きくなって来てからは

 立ち居振る舞いがしにくいと歎いておりました。

 寝ている時ばかりではなく座っていても 立ち上がる時には側の者に

 手を取らせるなどしておりました。椅子に腰掛けているのなら

 それも容易と察します」

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