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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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おこうの宿下がりと縁談

家では今か今かと待ち兼ねた両親が 玄関先まで出迎えていて

三年ぶりに見る我が娘に 眼を潤ませている。

「よう帰った。さ 早よう家の中へ 寒かったのでは無いか」

「父上 母上 ただいま戻りました」

「おう おう 一段と美しゅうなって さ 早よう部屋へ」と

母親はかき抱かんばかりに 暖かい部屋へといざなう。



おこうは正座して 改めて両親に帰宅の挨拶をする。

それを見る二人の眼は とろけそうに愛しげに見つめていた。

「こちらから何かお方様に お礼の品をと思うていましたが

 それを上まわるような品々を頂き 感謝しております」と 母

「母上 お万の方様も優しくして下さいますが 先に申し上げた通り

 私は今 お方様の部屋におられるおチサ様に付く侍女です。

 そのおチサ様が 各大名などから頻繁に届く頂き物をすべて

 部屋の者達に分けてくださるのです」



「それはなんと お優しい気遣いのできるお方じゃ 

 その方の生家には送られぬのか?」

「おチサ様は遠国の生まれと聞き及びます。すでにご両親も

 他界されていないとか、、、、」

「何と お淋しいことでありますなぁ」

「おチサ様は明るく振る舞っていらっしゃいますが 本当はお淋しいと

 思います。まして今は上様の御子を身篭っていらっしゃるのです。

 だから私達も 力を合わせてお守りするつもりなのです」



おこうは言外に どこにも嫁ぐ気は無いと匂わせたつもりだったが

ふた親は それには気づかぬフリをして娘の好物や 新しい反物

小物を並べて見せるのだった。

おこうには兄が二人おり 一人は家を継ぎ一人は他家へ養子婿に入り

娘はおこう一人だった。



両親とすれば三年目の宿下がりの時 これで大奥勤めを辞めて

嫁入りして欲しかったのだが おこうはまだ早い やっと勤めにも

慣れて来たところだと拒まれ 六年目になる今回は何としても

縁づかせたいと心づもりをしていた。



だから12日間のあいだに二人 三人と見合いとは言えぬまでも

顔合わせをさせる場を用意して置いた。

一夜休んで翌日からは なかなかに忙しく他家に入った兄が夫婦連れで

訪ねて来たり 近くの親類が顔を見せたり 別の日は芝居見物

また別の日はお寺参りとか いろいろもてなしてくれる。



その中で芝居小屋の前で さも偶然を装った見合いらしきものもあった。

母のお茶会での仲間に出逢う。 こちらは娘 相手は息子を連れての芝居見物

又は 立ち寄った茶店に父親の将棋相手が 妻 息子を連れて来ていたとか

おこうにすれば見え見えの猿芝居ながら ここは父母の顔を

潰す訳にもいかず ただにっこりと微笑んで相手の ぶしつけな視線に

堪えていた。



もう一人は兄の友人の弟とかで 兄夫婦と共に部屋のみなへの土産を

買いに行ったおり 町で出会い 昼でも一緒にと料理茶屋に入った。

おこうは又かとうんざりしたが この青年は物おじせずハキハキと

受け答え 食事の作法も理にかなっていて 今までの二人よりは

マシに見えたが おこうには嫁になる気は毛頭なかった。

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