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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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チサ 御膳所に立つ

チサは盛り付けていない生の人参や胡瓜を 先程のマヨネーズに

つけて試食させて見た。

「こうすれば生の野菜でも 美味しく食べられるでしょう」

「まことに」と みな納得している。

「でも大切なのは 野菜を良く洗う事とこのマヨネーズと

 ドレッシングは作り置きができないという事です。

 夏場だったら一刻くらいで腐ってしまいますから 食べる直前に

 作らなければなりません」



そこへ 毒味役の役人が二人来て それぞれに一品づつ食べて見る。

一同 その口元に思わず目が張り付く。

その中 おもむろに箸を置き ややあって二人は顔を見合わせ頷き

「よろしいでござろう」と

言うのが常であったが この日はまず二人の口から出た言葉が

「美味い」で

あったのが笑い話しである。



しかる後 それ等の品々を奥御膳所まで運び そこで新たに盛り付け

温める物は温めて中奥で調理した品々も合わせて

将軍の待つお小座敷へと運び込まれた。

チサは付きっ切りで配膳係物つとめる。サラダなど知らない

お仲居やお次 女中達には無理だったし新しい料理の品々に

みな目を見張っていた。



(なんと綺麗な)(美味しそうだわ)というのが彼女達の心の声だった。

家光が まだかまだかと首を長くして待っているその部屋に

入ってチサは驚いた。 お万の方はじめお年寄達がズラリと並んで

座っていたからだ。 非番の者までいる

普通 将軍や御台所の食事にお年寄は隣席しない。

それだけの格式があって 給仕は中臈がつとめ お下がりは

当日勤務の中臈 お仲居余れば御膳所の者が頂くことになっていた。



「待ちかねたぞ」

お次の女中が運んで並べる膳の上を見て みなひと膝乗り出して来る。

今まで見慣れた品でなく彩りの 美しさがやはり目を引く。

それと小皿に乗った黄色いマヨネーズもどき 

チサは胡瓜を箸で取り マヨネーズを3分の1くらいつけて

小皿ごと家光に渡した。



興味津々と言う様子で口にする家光 ポリポリといい音がして顔がほころぶ。

「いかがですか?」

「美味いぞ 生ではないような」

「塩で軽く板ずりしていますが生です。 人参もどうぞ」

「うむ 美味い その黄色いのは何じゃ」

「マヨネーズという物でございます。 卵の黄身と油 酢などで作りました」



「変わった味じゃが美味いぞ」と 今度運ん鯛のサラダに手を伸ばす。

チサがドレッシングソースのかかった千切り野菜と一緒に

小皿に乗せるとひと口食べて 嬉しげにすぐ代わりを要求

「鯛の刺身も今までと違う もそっとくれい」

「はい たくさんお召し上がりを、、」と

チサは同じ膳の物を取り分ける。


少し箸をつけたものをすぐ代わりをと言わない。

見ている和島達はハラハラしているが いっこうに気にかける様子も

なくニコニコと小皿に乗せては差し出す。

チサが思うに 食事にも食べるタイミングがあると思う。

もう一度食べたいなと思っている時に お代わりをと

下げられ新しい皿が来る。



その少しの間に食欲がそがれる場合があると思うのだ。

家光はもくもくと まるで子供のように一心に今度は鰆のソテーを口にし

「美味いぞ これは何と言う魚じゃ」

「鰆でございます。上様 いつもお召し上がりの物と

 同じでございます」

「そうか わしはこのようにして食したことはなかったぞ。

 先夜 申しておった鯖とか秋刀魚という魚かと思った」



「いいえ このたびは御膳所にあった物だけで調理致しました」

「満足じゃ どれを食しても美味いぞ」と

中奥からきた物には手をつけようとはしない。

まぁ 新しい物があれば仕方ないことである。

鰆も鯛も海老しんじょもサラダも綺麗に無くなったところで



「何かお代わりの物はございますか」と 尋ねた。

「鰆がいい」

「畏まりました」

「今度は鯖や鰯という魚も食してみたいぞ」

「それは、、、、 あの魚は傷みやすい魚でございます。

 手に入るかどうか私には分かりかねます」

「御膳所に申し付けよう」

「上様 あまり無理は、、、、」と チサは眼を伏せる。

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