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チサと大奥  作者: 五木カフィ
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何故 私は過去の世界へ

部屋にはいろいろな大小の機械が整然と並んでいた。

「まあ~びっくりした」

研究室と聞いて試験菅やフラスコ 棚にも薬品等を

想像していたチサは驚きの声を上げた。

「どうかしましたかな?」

「いいえ 私はまた あのフラスコがコポコポ音を出している

 ようなのを想像していましたから」

「ああ そうですか。わしの研究はちよっと違うのです。

 珍しいですよ。お見せしましょう そこに乗ってご覧なさい」と

一段高くなった直径2m位の台の上を指さした。

「ここですか」

ためらいも無くチサがその台に乗ると老人は満足そうに頷き

素早く部屋の隅にあったボタンを押した。


すると音も無く上から透明なドームのような物が下りて来て

チサをすっぽり閉じ込めた。

一瞬の事だった。

チサには何が何だか分からない。 まるでガラスコップの

中の蟻のようなものだった。

「なぁに これ どうしたの」と

まだ呑気な調子で老人に尋ねた。 老人はと言うとこれは

さも嬉しそうにニヤニヤしながら中のチサをじっと見つめている。


「お爺さん お爺さん 出してよ」と

言っても聞こえないのか知らない顔をして

「これでいい これでいい やっと念願の 長年の夢が叶う。

 生きた人間を実験に使う事ができる。

 ありがたい ありがたい事だ」と

一人つぶやいていた。

「ねぇ お爺さん 変よ。ここから出してったら」と

周りをドンドン叩いて見たがガラスのように見えるドームはビクともしない。

「お爺さん お爺さん」

不安になってなお激しく叩くと


「これはお嬢さん 失礼しましたな。

 つい 嬉しさに夢中になって」と

老人は先程までとは打って変わって眼をギラつかせながら

小馬鹿にしたような調子で言った。


「いったいどうしたって言うの。早くここから出してよ」

「そうはいかんな。やっと手に入れた貴重な実験材料じゃからな」

「実験材料?」

「そう 早く言えばモルモット お嬢さん あんたは

 わしのモルモットになったんじゃ」

「冗談はやめて 早く出さないと大声を出すわよ」

「出すがいいさ。 叫ぶがいいさ。 誰も来やしない

 ここは地下室で防音もしてある。家内が帰って来るのは夜だ。

 婆やはさっき使いに出した。1時間は帰って来ない

 アハハ、、、 やっと果たせる。わしの夢が ワハハハ、、、」


何が可笑しいのか狂ったように馬鹿笑いする山中老人

「わしはな お嬢さん。この研究に一生を賭けた。

 40年だ 40年賭けてやり通して来たのだ。

 大学を出てからずっと研究に没頭した。世間の奴らは

 変人扱いしたがな。 わしはそんなこと気にもかけなかった。

 何しろこれが完成したら日本中 いや世界中がアッと驚く

 いや それでは言い足りない。世界中の科学者が

 わしの前に平伏すだろうな。

 何しろ物体を瞬時の内に他に移動させる事ができるのだからな。 

 それがどんなに遠く離れていてもだ。

 

 分かるか 東京と大阪に離れていてもわずか30秒ほどで

 行き帰りができるのだ。乗り物はもはや必要では無い

 電車も飛行機もロケットさえいらない。

 月にだって火星日本だってこの機械さえ置いておけば

 アッと言う間に行けるんじゃ。

 どうだ 素晴らしいだろう」


「お爺さん 気が違っている」

「気狂いか それも良かろう。お前さんも他の奴らと同様

 何も分かって無いのだ。 だがな これは嘘では無いのだ。

 わしと息子が そうさ 北海道にいる息子だ。

 息子も10年前から研究に加わっている。

 二人で何回も実験を繰り返して成功しているからこそ

 言えるのじゃ これと同じ機械が息子の家にもあってな。

 これからお前さんをそこに送ってやろうとしている」


「私?」  チサはびっくり仰天 そんな事があっていいものか。

「そう驚くことはないさ。 これが成功すればあんたは

 一躍 有名人になれるぞ。この{オズ}

 {オズ}というのだよ この可愛い奴は、、、

 世界で初めて そうだな 訳せば物質電送機とでも言おうか。

 {オズ}の試乗者になれるのだからな」


「そんなこと嫌よ。お断りだわ モルモットになんか

 されてたまるもんですか。 早く出してちょうだい」

チサは元来 気の強い娘だった。 何か訳の分からない所に

閉じ込められて恐怖に震えながらも 厳しく老人を

怒鳴りつけた。 だが老人はそれには答えず夢を見ているように


「最初は小さなものから送った。二十日鼠だ 

 それが成功した時 わしも息子もどんなに嬉しかった事か。

 どんな感激したかとても言い表すこと早く出来んよ。

 北海道に着いた鼠が床の上をチョロチョロ走った時

 息子は思わず抱きしめたと言っとった。

 素晴らしい成功だった」

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