2、宮廷テイマーの処刑①
つおい(╹◡╹)
「ザルモリまで頼む」
「………銀貨一枚だ」
殆ど追い出されるように国を出て、街道を走る運び屋に近くの街まで運んで貰う…………。
(…………そういえば急すぎてアイに話すの忘れた………怒髪天突いてそうだなアイツ………)
馬車内には思ったより人が多く、数多の声と声が重なり、意味がわからない音声へと変換され、その喧騒に包まれていると、早すぎるホームシックを感じて、アイのことを思い出してしまった。
…………宮廷内にいる人間は大体俺と顔を合わせると、穢らわしいドブネズミに会ったような露骨に嫌な顔を隠さず表す。
その中でもアイは…………アイ・エマゼは俺に友達として接してくれた数少ない人物だ、元々アイツは国のゴミ山で暴れていた機械鎧兵、わかり易く言うと魔王軍の機械系の魔物のアイが暴れていたので宮廷テイマーの俺にどうにかしろという仕事が回ってきた………実際は人体実験によって生み出された存在だが、国民にそんな事言える筈も無く、魔王軍のせいにしたわけだ。
……………断ったりしたら即クビにされるため必死になんとか手懐ける、名前も彼女の手についていたネームプレートっぽいのから俺が名付けた、頭の単語が掠れていて、よく読めず、Iと読めたからアイとか後ろのエマゼっていうのもゼウス・エクス・マキナと書いてあったから、各単語の頭文字のゼとエとマを取って組み合わせたいう超適当センスだが、彼女は気に入ってくれた。
手懐けた後、予想以上に彼女は強く優秀だったため、テクシス帝国の最後の砦にして最高戦力、十二席しかない十二騎士に特別に十三人目、黒機士の二つ名をもらい配属され、それに合わせて13人になった十二騎士が十三騎士と名前を改名されるなど、異例づくし、それほど彼女は国にとって無視できない戦力だったのだろう。
…………そういえばアイツ最初は全然十三騎士になるのに乗り気じゃなかったのに、ある日突然やる気満々になってたな………理由は結局わからずじまいか………。
「………なぁーに弱気になってんだ俺は、宮廷テイマークビになっただけで別に死んだわけじゃないし、アイツが死ぬところなんて想像もつかねぇ…………お互いが生きてるなら…………きっとどこかでまた会える筈だ………だからその時聞いてみよう………時効ってことで教えてくれるかも………そう考えると再会が待ち遠しいぜ……ッッッッッーーー、な、なんだ?」
(…………馬車がいきなり止まった………街についたのか………いや早すぎる………どういう事だ………まさか盗賊でも出たのだろうか………だとしたら………警戒しておくか…………乗客たちの逃げるくらいは時間を稼げるようにーーー)
「何、ボーーッとしてるんですかハル・セルリアン」
思考の海に溺れていた俺を現実に引き戻したのは隣に座っていた自分と同年代くらい女性の声だった。
「え、いや、その、馬車が急に止まったので盗賊にでも襲われたのかと………何もなければいいのですが………ちょうどよかった、もし何かあった場合俺が突っ込んで気を引くのでその間に乗客達を逃してください……」
「ああ、なんだ、丁度良かったはこちらの台詞ですよ、私達全員最初からそのつもりですから安心してください」
「はぁッ?、それ一体どういう意味…………そういえばアンタなんで俺の名前知ってーーーへ?」
何かトラブルがあった場合に備えて女性に俺の作戦を伝える、すると彼女はなんだか寒気のする笑顔で訳の分からないことを言い出す、そのことについて問い詰めようと質問の途中、もう一つ不可解な点に気づく、なぜか初対面の相手が自分のフルネーム知ってるのか、だがその疑問を言い切る事は出来なかった。
なぜか?理由は単純明快、乗客全員が協力して俺の体を馬車の外へ追い出したからだ、隣の女性は右手を引いて、老人は左手を引いて、青年は左足を持ち上げて、少女や少年は右足を持ち上げて、腕に覚えがありそうなオヤジは腰を持ち上げて、粗大ゴミを投げ捨てる要領でぶん投げられ、俺は惨めに無様に地に這いつくばる。
「……は?、何すんだよ」
「うん?貴方のいう通りにしたでしょ?、貴方を突っ込ませて、私たちはその間にこわ〜い盗賊さん達から逃げる……でしょ?……あ、でもひとつ違うか……」
「…………何が違うんだよ」
「盗賊じゃなくて、無能の金食い虫を捌く正義の処♡刑♡人♡………だネ♡」
「ま、まさか………ふざけッッッッーーー」
「じゃあね〜元宮廷金食い無能テイマーさん」
地面を舐めているかのような体勢から頭を上げ、さっきの疑問を一旦棚に上げ、新たに湧いた疑問を問いかけるも、うまく言語化できず、言われた方は何を聞いているのか分かりづらい聞き方になってしまった。
しかし、俺のそんな心配は不必要、むしろ俺の驚愕が面白くてしょうがないという風に、相手は俺の聞きたい事を完全に理解して懇切丁寧に説明。
彼女の言葉を理解した瞬間、相手に飛びかかろうとするも、その瞬間、馬車は前進、顔に泥が跳ねてきて、視界を奪われる、聞こえるのは女性の罵倒と馬車の走行音だった。
つおい(╹◡╹)