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悪の女王の完璧な最期

作者: 若葉香羽

初投稿です!拙い部分も多いと思いますが、どうぞお楽しみください!




「貴方も、貴方も貴方も。全員死刑にしてしまいましょう」





ゆらゆらと蝋燭が揺らめく、不気味な廊下。

真っ赤な宝石を溢れんばかりに飾り付け、上質な絹を幾重にも重ねたドレスを纏いながら、笑うこともせず歩いていた。




ーー今日は、5人も斬首刑に処してしまった。




廊下を包む暗闇が、まるで私を待ち望む未来のように思えてギリッと唇を噛み締めた。いつからか枯れてしまった涙の代わりに、一滴、血が滴り落ちる。

それは確かに私の身体から出てきたものなのに、蝋燭の火の元を離れれば闇に染まって消えていく。そして、赤い絨毯に吸い込まれて、何事もなかったかのように時間は時を進めていった。



「はっ……今日という日は、どんなものでさえも私から奪っていくというのか」


ーー気づけば、嘲笑が漏れていた。


悲しい?惨め?悔しい?そんなものは生まれた時から持ち合わせていない。ただ、どこまでも"その通り"に進む事が、あまりにもつまらなくて、面白いだけである。



「そろそろ、か……」



私のために造られた、いや造らせたこの城で人目につかない場所は五万とある。今は()()だから、衛兵も門や金庫等要所にしか置いていないし、侍従たちはこんな夜中に出歩くことはないだろう。外交に問題のある他国の重鎮や客も来ていない。そう、全てが完璧である。



「あぁ、なんとも長くてつまらないーー」



ーー日々だった。




朦朧とする意識の中で聞こえたものは、さめざめとすすり泣く頼りない声と、金属のぶつかり合う耳障りな音だけだった。





あともう少しで終わる。もう少しだけ、頑張らねば。



あと、もう少しーー……






***






「次の者!」



手渡された羊皮紙は厚く巻かれ、下に映る湖は稀に見る染まり具合であることに、嫌な予感はひしひしと感じていた。


「これは……」


この場に立ってうん千年。初めて絶句というものを経験した。部下を疑うわけではないが、念のため、真偽の程を問いただす。



「これは誠か」


「もちろんでございます。私は20年という月日を100人殺しで終えました。人生に悔いもなければ、改める気もございません」


その者は"これ"の意味を尋ねることなく、そしてーーと話を続けた。


「私が待つものは、消滅だけでございます。」



それっきり、全てを出し切ったかのように黙りこくってしまった。いつもなら喋りだす"真実"が、その頭角を現さない。いや、もう現してしまったのか。




ーーいっそ、何かが嘘であったら良かったのに。


夥しい数の悪行か、清々しいほど正直な声明か。

そうすれば、いつものようにそなたも真下へと落とせたであろうに。



「なぜ、消えたいのか」


「人を殺めたからでございます」


「なぜ、人を殺めたのだ」


「それが、私の使命だからでございます」


「なぜ、そのような使命を全うしたのだ」


「貴方様がそこに立ち続けるのと同じ理由でございます」



なぜ、判決を続けるのか。そう暗に問われてしまえば、もう、時間を稼ぐことは出来なかった。しかし、だからと言って、変わってしまった鉛のような右腕は簡単には上がらない。

だが、重くのしかかっていた沈黙は、意外にも早く終わりを告げた。



「最後に、一つだけよろしいでしょうか」


「特別に」



特別など、この場所にあってはならないものだ。全ては平等でなければならない。しかし、私という存在がいて他者を裁いている時点で、等しさというものは根本からハリボテのようなものなのではないのだろうか。



「私は、初めてこのような楽しい会話をさせていただきました。あのように質問攻めをされたのは初めてでございます。……楽しい時を、ありがとうございました」



その言葉に、変わらない未来を悟った。変えるべきではないものであると。



「判決を下す。その者は、"消滅"!」



死者の顔が見えないこの距離を、生まれて初めて恨んだ。



***




「ふむ、人間の子とはずいぶんと小さいのだな。」


「……おじちゃん、だぁれ?」




あの日、あの時、あの瞬間を私は一生忘れない。

あれからきっと倍以上の年がたってしまったが、もう二度と同じ悔いをしないために、自ら探すことを決めた。



「おじちゃん、か……子どもというものは、随分と怖いもの知らずなのだな」



分かっている。

もうあの魂は輪廻転生するものではないと、分かっている。


それでもせめて、あのときに抱いた疑問を永遠の時の中で、いつか見つけられたら良いと思う。




「よくわかんないけど、おじちゃんいっしょにあそぶー?」


「そうだな。……何をしていたのだ?」



金髪が眩しいその者は、お花摘み!と誇らしげに笑った。

どこか、その姿はーー……





「それがりりあのいまの"しめい"なのです!」




ーーあの者と、重なって見えた。




***





よくやく、漸く全てが終わった。



我ながら、なんともつまらないことをしたものである。


全てが溶けていく心地よさに身を委ねながら、1人ほくそ笑んだ。















ーーこれが、私の待ち望んだ完璧な最期である。






最後までお読みくださりありがとうございました!


女王様の物語には続きはありませんが、過去はあります。それを少しだけご紹介できたらと思います。


投稿されましたら、そちらもお楽しみいただけたら幸いです。

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