第8話 剣と拳
ゴツゴツとした火山のふもとの岩場で二つの赤い閃光がぶつかり合う
ガキィンッ!! ガキン! ガキンッ!!
炎の剣と炎の拳がぶつかり合う、単純な破壊力では拳の方が上ではあるが剣は手数、速さ、技で拳を押し返している。
龍也「おらぁ!!」
龍也の大振りの拳が紫苑へと迫る、ガードした刀ごと叩き折る一撃を彼女は体を回転させて受け流す
龍也「くっ!」
紫苑「背中がガラ空きだな!!」
回転の勢いのまま龍也の背後へと回り込み、炎を纏った剣で斬り上げる。
龍也「がっ!・・おらぁ!」
背中を切り裂かれる激痛に耐えながら反撃の後ろ回し蹴りを放が、紫苑はその大振りの蹴りを後ろへ飛び回避する。
紫苑「ははは!今のでも斬れないか、刃が通らんとは凄まじく頑丈な体だな!」
龍也「ふん!、当たり前だ!てめぇらとは鍛え方が違うんだよ!」
紫苑「わたしは嬉しいぞ!全力を出せるということが!初日の決闘を見てから楽しみにしていた甲斐があった!」
笑いながら振るう剣を右腕で受け止めてつば競り合う
龍也「はっ!お前のようなお上品な戦い方じゃ無いけどな!!」
ツバ競り合ったまま胴体へと喧嘩キックを放つが距離を取られて避けられる。
紫苑「構わんさ!、寧ろお前のその乱暴な戦い方はかなり好印象だぞ!」
牽制として炎斬を飛ばして来るが龍也は片腕で弾く
龍也「ふんっ!、今度はこっちから行くぞ!爆裂突破!!」
お返しとばかり紫苑へと突っ込んで行くが大振りのうえ直線的な動きは避けられる。
紫苑「はあぁ!!」
龍也「おらぁ!!」
ガキンッ!
攻撃の隙を見逃さず再び背中へと斬りかかる、だが龍也は体を回転させて裏拳で刀を受け止める。
龍也「爆裂太鼓!!!」
紫苑「炎舞散乱!!!」
ガキガキガキガキガキガキガキガキンッ!!!
龍也の連打と紫苑の乱撃がぶつかり合う
龍也「おおおおおおお!!!」
紫苑「はあぁぁぁぁぁ!!!」
だが紫苑は龍也の連打を剣で捌きながら自分への直撃を避けながら手数で上回る斬撃を龍也へと叩き込んでいる。
龍也「くっ!、だらぁ!!」
紫苑「ぐふっ!」
ズザザーッ!
しかし龍也も斬撃の痛みに耐えながらも連打を続け、捌きけれずになった紫苑の頬を殴り飛ばした。
地面を削りながら後退していくが当たりが浅かったのかすぐに持ち直す。
紫苑「ふふ!やるなだがお前の体も無敵というわけじゃ無いようだな」
龍也「うっ!・・・くぅ・・・」
苦しむ龍也の体に無数の赤いラインが見える、これは傷を表すものでありキューブの中だからこそ無事で済んでいるがもしも元の次元ならば出血していただろう
紫苑「ようやく傷を合わせられたな、他の生徒達にはここまでやらんがお前には真っ二つにするつもりでちょうど良いみたいだ!」
龍也「はぁ・・はぁ・・・」
龍也の頑丈な体だからこそ軽い傷でするではいるが常人ならば今頃斬り刻まれていただろう
痛みに耐えながらも膝をつかず相手を睨みつける龍也へと剣を向ける。
紫苑「失礼だが『上』を目指すのならばその戦い方はやめておくべきだな」
龍也「・・・ああ?」
紫苑「わたしは好きだが、わたしよりも強い者たちはこれ以上だ、もうゴリ押しが通じるような世界では無いぞ」
龍也「・・・なら試してみろや!」
紫苑「!!」
力を入れた龍也の体が赤く発光し火山の地熱にも負けない程の高熱を放ち出す。
紫苑(なんだ・・あの光・・それにこの熱は?)
龍也「・・・・・こいよ」
指で向かって来るように挑発する。
本来ならばこの異様な光景に警戒し突っ込もうなどは思わなかったかもしれないが龍也の隠し球への好奇心が上回った。
紫苑「ならば行くぞ!火鷹一閃!!」
刀を横に構え一瞬にして距離を詰めて腰から肩へと鷹が飛び上がるが如く斬り上げる。
今までの中で最も深く最も鋭く入った一撃に勝利を確信する。
紫苑「がはっ!」
だが倒れたのは紫苑であった。
斬られると同時に龍也は先程と同じくカウンターの蹴りを叩き込んだのだ。
それでも斬る事はできたお互いに痛み分け、寧ろ龍也の方が重傷の筈と思い向き直る。
紫苑「なっ!なに!?」
そこには小さな傷が無くなり、先程の大きな傷が塞がっていく龍也の姿があった。
紫苑「回復魔法!?、回復魔法が使えるのか!」
龍也「いや、回復魔法なんて器用なもんじゃねぇよ・・・治せんのは自分だけだ、傷だけで体力は回復しねぇ、無理矢理再生してるだけで回復魔法とは天地の差だ」
紫苑(熱で体の代謝を上げて無理矢理身体の再生速度を上げているのか?、だが何て速度だ・・・)
理屈はある程度予測出来たがそれでも龍也の体が元々常人よりも回復力が早いから出来る芸当であり同じ炎の使い手である紫苑でも真似する事は出来ないだろう。
龍也「正直俺も直感でやってる技だから理屈とかよく分からねぇんだよな、だがそんな事よりも・・」
首を鳴らしながら先程と同じように指でかかって来るように挑発する。
龍也「こいよ・・お前の剣と、俺の再生速度、どっちが勝つか試そうじゃねぇか」
紫苑「ははは!、良いぞ!最高だ天ヶ瀬!ここまでわたしを燃えさせた男はお前が初めてだ!!」
紫苑「この燃え上がる気持ち・・・まるで恋をする乙女かのようだ!」
龍也「気色の悪い事言ってないでとっととかかって来いや」
紫苑「ああ・・では・・・行くぞ!、影炎!」
炎を操り自分の瓜二つの分身を作り出す。
紫苑「「炎舞散乱!!!」」
龍也「爆速再生!」
身体を赤く熱し腕を組み顔をガードしている龍也へ、分身したまま力よりも速さを基準とした斬撃を連続で叩き込んでいく。
二倍の炎の刀が龍也の全身を斬り刻むが、一つの傷が付いても凄まじい速度で再生し何事もなかったのように完治する。
紫苑の剣速を龍也の再生能力が上回ったのだ。
龍也「おらぁっ!!、だらぁ!」
紫苑「ぐあっ!」
紫苑「がふっ!」
ガードを解いて攻撃を受けながらも裏拳で反撃をし分身を消滅させる。
残った本体へとボディへの一撃をくらい連撃を止めてしまう。
龍也「おらぁ!、だらぁ!!どりゃあ!!」
連続の追撃の後最後に蹴り飛ばす、龍也の怪力をもろに喰らい振らつきながらも剣を支えにして立ち上がる。
紫苑「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・」
龍也「・・・・・・」
振らつきながらも強い意志のこもった視線をぶつけて来る紫苑へと敬意を払い全力の一撃を構える。
紫苑「火鷹一閃!!!」
龍也「爆裂突破!!!」
剣と拳、二人の全力の炎がぶつかり合い今までで最高の炎がキューブを覆うほどの爆発を起こした。
紫苑「・・・・・・ん・・ぅん」
目を開けると同時に見慣れた天井が目に入る。
紫苑「ふぅ・・負けたか・・・」
龍也「よお、起きたのか?」
紫苑「ん?、おっと!」
起き上がると同時に声の方からスポーツドリンクが飛んで来る。
少し驚きながらもキャッチする。
龍也「飲みたきゃ飲めよ、・・・ゴクゴク」
紫苑「ああ、頂こう・・・・ンクンク」
蓋を開けて口の中へと流し込む、疲れた体へと冷たいドリンクが染み込むのを感じる。
紫苑「ぷは、今何時だ?」
龍也「9時だな、門限も過ぎてるし寮の飯も間に合わないだろうな」
紫苑「そうか・・先に帰っても良かったんだぞ?」
龍也「ふん、女ほったらかして帰れるかよ・・・」
紫苑「お前はそういうのは気にしないと思っていたのだがな」
龍也「しねぇよ・・勝負の時はな、もう終わってんだから少しはするさ」
紫苑「少しか・・なら上着を掛けてくれなくても良かったのに」
龍也「勘違いすんな、風邪ひかれて体調が悪いから負けたなんて言われたくなかっただけだ」
龍也「起きたんなら返せ」
紫苑「はいはい・・」
起き上がった事で自分の膝に掛かっていた上着を龍也に返した、少し寂しさを覚えたのは秘密だ。
龍也「そろそろ帰るか、追い立てるか?」
紫苑「ああ、一緒に帰るのか?」
龍也「当たり前だ、負けた罰として今晩の飯を奢るのと寮長への言い訳に付き合ってもらうぜ」
紫苑「ふふ、ああ構わないよ」
立ち上がり荷物を纏め道場を後にする。
「しかし何処に行く?、こんな時間では何処もやってないのでは?」
「遅くまでやってるラーメン屋あるから行こうぜ、あそこチャーシューが旨いんだよな」
「よく知ってるな」
「たまに夜抜け出して食いに行ってるからな」
「それは校則違反だな・・」
「たまには良いだろ」
「ふふ、そうだな」
既に門限も過ぎ叱られるのは確実、ならば少し校則を破るぐらいは問題ないと二人は笑いながら夜の道を歩いた。
龍也「ふぁ〜あ・・・くっそ、寮長め一晩中説教しやがって・・・」
エマ「珍しいよね龍也が食事に来ないなんて、せっかく龍也が好きなトンカツが晩ご飯だったのに」
龍也「なに!?、まじか!何で残しとかねぇんだよ!」
翔吾「何で俺たちがお前の分残さなきゃいけないんだよ・・」
龍也「良いじゃねぇか、一切れぐらい」
翔吾「そう言いながらこの前全部食いやがっただろうが!」
龍也「お前魚が好きだって言ってたじゃねぇか」
翔吾「肉食わねぇわけじゃねぇよ!、こちとら育ち盛りだぞ!、キャベツと白米だけで済ませた気持ちがわかんのか!!」
エマ「てか、龍也昨日何してたの?」
龍也「別に何でも良いだろ、色々あったんだよ」
エマ「色々って何さ」
龍也「色々は色々だっての・・」
翔吾「もしかして・・・女か?」
エマ「えー、龍也やらし〜」ジトー
龍也「あのな〜お前らが思ってるような・・・」
「おはよう!」
龍也「あん?」
エマ「え?」
翔吾「お?」
普段避けられている自分達への元気な挨拶に驚きながら振り返る。
龍也「なんだ紫苑か・・」
紫苑「なんだとはなんだ、挨拶ぐらい返したらどうなんだ?」
龍也「へいへい、おはようごぜいます〜」
紫苑「ふふ、しかし昨日は大変だったな」
龍也「まったくだ、監督生が居れば少しはマシになるかと思ったんだがな」
紫苑「考えが甘かったな、しかし昨日の晩は楽しめた、良ければまた行かないか?」
龍也「別に良いけど、校則違反なんじゃ無いのか?」
紫苑「たまになら良いさ、だが出来るなら校則違反にならない休日に誘ってくれると嬉しいな」
龍也「あ〜、わかった、それじゃあ・・・」
エマ、翔吾「「・・・・・・え?」」
エマと翔吾は昨日いがみ合っていた二人が、仲良さげに雑談をしているさまを、訳が分からない表情でただ見つめるのであった。
「な、なんで紫苑が天ヶ瀬くんと・・・!!」
もう一人藍い髪の少女がその様子を覗いていた。