第6話 世界樹
『世界竜の伝説』
かつてこの世界には白く美しい竜がいた。
竜は人々を守り魔力を与え超人へと進化させた。
人もまた竜から与えられた魔法を駆使して信仰し崇めた。
ある日竜は死んだ、人が殺したのか、魔物が殺したのかそれは分からない。
だが竜は死ぬ時に己の屍を肥料として一本の樹を作り出した。
やがて樹は大樹となり高純度の魔力を含んだ『世界樹』と呼ばれるようになった。
この世界の人なら誰もが知っている伝説は長い年月の中で消えていきお伽話へと変わる。
龍也「あー!暇だ・・・」
休日の昼間、暇を持て余した龍也は部屋を出て町へと来ていたが
龍也「くっそ!なんで今日に限ってエマも翔吾も用事があるんだよ・・・」
外に出てみたはいいものの二人とも用事があるらしく、一人街をぶらついているだけでは暇が解消されなくイライラしている。
龍也「あ〜何か面白・・・」
「ぎゃあーーーーー!!」
龍也「あん?」
通りがかったゲームセンターの中で悲鳴が聞こえて来る。
バリィンッ!!
龍也「おっと!」
ゲームセンターの扉を壊しながら複数の男達が吹っ飛んで来たのを避ける。
龍也「なんだこいつら・・・」
「まったく・・・どうして街中で暴れるのかしら・・学園でいくらでも」
龍也「あん?」
ゲームセンターの中から現れたのは普段龍也が着ているのと同じ制服に黒い腕章を付けた風紀委員の東美月の姿であった。
美月「!!」
龍也「?」
外へと出て来た美月は龍也の顔を見た瞬間驚いた表情へと変わる。
逆に龍也は自分の顔を見て驚いている美月を不思議そうな顔で見ている。
美月「キッ!」
驚いた表情の次は鋭い視線で睨みつけて来る。
龍也「あ?、何見てんだてめぇ・・」
普通の生徒ならば彼女の視線に身体を震わしていたかも知れないが相手は龍也だ、突然睨みつけられた事にイラつきながらメンチを切りかえす。
しばらく睨み合っていると美月と同じ黒い腕章を付けた男たちが外へとやって来る。
「東さん!大丈夫ですか!」
「後は我々が!」
「こいつらの仲間か?」
複数の男たちが龍也を囲む
美月と睨み合っていた事で足元に倒れている男たちの仲間と勘違いされているのだろうがイラついている龍也にはあまり関係なかった。
龍也「上等だ!暇と一緒につぶしにしてやるよ!」
龍也が掌を拳で叩き構えようとした時
美月「やめなさい!」
美月の静止が男たちの動きを止める。
「東さん!何故!」
美月「落ち着きなさい!、彼はリストには無いわ!つまり彼はただ居合わせただけの赤の他人よ」
「な!本当ですか?」
「にしてはなんて目つきの悪い・・・」
龍也「ほっとけ!!」
美月「中にいる彼らとここに倒れている人たちを回収!そのあと扉の修理をしてから行くわよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
そう言いながらゲームセンターの中へと男たちを連れて戻って行った。
龍也「何なんだ・・・あいつら?」
激流ような出来事に今はただ疑問に思うしか無かった。
先程の一件で少しは暇を潰せたがそれでも一日中の暇が潰されるわけでは無い、龍也は学園の方へと足を向けていた。
龍也「・・・・・しまってるか」
だが休日の学園は巨大な門で閉められていた。
ボルス「当然じゃろう」
龍也「うげ!ボルス・・」
学園の門を見上げていると龍也が苦手とする人物が現れる。
ボルス「暴漢が学園を睨んでると思ったら」
龍也「誰が暴漢だよ!」
ボルス「なんじゃ珍しい学園が恋しくなったのか?」
龍也「ちげぇよ!暇だからよっただけだよ!」
龍也「ったく!なんで休日までお前の顔を見なくちゃいけねぇんだよ・・」
ボルス「教師なんじゃから当然じゃろうが」
龍也「引退したんじゃねぇのかよ」
ボルス「学園長はな、来月からは魔法実技の教師じゃよ」
龍也「魔法実技?」
ボルスが言うには実際に魔法を使った授業であり、本来ならば危険性もあり二年生からなのだが、今年の一年は龍也をはじめとしたヤンチャな生徒が多くストレスを解放させる為にも来月から実装するそうなのだ。
龍也「っしゃあ!、ようやくマシな授業になりそうだな!」
ボルス「言っておくがワシが担当になる以上好き勝手は許さんからな」
龍也「へいへい」
ボルス「そう言えばお主、今暇じゃったな」
龍也「あん?だったら何だよ・・」
ボルス「実は昼食がまだでの果物をとって来てはくれんか?」
龍也「あ?やだよめんどくせぇ」
ボルス「そう言うな、クエスト扱いにして報酬も出してやるからの、暇なんじゃろ?」
面倒くさくはあったが実際の所暇であり報酬も出ると言うので受ける事にした。
龍也「くそ!わかったよ、暇なのは事実だしな、《リップルの実》でいいか?」
ボルス「ああ、構わんぞ久しぶりに食いたくてな」
龍也「ったく!自分で行ってこいよな・・」
ボルス「モンスターに気をつけるんじゃぞ〜」
龍也「わーってるよ!」
《トログの森》前回龍也とエマがクエストの為にやって来た森である。
その森の中を前よりもさらに奥の道を赤い果実を抱えながら歩いていた。
龍也「あんまりねぇな・・・ま、三つもあれば十分だろ」
ぐぅ〜
ボルス同様に昼食を食べていない龍也の腹がなる
龍也「・・・別にいくつ持ってこいって言われた訳じゃ無いし問題ねぇよな!」
龍也「あーん・・・モシャモシャ、うめぇなこれ」
鋭い歯で口に含むみ咀嚼すると果実特有の甘酸っぱい食感が口の中を満たして行く
龍也「・・・ん?」
一個では足らず二個目の果実を食べていると突然不思議な感覚に覆われる。
龍也「何だ・・・この魔力は?」
突然感じた大きな魔力に導かれるように歩みを進める。
しばらく歩き進めると深く暗かった森の中に光がさしてくる。
龍也「出口か?」
龍也の言う通り森の出口へと出ると遠く広がる一面の草原、その奥には海と高い丘があった。
龍也「あれは・・・木か?」
丘の向こうには一本の大木、かなり距離があるにもかかわらず、かなり巨大に見える。
龍也は導かれるようにその大木へと近づいて行く
近づけば近づくほどその巨大な大木に圧倒される、威圧感だけではなく高純度の魔力も伝わってくる、だが決して恐怖は無く寧ろ心が温かくつつまれる感覚であった。
龍也「すっげぇな・・・何なんだこれ・・・」
「そこで何をしているのです!」
龍也「あ?」
後ろから聞こえた凛とした声に振り向くとそこに居たのは黄緑色の長い髪にキリッとした眼のドレス姿の女性であった。
龍也「何だてめぇ・・」
「質問しているのはこちらです!、何者ですか!」
龍也「ちっ!、天ヶ瀬龍也、ここの学園の生徒だ」
「え!、学生なのですか?」
龍也「何だと思ってんだよ」
「いえ・・暴漢かと・・・」
龍也「お前もかよ・・・」
一日に三度目の暴漢扱いに呆れて怒る気にもならなかった。
ぐぅ〜
龍也「・・・・・」
「・・・・・・///」
美人な顔に似合わない気の抜ける音にお互い無言になってしまう。
龍也「これ食うか?」
「いただきます・・・///」
お腹の音を聞かれて顔を赤くしている彼女を気の毒に思ったのか龍也は最後の一つの果物を差し出した。
大樹へと二人で座り込み龍也が差し出したリップルの実を頬張る女性
大人びた美しい顔立ちとは逆に子供のようであった。
「モシャモシャ・・ゴクン、ありがとうございました、仕事詰で食事がまだでしたので・・」
セレナ「わたしはセレナといいます、よろしくお願いします」
龍也「おう・・なぁあんたこの樹は何だ?」
セレナの食事が終わると共に龍也が一番聞きたかった質問をする。
セレナ「これは《世界樹》ですよ」
龍也「世界樹!・・これが?」
《世界樹》かつて人々に魔力を与えた白き竜の屍から生まれたとされる世界最大の大樹
龍也「そうか・・これが・・・」
セレナ「この世界樹の体調管理とデータ収集がわたしの仕事なんです」
龍也「そうか・・・」
「セレナー!」
龍也「ん?この声は・・・」
セレナ「ああ、紅奈!」
紅奈「セレナ・・って龍也くん!?」
龍也「よう」
紅奈「こんにちわ、ああセレナ、施設のドアが開いていたわよ!鍵閉めてきなさい」
セレナ「あ!そうでした飛び出して来たままでした!、すみません少し行って来ますね」
龍也「ああ」
龍也に頭を下げた後世界樹から少し離れた所にある小屋へと走って行く
セレナが去った後、紅奈は世界樹を見上げながら龍也に話しかける。
紅奈「セレナったら久しぶりの来客で気が抜けちゃったのかしらね、長年此処に来るのはわたし達ぐらいだもの」
龍也「長年?、あいついくつなんだ?」
紅奈「少なくともわたしよりも年上よ」
龍也「マジかよ!?」
セレナの見た目からは自分より少し上ぐらいと予想していた龍也は驚く
紅奈「あの子エルフだものわたし達人間と同じ感覚じゃあダメよ」
龍也「エルフ?」
紅奈「気づかなかったの?あの子の耳を見たら分かると思うけど・・」
紅奈に言われて思い出してみると確かに彼女の耳は自分と違って長く尖っていた。
龍也「ん〜、ああそう言えばそうだな」
紅奈「長い間わたし達以外が来るのは珍しいのよ、此処に人が来るなんて」
龍也「誰も来ないのか?」
紅奈「長い年月の中で昔のように信仰してる人はほとんど居なくなったからね・・」
龍也「これだけの魔力があるのにか?」
紅奈「魔力があっても利用方法が分かっていないのよ、昔はそれでも崇めている人がいたけど今ではただの大きな木」
紅奈「寧ろ最近の子はこの大きな魔力を怖がって近づこうとしないわ」
どんなに巨大な魔力であってもその利用法がわからない以上は爆弾と対して変わらずコントロール出来ない人達は怯えるしか無い
紅奈「白き竜の伝説もただのお伽話として伝わっているわ」
龍也「・・・・・」
紅奈「あなたは知ってる?この伝説」
龍也「昔・・本で読んだぐらいだな」
紅奈「本なんて読むの?」
龍也「なんかイラっとするな、まぁ実際殆ど読まないしな・・・でもこの伝説だけは昔から好きだったんだよ」
紅奈「そう・・・嬉しいわ、今でもそういう子がいてくれて」
そんな話をしていると小屋の方からセレナが戻って来のが見える。
龍也「なぁ、また・・ここに来ても良いか?」
紅奈「え?」
龍也「なんつうか・・ここに居るとすげぇ落ち着いてよ」
紅奈「ええ勿論!さあお昼を持ってきたから食べましょう♪」
セレナ「ありがとうございます紅奈、天ヶ瀬さんもどうぞ!」
龍也「良いのか?」
セレナ「ええ、もちろん果物のお礼です」
龍也「んじゃあ貰うか、正直果物だけじゃ物足りなかったんだよな」
シートを広げてセレナと一緒に紅奈の用意した弁当を分けてもらいピクニック気分を楽しんだ。
龍也「・・・あん?、なんか忘れているような?」
ぐぅ〜
ボルス「・・・腹減ったのぉ・・・」
完全に忘れ去っていた龍也は次の日、ボルスの全力のゲンコツを喰らうことになった。