第5話 火と水の茶番
昼休み、龍也とエマは屋上にて食事をとっていた。
エマ「うーん!青空の下で食べるご飯って最高♪」モグモグ
龍也「購買のパンってのも旨いもんだな」モグモグ
エマ「でしょ〜!あたしもお気に入りなんだここのパン!」モグモグ
エマ「そう言えばさっきの小テストどうだった?」
龍也「全然」モグモグ
エマ「だよね〜、あたしも全然分かんなくてさ〜、ほんっと事前に教えてくれたら良いのにさ」
翔吾「あ〜わかる!、なんで抜き打ちにするんだろな」モグモグ
龍也「だな・・」モグモグ
龍也「・・・・・」
エマ「・・・・・」
翔吾「・・・・・」
エマ「って!!、なんであんたがいんのよ!!」
自分達の世間話に自然と混ざってきた翔吾に驚く
龍也「ん?エマが呼んだんじゃ無いのか?」
エマ「違うわよ!」
翔吾「良いじゃないの、エマちゃん」
エマ「ちゃん付けすんな!」
翔吾「そんな邪険にすんなよ、ちゃんと理由があるんだからよ」
エマ「理由?」
彼が言うには昨日の決闘で龍也に敗北した事でパーティを解散したらしい
翔吾「つうことで、行くとこないからお前達の仲間にいれてくれない?」
エマ「どこがちゃんとした理由よ!、自分より強い奴に擦り寄ってるだけじゃん!」
龍也「まぁ、良いんじゃね?、こいつ思ったよりも根性あるし」モグモグ
エマ「え〜、せっかく二人で楽しくやってたのに・・・」
龍也「一番最後に入ったから、一番したっぱってことで良いんじゃねぇの?、パシリにでも使えよ」モグモグ
エマ「なるほど!、おい焼きそばパン買って来いよ」
翔吾「ひどくない?!」
二人がパシるパシらないの言い合いをしている中、騒がしい音が聞こえて来る。
龍也「ん?何だありゃ」ゴクン
屋上の柵から中庭の広場に生徒達が集まっているのが見える。
「おい見ろよ、監督生と風紀委員の決闘だぞ!」
「マジかよ!、今年初めてじゃね?」
同じく屋上に居た生徒達もそれに気づき騒ぎながら柵の方へと集まる。
龍也「おい、何が起きてるんだ?」
エマ「ん?、ああ監督生と風紀委員のいざこざだね」
龍也「?、何だそれ?」
エマ「この学園には普通科と特殊科の二つがあるのは知ってるでしょ」
龍也「ああ、そう言えばどう違うんだ?」
エマ「普通科は名前の通りの普通の学生の学科、そして特殊科は学園側から推薦されて入った魔法を鍛えることに特化した特殊な学科よ」
翔吾「風紀委員は普通科の、監督生は特殊科の監視をしている奴らだな、この学園の中でも最も大きな勢力でもあるな」
龍也「学生同士の勢力なんてあんのか?」
翔吾「ああ、複数のパーティが集まったのがいくつかな、沼地達が新入生を取り込もうとしてたのも自分を中心とした、でかい勢力を作るつもりだったんだろうな」
龍也「ふーん・・・んで?なんでそんな奴らが決闘なんてやってんだ?」
エマ「昔っから仲悪いのよ監督生と風紀委員はね・・・」
翔吾「そもそも普通科の奴は特殊科を嫌ってるからな・・・」
エマ「正直やめてほしんだよね〜、学園から推薦されて仕方なくいるだけなんだし」
翔吾「沼地の奴みたいに普通科や新入生を下に見てる奴も多いから、しょうがないとこもあるけどな・・」
龍也「ギスギスしてんなぁ・・・この学園」
そんな話をしていると二つの団体から二人の少女が中央へと歩いてくる。
一人は左腕に白い腕章を付けた紅い長髪ポニーテイルの少女、もう一人は左腕に黒い腕章を付けたセミロングの藍い髪を後ろで纏めた少女
翔吾「お!始まるみたいだな」
エマ「やっぱあの二人か・・・」
龍也「ん?有名人なのか?」
エマ「うん、紅い髪の子が神上紫苑」
エマ「藍い髪の子が東美月どっちも中等部の頃からの有名人だよ」
翔吾「二人とも中等部の頃から仲が悪くてその上不良に厳しかったからな、進学したらこうなる事は予想してたよ」
エマ「大方期待のルーキー同士の決闘って所だね」
ゲートが発動されて団体の姿が消える、決闘を見に行くためか周りの生徒達の姿もきえていく
エマ「あたし達も見に行く?」
龍也「ああ、興味あるな」
実力者同士の決闘に興味を持ち、龍也達もゲートを発動し屋上から姿を消した。
紫色へと染まった中庭の広場の中で既に決闘は始まっていた。
紫苑「はあぁ!!」
美月「ふっ!」
紅い髪の少女紫苑が振り下ろした刀を藍い髪の少女美月が籠手で弾く。
紫苑「は!、せい!、はぁ!!」
美月「ふ!、はっ!!」
紫苑の鋭い剣撃を両手で受け流すように捌く
美月「はぁっ!」
紫苑「おっと!」
捌くと同時に繰り出された掌底を後ろへと下がり回避する。
龍也「一人は剣士でもう一人の方は・・・変わった戦い方だな・・」
エマ「たしかなんかの流派らしいよ」
龍也「俺はあんまり好きじゃねぇな・・・」
正面から突っ込む龍也や翔吾とは違い受け流しとカウンターを繰り出している、美月の戦い方は好きになれるものでは無かった。
そんな話をしている間も二人の凄まじい攻防は続いていた。
荒々しい炎の様な連撃を静寂や水のように受け流す。
「うおー!あれを躱したぜ」
「中等部がら思ってたけど凄い攻防だよな」
死角からの鋭い攻撃も受け流す美月と完壁なカウンターを避ける紫苑
そんな高レベルの戦いに見ている生徒達は皆喜んでいた。
龍也「・・・・・」
だが龍也は何処か不満そうな顔をしている。
紫苑「炎斬!」
戦法を変え距離を取り炎を纏った斬撃を飛ばす
美月「水掌!!」
バシッ!!
掌に水を宿し掌底で斬撃を無効化する。
美月「水鉄砲!」
ドドドッドンッ!
お返しとばかり左手を銃のような形にして指先から水の球を撃ち出す。
紫苑「はあぁぁぁ!!」
自分へと向かって来る無数の水の塊を炎を纏った刀で次々と弾き落としていく
紫苑「くっ!」
だが紫苑の方は水の威力に徐々に押されていく
エマ「やっぱり東の方が少し有利だね」
翔吾「まぁ、こればっかはしょうがないよな、水と炎じゃあ相性が悪いよな」
二人の言う通り炎の魔法は水の魔法に相性が悪い、彼女たちの実力はほぼ互角だろう、だがこの相性が大きな差になる。
紫苑「影炎!」
美月「!?」
エマ「うわ!増えた!」
正面からぶつかるのは部が悪いと察したのか炎から自分と瓜二つの分身を作り出した。
紫苑「「はあぁ!!炎斬!!」」
美月「くっ!」
二人に増えた紫苑による同時の攻撃に受け流しきれずにかすり傷を増やしていく
美月「はあぁ!水円波掌!!」
地面へと両掌を叩きつける、美月を中心とし円形に水の衝撃が広がり、分身と本体を同時に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた分身が炎となり消滅するのを確認し本体へと追撃をする。
美月「げきりゅ・・・・!?」
しかし追撃に向おうとした本体の姿が消滅する。
美月「・・・一体どこに!!」
紫苑「ここだ!」
美月「!?」
真上から刀を構え既に振りかぶっている紫苑の姿が見える。
美月が攻撃のために下を向くと同時にもう一体分身を作り出しジャンプして頭上へと回り込んだのだ
紫苑「はあぁぁぁ!!」
美月「くっ!」
そのまま振り下ろされた刀が美月の肩から胴体を切る。
流石の美月も反撃が出来ずに膝をつき倒れる。
美月「はぁ・・はぁ・・・わたしの負けよ・・」
美月が負けを認めると同時に白い腕章を付けた生徒達が歓声を上げる。
凄まじい攻防とレベルの高い魔法の応酬に周りの生徒達も皆が喜ぶ
エマ「おー!神上の方が勝った、絶対東が勝つと思ってたのに」
翔吾「よくもまぁ相性の悪さを覆したよな・・・」
エマ「だね〜、龍也は・・・ん?あれどこ行ったの?」
決闘の感想を聞こうと話し掛けようとするが龍也の姿が見えない
すると決闘の終了と共にゲートが閉じ元の屋上の風景へと変わる。
その屋上の先程食事をしていた所に龍也は寝そべっていた。
エマ「あれ?龍也途中で帰っちゃったの?」
龍也「ああ・・・」
翔吾「どうしたんだよ、機嫌悪いな?」
龍也「手を抜いてる決闘のどこが面白れぇんだよ」
エマ「手を抜いてる?」
龍也「あんなお遊戯見て損したぜ」
そう言いながら昼寝をする龍也だった。
放課後の誰もいない教室で二人の少女が向かい合っていた。
美月「もう紫苑てば・・・話が違うじゃないの!」
紫苑「ははは!すまなかったな、つい熱くなってしまった」
教室に居たのは先程まで戦いあっていた紫苑と美月であった。
先程までの敵を見る目ではなく親友同士のような表情であった。
美月「初回は引き分けに終わらせてうやむやにするのが計画だったでしょ、なのにわたしが知らない技を使ってきて」
紫苑「そうしたかったが美月が思ったよりも強くてなつい力が入りすぎたんだ」
紫苑「それに引き分けよりもしっかり決着をつけた方が芝居としても良いだろう?」
美月「まぁいいわ、でもわたし達の目的だけは忘れないでよね!」
紫苑「わかっているさ」
紫苑「だが、それには一つ障害がある・・・」
美月「障害?」
紫苑「天ヶ瀬龍也・・知っているな?」
美月「えっと・・・誰だったかしら?」
紫苑「本来ならわたし達のデビュー戦のはずの初日に五人を倒した男だよ」
美月「ああ、彼のせいで決闘が遅れたのよね、顔もよく見えなかったし忘れてたわ」
美月「それで彼がどうしたの?」
紫苑「風間翔吾がその男に負けたらしい」
美月「たしか風紀委員の方でも要注意人物だったわその彼が負けたの?」
紫苑「ああ、その事で先輩達も天ヶ瀬を仲間に入れようとしているらしい」
美月「そう・・そうなったらこの学園のバランスが悪くなるわね・・・」
紫苑「ああ・・・早急になんとかせんとな・・・」
人気のない夕日が差し込む教室の中、二人の少女は深刻な顔をしていた。