第2話 つまらない決闘
特殊科 一年A組 教室
ワイワイ ガヤガヤ
昨日の入学式で知り合った者同士が既に友人となり作り楽しく話し親睦を深めている。
「おい!おまえら!!」
そんな中、教室の一番端の席で机を叩く音が聞こえふと見てみると数人の取り巻きを連れて足を机に乗せて座っている男がいた。
「おまえら新入生だろ!なら俺達のグループに入りな」
「グループ?」「なにそれ?」
「てかアイツも一年生だよな、なんであんなに偉そうなんだ?」
自分達と同じ色のネクタイをした男子生徒の言動に疑問に思う。
「同じ一年だ?違うな俺たちは中等部からこの学園で学んで魔法を極めてんだ、言うならばおまえ達の先輩なんだよ!」
「なんだよそれ・・・そんなの!」
「ふん!」
偉そうな男は土の塊を放ち文句を言おうとした生徒へ放ち壁へと吹っ飛ばす。
「がは!」
「大丈夫か!」
「ハッハッハ!文句がある奴はかかってきな!この学園は強さが全てだ!特にこの特殊科はな!!」
「こいつ!!」「ふざけやがって!!」
「やるならやってやる!!」「上等よ!」
「は!お前たちみたいな雑魚どもが俺達に勝てるかな!」
クラスメイトがほとんど不意打の形で倒された事に怒り、偉そうな男へと戦闘態勢をとっていた。
男の方も取り巻き達に指示を出し迎え打とうとする。
クラス全員による戦闘が始まろうとしていた。
「ふふふ!、面白くなって来た♪」
ただ一人の紫の髪の少女を除いて
一触即発のその時
ガラガララ!
教室のドアが開く
「あ!なんだよ、先生今いいとこ・・・」
担任が入って来たのだと思いドアの方を見た全員が言葉を失う。
当然だろう教室へと入って来たのは琥珀色の左眼に傷を付けた長身の男だったからだ。
龍也「・・・・・ここが教室でいいのか?」
ミファ「ええ、合ってますよ!えっと天ヶ瀬くんの席は・・・」
龍也「・・・・・」スタスタスタ
ミファが席を調べているのを無視して教室の一番端の席へと近づいて行く
「な、なんだよ・・・」
龍也「そこが気に入った・・どけ」
「はぁ!ふざけんな、こら!」
偉そうな男が立ち上がり龍也の襟元を掴むあまりの体格差に少しビビるがここで引いてしまってはクラスの全員に舐められてしまう
龍也「離せよ・・」
「ああ!、なんだとこ・・・・・」
言い終わる前に男の襟元を掴み片手で後ろへと投げ飛ばす。
ドンガラガッシャーン!!!
投げ飛ばされた男は抵抗出来ず机や椅子を巻き込んで倒れる。
「お、おい!大丈夫か!!」
龍也「ふんっ」
男を心配し取り巻き達が駆け寄って行く
龍也はそれを無視して席へと座る。
ミファ「天ヶ瀬くん!いきなり何をするんですか!!」
龍也「なんだよ、生徒同士のいざこざは認めてるんじゃないのかよ」
ミファ「認めているのは正式な決闘であって、いきなりの暴力ではありません!」
龍也「ちっ!なんだよ、ぬるいな」
ミファ「天ヶ瀬くん!聞いてるんですか!」
ミファが注意を促すが無視をして窓の外を見る。
すると龍也が投げ飛ばした男が立ち上がって龍也を睨み付ける。
「てめぇ!!よくもやりやがったな!!」
龍也「さっさと退かねぇお前が悪い」
「てめぇ!!」
ミファ「やめなさい!二人とも!!」
「不意打ちされて黙ってられるかよ!おいてめぇ決闘しろ!!」
自分のプライドを傷つけられた復讐の為、決闘を申し込む
龍也「やだね・・・」
「なに!!」
龍也「お前みたいな雑魚一人に興味ねぇよ」
「この俺が雑魚だと!!俺はなぁ!」
龍也「お前が誰であろうと誰に勝とうと、簡単に投げ飛ばされてる時点で雑魚だろうが」
「こ、こいつ・・・!!」
龍也「お前の取り巻き含めて全員でかかって来い、それなら付き合ってやるよ」
「てめぇ・・後悔するぞ・・・!」
龍也「させてから言いな」
「上等だ!、おいお前ら!!」
「「「「おう!」」」」
取り巻き達と共に窓の外へと飛び出す、外は二階の高さだが魔法を使える彼らには関係なく軽々と着地し龍也を待つ。
龍也「了承は得たぜ、文句は無いよな?」
ミファ「はぁ・・・わかりました、皆への説明を含め、決闘を許可します」
入学式からまだ一日目、この学園での初の決闘にクラスメイトだけではなく、ほかのクラスや学年の生徒達が注目していた。
ミファ「いいですか?、決闘にはこの《キューブ》を使って貰います」
ミファは懐から小さな四角い箱のような物を渡す。
龍也「なんだこれ?」
ミファ「それはキューブと言って周りへの被害を減らす為の魔道具です、それを使えば《多次元空間》へと入ることが出来ます」
龍也「多次元空間?なんだそれ?」
ミファ「多次元空間とは・・・百年前にアーケル王国直属の魔導師である十七代目アークメイジの・・・・」
龍也「う!ちょ、ちょっと待て!!、長くなりそうだから使い方だけ教えてくれ!」
ミファ「そうですか?まぁどうせ授業で習いますし今日はここまでにしましょうか」
ミファ「真ん中がスイッチのようになっていますので押して投げれば発動しますよ」
龍也「お、おう・・」(危なかった・・)カチッ
難しい話が苦手な龍也は長くなりそうなのを切り上げさせ、キューブのスイッチを押して地面へと放り投げる。
するとキューブが紫の光を放つ
龍也「!?」
光が収まり周りを見渡すと、周りの学園の風景が紫色に染まっていて、先程まで周りに居た生徒やミファの姿が消える。
龍也「これは?」
ミファ「これが空間よ」
龍也「いつの間に!」
声が聞こえた方を見るとさっきは消えていたミファの姿が現れる。
ミファだけではなく決闘を見たがっていた生徒達も次々と姿を表す。
ミファ「キューブの力で多次元空間へと入ったわ、この空間には他の生物は居ませんが一度発動したキューブの中には簡単に入る事が出来ます」
ミファ「この空間の物をどれだけ壊しても元の次元での影響はありません」
龍也「どれだけ暴れても良いって事か」
ミファ「そして、一番の特徴はこの空間にいる限り《《死ぬことが無い》》こと」
龍也「死ぬことが無い?」
ミファ「この空間の物がどれだけ壊れても影響が無いように、どれだけ怪我やダメージを受けても元の次元に戻ったときには全て元に戻ります」
龍也「つまり死ぬ事はないから殺すつもりでやっても大丈夫って事か」
ミファ「言い方は悪いけどそう言う事よ」
龍也「わかった、なら・・」
ドオーン!
龍也「!!」
ミファ「きゃあ!」
始めてくれと言おうとした瞬間、二人の頭上から岩球が落ちて来くる。
「ぎゃはははははっ!!、油断してるからそうなるんだよ!キューブに入った時点でもう始まってんだよ!」
ミファからの説明を受けていてまだ戦闘態勢を取る前の隙を狙って仕掛けたのだ。
「恨むんなら自分の甘さを恨みな!ぎゃはははは!!」
「「「「ははははは!!!」」」」
完全な不意打ちが直撃し龍也が倒れたのを確信し笑い声を上げる。
龍也「これで終わりか?」
だが土煙が晴れた先にいたのは、右手をポケットに突っ込んだ無傷の龍也の姿だった。
「な、なに!?」
龍也「おい、大丈夫か?」
ミファ「え、ええ大丈夫よ」
龍也「もう始まってんだろ?・・邪魔だからとっとと下がってろ」
ミファ「・・・わかったわ、頑張ってね」
龍也の邪魔にならないように他の生徒たちが集まっている所へと来たミファに生徒たちが近づいて来る。
「先生、いいんですか?5対1なんて」
「あいつらムカつきますけど実力は本物ですよ」
彼らの心配も当然だろう、自称していたが中等部からこの学園にいる者はそれだけ長い間、魔法の授業を受けていて実力はかなりあり、今日入ったばかりの自分達を見下すのも当然だと思っていた。
それが五人、無名の生徒が相手にするには荷が重すぎる。
ミファ「彼の事なら心配しなくても大丈夫よ、寧ろ心配するべきは・・・」
「「え?」」
だがミファ程の魔導師ならば昨日の龍也の一撃で彼の実力はある程度分かる。
そして中等部の頃から知っている彼等の実力と比較した結果、本来なら教師として止めるべきの5対1と言う状況を認めたのだ。
龍也「おい、まさか今のが全力じゃねぇだろうな・・・」
「あ、当たり前だろうが!!」
だが龍也の挑発に明らかにどもってしまう、口ではこう言っているが実際は今の一撃で倒す為に全力の一撃をぶつけたつもりだったのだ。
だが龍也は落ちて来た岩を左腕一本で簡単に砕き自分達へと落下して来るのを防いだのだ。
(こ、こうなったら・・・)
「おい、お前ら!時間を稼げ!アレをやるぞ!」
「わ、わかった!」
「あ、アレならいけるよね」
自分の全力の攻撃を防がれビビリながらも魔力を溜めていく、取り巻きの男達も時間を稼ぐ為に龍也へと向かって来る。
「「「「おおおおおお!!!」」」」
ゆっくりと近づいて来る龍也へと一人が火の魔法火球、一人が水の魔法水鉄砲、一人が風の魔法風打ち、一人が土の魔法土玉を撃ち出しす。
避けようともしない龍也へ直撃した魔法は大きな爆発を起こしその煙が龍也を覆い隠す
「はは!ざまぁみろ!」
「へっ!やった・・」
龍也「終わりか?」
「「「な!?」」」
・・・が龍也は爆煙を突き破りながら一瞬で距離を詰め目の前へと現れる。
「は、はや!?」
龍也「ふんっ!」
ドゥンッ!!
「ごっふ!!」
彼らが起こした爆煙を目隠しに足の力を溜め地面を全力で蹴り距離を詰め左ボディーブローを叩き込む。
腹への一撃をくらった男は悶絶する間も無く気絶した。
「コイツ!符呪!!」
仲間がやられた事に焦り右腕に岩を纏って殴りかかる。
ガン!
龍也「軽いな・・」
「な!?」
しかし岩の拳を側頭部に受けても龍也はダメージどころか怯みすらせず、拳を構える。
龍也「ガードしろよ・・・、ふんっ!!」
「くっ!」
ドゴンッ!!
「ぐぎゃっ!!」
あえてゆっくりと拳を構える龍也に対して急いで右腕を盾にしてガードするが、龍也の拳はあっさりと岩を砕き顔面を殴り付け吹っ飛ばした。
「なっ!なんてパワーだ!」
「近づくのはまずい!遠距離で戦うぞ!」
龍也の馬鹿力を目の当たりにして、警戒心を高め遠距離から水と風の魔法を連射する。
・・・が、距離を離して弱い魔法を連発しているだけなので龍也とっては痛くも痒くも無い。
龍也「鬱陶しい!、そんなに近づきたく無いなら此処からぶっ飛ばしてやる!」
弱い魔法の連発にまるで虫に刺されたかのようなイライラが募り、足を大きく開き、足が陥没する程強く踏み締める。
龍也「スゥーーーーーーーーーーーーゥ!」
「な、なんだ?」
「構わず撃ち続けろ!」
大きく息を吸い動きを止めた龍也にチャンスとばかりに魔法の手数を増やすが一発一発の威力が落ちている為ただ鬱陶しいだけだ。
そんなのお構いなしに踏み込む力をより強くし右眼を赤く染めて口を開ける。
龍也「爆・龍・砲!!!」
瞬間、口から一瞬の閃光と共に炎の砲撃が放たれる。
「「ひっ!?」」
ドッ!ゴーーーーーーーン!!!!
龍也の口から放たれた、極太いビームのような熱線が豆粒のような魔法を飲み込みながら真っ直ぐと向かっていき大きな爆発を巻き起こす。
「「ぎゃあぁぁぁ!!!」」
爆発の後、煙が晴れると二人の体は真っ黒になって倒れていた。
「あ、あいつあの四人を簡単に倒したぞ」
「な、なんなの彼は・・・」
「あいつ本当に一年か?」
四人を瞬殺する圧倒的な龍也の戦いぶりを見ていた生徒達は驚きと恐怖の感情に包まれていた。
ミファ「まさか、これ程とは・・・」
流石のミファもここまでの差があるとは思っていなかった。
龍也の方が強いとは予想していたが五人相手なら丁度いいぐらいだと思っていたのだが
龍也「ちっ!クソが!!、弱すぎる!力も速さも防御も魔力もこの程度の雑魚しか居ないのか・・・!」
だが龍也は敵を倒した事を喜んでなどいなかった。
寧ろ期待していたよりもずっと弱く余計にイライラしているようだ。
ズズーーン!!
龍也「?」
最後の一人のことなど忘れてイラついていると後ろの地面から橙色の光と共に巨大な魔法陣が展開され、その魔法陣から巨大な岩の巨人が現れる。
「ぎゃはははは!!!残念だったな!既にゴーレムの召喚は成功した!!いくらお前でもコイツには勝てないだろ!」
そう、彼が時間を掛けて魔力を溜めていたのは龍也を倒すための強力なゴーレムを作り出すためだった。
「ゴーレムを倒す一番の方法は召喚者を倒すこと!だが俺には策がある!!」
そう言うと自分自身に防御の魔法を掛けてゴーレムの体へと埋まっていく
『はははは!これでお前の勝ち目はゼロだ!いけぇ!!』
ゴーレムの拳が龍也へと直撃し、ふっ飛ばされて倒れる。
『逃すかよ!』
龍也が立ち上がる前に距離を詰めて行きハンマーのようにして何度も、何度も、殴り付ける。
龍也「・・・・・」
『くっ!コイツ!!』
だがこれだけの攻撃を受けてもなお立ち上がろうとする龍也に苛立ち、叩くのでは無く両手で握り潰そうとする。
『はははは!、俺を雑魚扱いした事を後悔しな!!』
グググググ・・!
抵抗しない龍也を握り締める力を強くしとどめを刺そうとした時
龍也「ふふふ・・・はははははは!!!」
『な、なんだ?』
とどめを刺そうとした瞬間に笑い出した龍也に驚く。
龍也「ようやく・・面白くなって来たじゃねえか!!!・・・・、ふんっ!!」
『何!?』
右眼を赤色に染め上半身を握り締める部分の岩を砕き両腕の自由を取り戻し、両手に力を入れそのまま下半身を引っこ抜き脱出する。
男の言葉など龍也には一切聞こえていなかった、期待した以下の実力しか無かった彼らにガッカリしていたがようやく自分が全力楽しめる相手が出て来たからだ。
龍也「おらぁ!爆・裂・突・破!!!」
『ひ、ひぃ!』
右腕を突き出しながら槍のように突っ込んで行く、龍也のパワーを目の当たりにして怯えながら何とか回避しようとする。
ドオォォォォォン!!
何とか直撃は避けるが完全に避けることはできずゴーレムの右腕が吹っ飛ぶ、だが召喚者を倒さない限りゴーレムの腕はすぐさまに再生する。
『ひいぃぃぃ!!か、完全防御!』
ゴーレムを砕くパワーに完全にビビってしまっているせいか、ゴーレムの型をボール状へと変形させて攻撃を止め防御に全力を注ぎ込む形態へとなる。
龍也「おいてめぇ・・何つまんねぇ事してんだよ!、せっかく面白くなって来たってのによ!!」
だが龍也にとってその行動は悪手だった、せっかく戦いが盛り上がってきたのを邪魔されてイライラを強くする。
龍也「二度と再生出来ないぐらいぶっ壊してやる!!!」
さっさと決闘を終わらせようとボール状になったゴーレムへと突っ込んでいく、防御に全てをかけているため一切の抵抗が無いことが余計にイライラを冗長させる。
龍也「おらぁ!!」
ドンッ!!
しかし防御に全振りと再生力が高い為、龍也の馬鹿力でも簡単には壊れない
『は、はははさ、流石のお前も・・』
龍也「おらぁ!!」
ドンッ!!
だが男の言葉を無視しもう片方の腕で殴り付ける。
龍也「おおおおおおおおお!"燃えろ魂"!!」
ドンッドンッドンドンドドドドドドド!!!
右拳甲の魔法陣の光を強くし、両腕に炎を纏い何度も何度も何度も何度も殴り続ける。
龍也「爆・裂・太・鼓!!!!」
ドッドッドッドッドッドッドッ!!!!
炎を符呪した両拳の連打がゴーレムの再生を上回る速度で砕いていく
バキッ!ガギッ!ゴキッ!
「ひ、ひいぃぃぃ!!」
既にゴーレムの装甲は完全に破壊され、防御魔法を全力で張り自分の身を守ろうとするが・・・
バキンッ!
龍也「オラオラオラオラオラオラァ!!!」
「ぐべっ、ばごっ、ぼげっ!」
あっさりと障壁は破壊され、龍也の豪腕に何度も何度も何度も何度も殴られる。
龍也「オララララララ!!オラァ!!!」
「ぐべはっ!!!」
フィニッシュの一撃と共に後方へと吹っ飛び気を失う
龍也「つまんねぇ勝負だったな・・・」
興味を失せたように後ろを向いた頭を掻きながら去っていく。
全員が倒れたと同時にゲートが消滅し元の次元へと戻る。
ミファ「勝者!、天ヶ瀬龍也くん!!」
ミファが勝者の名を挙げ決闘は終了する。
こうして龍也にとって初めての決闘は彼の圧倒的な勝利に終わった。
戦いを見ていた生徒達はその圧倒的な強さに尊敬や賞賛よりも恐怖の方が強かった。
「ほぉ!なかなか面白い奴が居るな」
「そう?戦い方が乱暴過ぎてわたしは好きじゃ無いわ」
「そこが良いのではないか!いずれ手合わせしたいものだ」
「ふーん、そう・・・」
しかし校舎の屋上で見ていた紅髪と藍い髪の二人の少女は別だった。
「へぇ〜やるじゃん、ふふふ♪」
龍也と同じ教室から覗いていた紫の髪の少女も、その戦いを見てほくそ笑んだいた。