第1話 アーケル魔法学園 入学式
アーケル王国 魔法学園
かつて白き竜が死んだ土地【アーケル】魔力を授かった人々はその土地に国を作り竜の墓の近くに魔法を極める学校を作った。
それがこの【アーケル魔法学園】である
4月、花の香りが風に乗ってやって来る季節、この学園にも初々しい生徒たちが集まっている。
《ですから!個人の魔法の向上とその魔法を正しく使う清らかな心を・・・》
入学式、学園長の話をを皆イスへと座り真面目に聞いている。
ただ一つの空席を除いて・・・
学園長室
「はぁ〜緊張した〜」
「お疲れ様です、紅奈学園長♪」
学園長にしてはあまりにも若々しい赤い髪の美しい女性がソファーへと体を投げ出すように座り込む
紅奈「意地悪しないでミファ、着任したばっかでまだ慣れてないんだから」
ミファ「ふふ!すみません♪紅茶をいれましたからリラックスして下さい」
紅奈「ええ、ありがとう」
疲れている学園長に横から紅茶を差し出す薄い桃色の髪の女性、こちらもまた美しくつり目気味な紅奈と違い垂れ目なのがおっとりとした雰囲気を醸し出している。
学園長になって初めての生徒達の前で挨拶によって溜まった緊張と疲労をミファのいれた紅茶で癒す。
そんな中一つ気になっていた事を思い出す。
紅奈「そういえば一つだけ空席があったわね、誰か休んでいるの?」
ミファ「いえそれが・・休みの連絡も遅刻の連絡も無くて・・・」
紅奈「はぁ、困った子ね初日からそんな調子じゃ気が重くなるわね」
ミファ「はい、学科は・・・」
紅奈「《特殊科》の子でしょ」
ミファ「はい・・・名前は天ヶ瀬龍也くんですね」
紅奈「あまがせ?、たしかそれって・・・」
天ヶ瀬と言う名字に反応して何かを思い出そうとした時、学園長室の大きな窓から赤い光が見える。
ミファ「学園長!!」
光が自分達の方へ迫っているのを理解したミファは巨大な魔法陣を展開し盾のようにして攻撃を防ぐ
ドゴーーン!!
凄まじい爆発が起きる、防ぐ事はできたが同時に盾として張った魔法陣も砕かれてしまう。
ミファ「くっ!なんて威力なの!!」
紅奈「ミファの防御を突破するなんてかなり上級の魔法ね、三年生かしら?」
ミファが気付くよりも素早く窓から離れていた紅奈も驚いている。
咄嗟に張ったとはいえ自分の右腕であるミファの防御魔法を破れる生徒は少ない
「ほう、よく止めたな・・・」
しかし煙が晴れた場所にいたのは見覚えの無い生徒であった。
「もっと取り乱すかと思ったんだがな」
紅奈「あいにく、こう言ったヤンチャ事はこの学園ではよくある事なのよ」
「なるほどな、ならここに来たのは無駄じゃ無いみたいだな」
紅奈「あなた見たこと無い子ね、クラスは?」
「知らねえよ、今来たんだからな」
ミファ「今来たって・・もしかして君が天ヶ瀬龍也くん?」
龍也「ああ、そうだ」
紅奈「ええ!?、この子一年生なの!!」
龍也の年齢にそぐわない大人顔負けの体格に襲撃された事以上に驚いている。
ミファ「入学式に参加してなかったみたいだけどどうしてかしら?」
龍也「はん!、んなもんつまんねぇからに決まってんだろ!俺は学園で一番強いあんたと戦えればそれで十分なんだよ!!」
紅奈「はぁ・・・初日に学園長室への襲撃これは最大級の問題児ね・・・しかも私が就任したったばっかの年に・・・厄年だわ・・」
ミファ「心中お察しします・・・」
龍也「何ごちゃごちゃ言ってんだ!戦わねえならこっちから行くぞ!!」
歴代でもトップレベルの問題児の出現に、これからの苦労を想像して先程まで癒された頭が途端に痛くなる。
だがストレスの原因である龍也は気にした様子もなく炎の拳で殴り掛かろうとする。
紅奈「《拘束》!」パチン!
指を鳴らすと共に龍也の足元に魔法陣が現れそこから炎の鎖が出現し龍也の体を縛り付ける。
龍也「な!?」
龍也「くっ!くっそ!!」
紅奈「これで満足かしら?わかったら今日は授業はないから寮へ帰りなさい、ミファこの子の案内を頼めるかしら」
ミファ「はいわかりました、では・・・」
龍也「なめんな!!!」
ガキンッ!!
勝負は決したとでも言うようにミファの方を向いた時、鎖を引きちぎって立ち上がり殴りかかる。
紅奈「嘘っ!」
龍也「くらいな!!」
不意を突かれて咄嗟の回避が出来ず、すぐさま防御の魔法を自分に掛けようとした時
「バインド!」
龍也「がっ!またか!!」
空中に紫の魔法陣が出現し紫色の鎖が再び龍也の動きを制限する。
龍也も先程と同じように引きちぎろうとするが、明らかに強度が違いいくらもがいても壊れず、むしろもがくほど絡みつき簀巻きにされてしまう。
「ほっほっほ!、油断したな紅奈」
ミファ「ボルス先生!!」
笑いながらやって来たのは白い髭を蓄えた老人であった。
龍也「な、なんだ!てめぇ!!」
まったく気配を感じさせずに現れた老人に驚く
紅奈「彼が君が探していた、この学園最強の魔導師よ」
龍也「なに!、あんたが最強じゃねぇのかよ!」
紅奈「ボルスは元学園長なのよ、実力は彼の方が上よ」
龍也「あのジジイが・・・」
ボルス「随分と口の悪いガキじゃなぁ、これは手をやきそうじゃな・・・」
龍也「うっせぇ!てめぇ今すぐ俺と戦え!!」
ボルス「ほっほっほ!、そのなりでよく言うわい」
ボルスの言う通り、今龍也は鎖でぐるぐる巻きにされて床に倒れている状態だ。
ボルス「ワシと戦いたいのなら、まずその鎖を解けるようになってからじゃな!」
龍也「くっ!!」
苦虫を噛みつぶしたような表情をしているが、実際拘束を解けない以上どんなに頑張っても勝てない事は龍也にだってわかる。
龍也「あーくそ!わかったよ、暴れねぇから離せ!」
ボルス「ほっほっほ♪、ほいっと!」
龍也が降参すると同時に拘束が解かれる。
自由の身になると素早く立ち上がり体の調子を確かめる。
ボルス「なんじゃ、解いた瞬間殴りかかってくるかと思ったんじゃがな」
龍也「んな事するかよ、てめぇは正面から正々堂々とぶっ倒す!、覚えてな!」
龍也「ほら、退学でもなんでもさっさとしろよ!」
学園長への襲撃という大問題を起こした以上退学にされる事は予測していた。
紅奈「あら、意外に素直なのね、ならミファ寮へ案内してあげて」
ミファ「わかりました」
龍也「いやおい!退学じゃないのかよ!こんだけ暴れたんだぞ!!」
しかし紅奈達はまるでよくある事とでも言うように処理する。
紅奈「さっきも言ったでしょ、こんなのはこの学園ではよくある事なの、特にあなたがこれから通う《特殊科》ではね」
紅奈「それにこの学園は生徒の魔法の向上心を応援しているの、だから学園内での決闘を許可してるわ」
龍也「そうなのか?」
ミファ「まぁ、ちゃんとした了承を得ないといけませんけど・・・」
ボルス「流石に入学初日に学園長を襲撃するなんてバカはお主ぐらいじゃがな」
龍也「ふんっ!」
紅奈「ま、今日は初犯と言うこともあって多めに見ておくわ、次からは正式な手続きを組んでから来て頂戴」
龍也「・・・・わかった、今日は帰る」
紅奈「ええ、明日からの学園生活楽しんでちょうだい!」
思ったよりも素直に聞き入れ少し驚きながらも、ミファと一緒に部屋を出て行く龍也を手を振りながら見送る。
紅奈「・・・・・ねぇ、ボルス」
ボルス「ん?、なんじゃ?」
紅奈「助けてくれた事はお礼を言うわ、でも一つだけ訂正させて、私は油断なんてしてないわ」
ボルス「ミファの防御を破壊する程の魔力を警戒し魔力抑制の鎖を出した、そうじゃろ」
紅奈「ええ、そうよ」
ボルス「それが間違いじゃよ」
紅奈「え?」
ボルス「ワシの見立てでは小僧の魔力はそこまで強くない、寧ろ平均より低いと見た、つまりは」
紅奈「まさか!彼は腕力で鎖を引き千切ったって言うの?」
魔力で作られた武器などは魔力の強さによって強度が変わる、魔力抑制の鎖は普通よりも強度が落ちるが、紅奈程の魔力ならば鋼鉄よりも強固になる。
ボルス「低い魔力を身体能力で補う魔導士は多い、小僧はその中でも特に鍛えておるな」
ボルス「ほっほっほ、これから楽しくなりそうじゃの紅奈♪」
ボルス「あの小僧だけではない、今年の一年は皆元気なのが揃っておるからの、この三年間荒れるぞ〜♪」
紅奈「元気なのは良いけど、もっと落ち着いた年に来て欲しかったわ・・・」
ボルス「引退しておいて良かったわい♪ま、せいぜい頑張ってみたまえ、ほっほっほ♪」
紅奈「こ、この腐れジジイ〜!他人事だと思って〜!」
既に学園長を引退したボルスはこれからの波乱の三年間を楽しみにする。
最高責任者の紅奈はこれから来るであろうストレスを想像して胃が痛くなっていた。