始まり
近未来を舞台にしているが、今すでに起きている問題をテーマに。
ネット社会が拡張し、人々はVR世界でアバターを通じて交流するのが、一般的になっている。
現実で面識がある、直接会う、一緒に過ごすといったことは、家族や気の合う者同士、仲間内でのみ行われているのが当然で、それ以外の人とのコミュニケーションや仕事と言ったものは、基本的にVR世界で行われている。アバターや登録名は知っているが、お互い本人に会ったことはない、本名は知らない場合がほとんどである。
しかし、自動翻訳機能もあるVR世界では、言語も住んでいる地域も関係なく交流できる利点もあり、ビジネス利用者は一気に増えた。それがいつしか社会に広がり、一般的に人との交流手段となった。
ここでは1人1つアカウントをもっている。これは、VR世界のアカウントと現実の本人とを結びつけた個人情報を行政が管理している為、有事の際の本人確認が担保されている。 それによりVR世界の中で本人の情報を晒すことなく、アバター同士での交流や活動することができるのだ。その上アカウントは1つしか持つことが出来ず、変更や作り直しが必要な場合は、その都度行政に申請し、修正や再発行手続きをしなくてはならない。戸籍等と連動している為、適当に作る訳にもいかないのである。
ある日、そのVR世界で事件が発生した。とある1人のアバターが突如として消えたのだ。当人ではなく、周りの人からVR世界内で通報が複数寄せられた。
念のため現実でも捜査をしたところ、本人は失踪していなかった。そして、当人は通常通りログイン出来ている状態であった。つまり、現実の本人もVR世界でのアカウントも存在しているが、アバターが周りに見えていない状態のようだ。本人が言うには、「基本的には機能全般使えているが、昨晩から交流するには周りの反応が妙に薄く、みんなに認識されてないのではないかと思っていた。原因は分からない。心当たりもない。このままだと仕事に影響が出てしまうので困る」とのことだった。
そして、この一件を皮切りに同様の事態に陥るアカウントが多数発生した。1度この状態になったアカウントは、管理者側で対処しようと、アカウントを再発行しようと元の状態に戻らず、連日増え続ける通報に、行政も巻き込んだ問題に発展していた。