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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第一章 旅立ち
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第07話 合格で失格の理由




森を出て全員で、町まで帰る。行きよりもさらにヘトヘトな受験者たちなので、帰りは倍ほどの時間がかかった。

試験にも時間がかかっていたため町に着いた頃には、だいぶ日が沈み暗くなってきていた。

ちらほらと灯りに火を灯している人たちがいるのでだいたい8時くらいだろうか。

道場に着き、だるさと格闘しながら、前に立つガウルさんが口を開くのを待つ。


「さて、第二試験を終えてへばってる奴らもいるだろうからさっさと結果を発表しよう。受験者たちは組ごとに担当試験官のところへ向かえ。試験をした組順に並ぶように。」


 そう言われたので僕たちもガウルさんのところへと向かう。最後に受けたので最後尾だ。

待っていると前に並んでいるキースたちが話しかけてきた。


「でもよぉ、なんとなく合否がもうわかっている気がしねぇか?獲物を持ってるのと持ってねぇのがいるわけだし」


「いや、倒したけど持って帰ってこなかった人もいるかもしれないじゃん?」


「あー、なるほどな。そう考えると、獲物の有無で勝手に結果を詮索するのは良くないかもな」


「確かに。獲物を持ってないってだけで勝手に力量を間違えちゃうかも知んないもんな」


 そんなふうに話していると前の組の発表が終わり一喜一憂しながら戻っていった。そして僕たちの番がやってきた。

ガウルさんの前に行くと、「おぉ、お前らが最後か」といい僕たちを見回す。


「よし、じゃあ結論から言おう」


 ゴクリっ、と誰かが息を飲んだのがわかった……いや、もしかするとそれは僕のものだったかもしれない。


「お前たちは全員、第二試験合格、Eランクハンターの仮資格を認める」


「……おぉ!やったぜ!」


「やった!」


僕たちはみんなでひとしきり喜んだ。そうして数分ほどたち僕たちが落ち着いたのを見計らってガウルさんが続けた。


「おう、嬉しいのはわかるがまだ話は終わっちゃいねぇぞ。確かお前らは全員弟子入り希望者だったな?」


「っ、はい!」


そう言われて4人とも少し背筋が伸びた。


「そっちの方の合否も今発表する。」


……ゴクリっ、今度はたぶん4人全員が唾を飲んだと思う。

 特に3人はハンター活動をメインの仕事とするようだし、そう考えるとベテランハンターに教えを請えるというのは相当大事なことだろう。緊張してしまうのも当たり前だ。

僕だって、王都に行く間に力をもっとつけたいしベテランハンターへの弟子入りはすごくいい経験になると思う。


「こっちもまとめて答えるとしよう……そこの一番小せぇの」


 この中で一番小さいのは僕だろう。身長も年齢も。


「はいっ!」


「お前はダメだな。他の3人は一応合格としよう」


……んっ?


「えーっと?え?」


 その言葉に僕は少し動揺している。


「だから、お前ら三人は稽古をつけてやる。でも、お前はダメだ。」


 いや、正直言ってかなり動揺している。初対面のこの人たちでもわかるくらい明らかな動揺だ。隠そうともできない。


「んじゃ、そういうことだから。今日のところは帰りな」


「いやっ、じゃあせめて理由だけでも教えてください!僕とキース達じゃ何が違うんですか!?」


そうだ、確かに僕はそこまで必死に弟子入りを目指していたわけじゃない。けれど、この3人には組手で勝ち越しているし、特別優れているとは思わないけれど3人と同等ではあると思っていたのだ。

それが結果はどうだ?僕はダメで3人は合格。

正直言って今回の試験、僕は3人より優れているという自信があった。

3人は「アルミラージ」を倒したが、僕は「ラージミラージ」という上位互換を倒したのだ。3人よりも評価が高いと思ってしまってもおかしくはないだろう。

そう思って、ガウルさんに対して少し口調を荒げて聞いてしまった。

……それを聞かなければ今までの自信を失うこともなかったかもしれないのに、と今更考えてももう遅いわけだが。


「理由か、確かに教えていた方がいいかもしれんな。その方がお前のためになるだろう。簡潔に言えばだ……お前の戦い方じゃあEランクやDランクハンターとしてならばそこそこいいところまで行くだろう。パーティメンバーによってはもしかすればCランクも行けるかもしれん」


 それだけ聞けばますます、不合格の意味がわからない。

不合格なのに褒められているので頭が理解ができないのだ。


「だが、そこまでだ。どれだけパーティメンバーに恵まれようがCランク上位、Bランクに行けば……Bランクの魔物と出会えば今の戦い方のお前は確実に死ぬーー」


ーー死ぬ?

その言葉を聞いてから、僕の頭は真っ白になった。

あの日の出来事が鮮明にフラッシュバックする。

ここまで鮮明なものは初めてかもしれない。

目の前にはブルーウルフ。そして、それと対峙する僕。

その僕はあの時と違い手に剣を構えている。体も大きくなっており、強くなっているだろうことは明白。

そして向かってくるブルーウルフに対して構え、ラージミラージの時のようにカウンターを決めようとした瞬間、体が思うように動かなくなった。

僕の体は動かずともブルーウルフは迫ってくる。そして今にも噛みつかんと僕の首筋に向かって大きな口を開いたーー


「っあ”あ”あ”あ”あ”っ!」


ゆ、夢か?


「はぁっはぁっはぁ……」


動悸が激しい、なんて悪夢だ。くそっ!

あれ?なんであんな夢見たんだ?っていうかここは?


「僕の部屋?どうして、あれ?確か試験を受けに行って、それから……」


一体どこまでが夢だったのかもわからない。とりあえず落ち着こう。

冷静なのが取り柄じゃなかったか、僕?

コップを取り出して水を入れ、一気に飲み干す。

カラカラだった喉が潤っていくのを感じる。


「……ふぅ」


ようやく落ち着いてきた。

確かあの後、ガウルさんの声が聞こえなくなって……ぼーっとしながら帰ってきた?んだっけか?

ガウルさんも何か言ってたような気がするんだけど、もう弟子入りに不合格をもらったことと、今のままだと強い魔物にあったら死んじゃうってことまでしか覚えてないな。

……今の戦い方じゃダメなのか?

なんかその辺も話してくれてたような気がするんだけど、どうにも思い出せない。

セレナに勝つためにも、セレナを守れるくらい強くなるためにも、そこが一番大事なんじゃないか。

きっと昨日帰ってからうじうじはしたんだ。もう切り替えなきゃな。

ずっとしょげてても何もできないことは散々知ってるしね。

今のままじゃ死ぬ?なら変わればいいだけさ!

戦いすらまともにできなかったボクがキースたちに勝ち越せるくらいに変われたんだから!

とりあえず、ガウルさんのところに行ってもう一度話を聞きたいな……思い立ったらすぐ行動っ!

ということで、軽く体を濡れタオルで拭いてから着替える。

軽くご飯を食べていると、三の鐘が聞こえてきた。ということは今は10時か、なんて思いながら支度をしていざ道場へ!

道場へ着くと、今日は少年部門の日だったのでもう稽古が行われていた。

少し辺りを見渡すと、ガウルさんではないが蒼炎の泡沫のパーティメンバーで昨日の試験官もしていた人を見つけた。

年齢は20代後半くらいかな?爽やかな感じの人だ。

どうやら稽古を見にきていたようだ。


「あの、すみません」


「ん、ボクのことかな?……あぁ君は昨日の受験者だったよね?」


「あ、はいそうです、クルトって言います。よろしくお願いします」


「……あぁはい、ボクはハインツだよろしくね。……でどうしたの?何か質問かい?」


 ハインツさんは優しそうな人でよかった、ガウルさんはちょっと怖そうな感じだしね。

僕は昨日の弟子入りの結果も含めてガウルさんにもう一度話を聞きたいということを話した。


「なるほどね、わかった。ガウルさんは今は南の草原あたりで昨日の弟子志願者たちに早速稽古をつけてるはずだよ。もう少ししたらお昼だから稽古を終えて戻ってくるんじゃないかな?午後からは青年部門に用事があるって言ってたからね」


 ハインツさんはとても丁寧に教えてくれた。確かに、周りを見てみるとキース達の姿が見当たらない。


「ありがとうございますっ!とりあえず草原の方へ行ってみることにします!」


「ん?ここで待っておけばいいんじゃないかい?」


「いえ、なんか今日はじっとしてられないんで!」


 僕がそう答えると、ハインツさんは「ハハッ」爽やかに笑い僕の頭を撫でた。


「うんうん、君はいい性格しているね。こんな子を落とすなんてもったいない、まぁガウルさんも結構考えているようだから悪く思わないでやってくれないかい?」


「……はい、もちろんです!」


 ガウルさんは理由を教えてくれていた。昨日は動揺していてあまり頭が働いていなかったから理解できなかったけれど。きっと僕を落とした明確な理由があるんだろう。

それにもともと、こちらが弟子入りを頼んだだけなのだからガウルさんは自由に合否を決めていいわけでその結果に文句を言う筋合いは一切ないもんね。


「いい返事だ。じゃ行ってきな」


「はい!行ってきますね」


 そういってハインツさんに返事をして道場を後にした。

ハインツさんの話によれば、町から南に出て15分ほど歩いたところで稽古をやっているそうだから、町から出ればすぐにわかるらしい。

というわけで南の草原に出てくると、確かに何人かの人が目に入った。街道から少し外れたところで稽古をしているようだ。

 近づいていくと、ガウルさんの大きな声が聞こえてきた。


「よしっ!ちと早いが最初だしな、今日のところはこれで終わりだ。明日もやるから来れる奴はこい!」


「はい!ありがとうございました!」


 ガウルさんの言葉にお弟子さん達が元気に返事をしていた。まぁ今日始めたばかりだからか返事はずれていたけども。お弟子さんの人数は6人、僕を含めて4人落ちていたようだ。

うち3人はキース達だから、やっぱり優秀なんだろう。……僻みじゃないぞ?今は落ち着いているから素直に思っていることだ。

そして、なんともタイミングのいいことに稽古が終わったようだ。

そして同時に、キース達が僕に気づいたみたい。

 ま、今は3人のことよりも自分のことだね。

僕は気まづそうにしている三人に見られながら僕はまっすぐガウルさんの方へと歩を進める。

ていうか、もう気にしてないからそんなに気まづそうにしなくてもいいんだけどな。それも僕が原因だからあとでなんとかしよう。

今はガウルさんの前に着いたからこっちが優先。


「ガウルさん、今ちょっといいですか?聞きたいことがあるんです」


「おぅ、昨日の坊主か。話はいいがなんでここがわかったんだ?」


「あーそれは道場でハインツさんに教えてもらいました」


 僕がそう答えると、ガウルさんは少し笑みを浮かべた。……少し怖い。


「ほぅ、あいつがか。ふっ……で、話ってのはなんだ?また弟子入りの話か?」


「いえ、確かに関係してるんですけど少し違います。昨日言ってた不合格の理由なんですけどーー」


 ガウルさんに聞きたいこと……それは昨日言ってた戦い方のこととCランクの魔物のことだ。

なぜCランクの魔物に戦うと僕が死ぬことになるのか……それを聞かなければ僕はきっとこの先へ進めなくなる気がするのだ。


「あーそのことか。昨日は脅かすように言ったが、簡単な話だ。お前はいまカウンターを基本とする戦い方だろう?最初の組手の時からそうだったしな」


「はい、そうです。防御とカウンターでずっと試合をしてきました」


 組手の時から見ていたのか。さすがはベテラン、すごいな。


「やはりな……練度がわかるとてもいい技だった。あの技なら普通の人間や、低レベルの魔物相手なら問題はない。だが、それよりも少しレベルの高い魔物になってくると力も速さも硬さも桁が変わってくる。そうなってくると今のお前のやり方じゃ反らせなくなるし、掠るだけでもかなりのダメージになる。カウンターは相手の力も利用する高度な技だが諸刃の剣でもあるわけだ。俺たちは戦いの基本やハンターとしての心得などは教えることができるが、戦い方の矯正まではしてやれん。それがお前を弟子としない理由だ。」


 そもそもウチにはいないからカウンターの戦い方を教えられんしなといってガウルさんは話を締め括る。


……なるほど、すごくわかりやすい。確かにそれならば今のままの戦い方じゃダメというのも納得だ。

カウンターじゃあこの先、力が強くて早くて硬い魔物に対峙すると技を決める前にやられてしまうというわけか。……あれ?


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


「ん、なんだ?わかりにくかったか?」


「いえ、すごくわかりやすかったんですけど……カウンターの方が普通に切り込むよりも威力がありますよね?」


「まぁ、そうだな」


「そうすると、硬い魔物に対して自分から攻める場合どうやって攻撃するんですか?」


僕がそう聞くとガウルさんが一瞬、顔をキョトンとしてそれから笑った。


「ハハハハッ!今しがた話を聞いたのにすぐにそれに気がつくか。いい頭してるな坊主!」


そう言いながらガウルさんは僕の頭に手を置きガシャガシャと撫でた。

同じ「撫でる」でもハインツさんとは大違いだ。すごく荒い……でもどこか落ち着くような手だ。

僕は場違いにもそんなことを思ってしまった。


「そう!その通りだ。俺たちの攻撃であっても普通にやってちゃ上の魔物には通じない」


「えっ?じゃあどうするんですか?」


「そんときに重要になってくるのが(オーラ)だ。」


「オーラ?」


 聞いたことのない技だ。セレナは知っているのだろうか……キース達はどうだろう?

ふと、キース達の方を見てみると僕の視線の意味を理解したのかブンブンと横に振っていた。

3人は知らなかったようだ。

ていうか人の会話を盗み聞きするなよ、悪い奴らだ。……まぁ元々ガキ大将だったから今更言っても仕方ないか。

っと、思考がそれた。ガウルさんの方へ顔を向きなおすと話を続けてくれた。こちらのやりとりを待っていてくれたのか、やっぱりいい人だ。


「そう(オーラ)だ。簡単にいうと肉体に宿るエネルギーだな」


「肉体に宿るエネルギー……」


 動揺こそしていないがなんかもうよくわからなすぎてガウルさんの言葉を繰り返すだけしかできていない僕。


「ま、口で言ってもわからんわな。じゃあ一つ見せてやるとしよう。おい!お前らも時間があるやつは見にきていいぞ!」


「えっ、いいんですか?」


「あぁ、どうせあいつらにもいずれ教えるからな。ついでだついで」


「いえ、僕にも見せてくれていいんですか?なんか大事なものなんじゃ?」


「ハハハハッ!そう大したもんは見せねぇよ。ギルドの講習にもあるくらいだ。それにこの町の道場でも青年部門のやつには教えられてるしな」


ガウルさんはそう言いながら笑うと、この場にいる人全員で15分ほど走りながら近くの魔物が出る森まで向かった。なぜ走るのか尋ねると「修行の一環だからだよ」と一言。いい人だけれど、そういうところはしっかりとしているようだ。




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