第06話 ハンター試験
事の起こりは2週間ほど前まで遡る。
その日はいつものように朝起きて顔を洗い、身だしなみを軽く整えて仕事先であるバンスさんのところへ。今日は朝からキース達と昨日のハンターの人たちに弟子入りの話をするため、バンスさんには昼頃から仕事に出させてもらうようにお願いし、道場へと向かった。
道場に着く途中、キース達と出会いそのままみんなで道場に。
道場に着くと、昨日のハンターさん達が今日の少年部門の稽古も見る予定だったそうで、軽く準備運動をしていた。
おそらく弟子入り志願であろう、他の門下生も7人ほどいた。僕と同じ幼少部門の子も2人見つけた。
他の4人は少年部門で1人は青年部門の生徒のようだ。
それから、ハンターさん達の準備運動がひと段落ついた頃を見計らい、計11人で弟子入りをお願いしたのだ。
弟子入りの話を終えると、ハンターのパーティリーダーであろう人ががニヤリと笑みを浮かべ口を開いた。
「ははははっ、威勢がいいなぁガキども。そういう奴らは嫌いじゃねぇぞ。だが簡単に弟子入りは認めらんねぇがな。」
心の中でなかなかの好感触なのかなと思いつつ、静かにリーダーの次の話を聞く。
「俺はガウル、Bランクハンターパーティ≪蒼炎の泡沫|そうえんのうたかた≫のリーダーだ。よろしくな。んでまずお前らに言うことがある。ハンターってのは命を対価に金を稼ぐことが多い危ねぇ仕事だ。実力も見込みもないやつを受け入れてもすぐに死ぬ。ってわけで、弟子入り志願者には試験を行う」
ガウルさんがそういうと、志願者の1人青年部門の生徒が質問した。
「試験……ですか。ではそれに合格すれば弟子にしてくださると?」
「はははっ、理解が早いな。半分正解だ、もちろん弟子にして欲しいのならしてやる。この町近辺でもお前達以外に弟子入り志願者やハンターギルドへの口利きを頼んでくるやつが来たし、これからも何人か来るだろう。そんなわけで、そいつらも含めてまとめて試験をする。この試験はBランク以上のハンターにギルド側から推奨されてもいるハンター発掘試験を兼ねてもいるわけだ」
ハンター発掘試験。ガウルさんの話によれば、ハンター志望の人間でも近くにギルドがあるわけではない。そして、ハンター登録をしたものの詳細をギルド側が全て把握できるわけでもない。
つまり、この試験でギルドがまだ見ぬハンター候補や、実力はあるが登録したてで低ランクのハンターを見つけ上に上げるための試験だそうだ。
しかし、いくらギルドが大きな組織であっても小さな街にまで支部があるわけではなく、もちろん村や集落になんてあるわけもない。
この街にもギルドはなく、最寄りのギルドまでは距離がある。幸いこの近辺には魔物の被害が少なく田畑なども多いため、この規模の町としては裕福な方らしい。これはバンスさんから教わった。
そして、そんな町にももちろんハンター志願者というのは一定数存在する、キース達などがいい例だ。ガウルさん曰く、このような志願者はハンターに登録するために大きな町に向かうことになるのだが、どれほどの実力が必要かわからないものが多くもう十分な実力があっても小さな町で修行を続けていることが多いそうだ。そのためBランク以上のハンターには一般人に試験を課しその結果を持って、ハンター資格の仮発行が可能なのだとか。その仮資格をギルドの持ち込むことで、その資格に見合うランクからハンター活動を始めることができる。
「Bランク以上のものは自分のランクより2つ下のランクまで仮資格の授与が可能だ。つまり俺達はBランクパーティだからFランクからDランクまで授与できるってわけだ。」
「つまりその試験に受かれば、Fランク以上のハンター資格とガウルさん達のパーティへの弟子入り資格が手に入るというわけですね?」
僕がガウルさんに問うと、僕の顔を見てやはりニヤリと笑いつつ答えてくれた。
きっとニヤリと笑うのは癖なんだと思う。
「小せぇのにえらく理解がいいな。ま、簡単に言えばそういうことだ、と言いたいところだが、弟子入りの方は俺が俺たちの弟子として見込みがあると思ったやつだけ認める。Fランクを満たしていても弟子入りを認めない奴もいるだろうからそれを覚悟しておくことだ。まぁそれもこれも試験に受かればの話だがな。ハッハッハ!」
そう言って大きく笑うガウルさん。確かに、弟子入りとハンター資格は別物だよな。つまり、弟子入りできなくてもハンター資格は手に入れることができるわけだ。やっぱりきて正解だったな。
それからも説明が続き、試験の実施は1週間後の朝7時、道場に集合し、それから試験を行うそうだ。
それらの説明を聞き終え、その日は僕はバンスさんのところへ、キース達はそのまま道場で少年部門の稽古があるということで別れた。
一度家に帰り、着替えてからバンスさんの商店で仕事をし、試験の話を伝えた。
バンスさんからは、「おう!やっと動いたか、応援してるぜ!」と元気な声援を受け、1週間後の試験まで仕事は朝のみで午後からは修行の時間に当てても良いと言ってくれた。本当にお人好しだと思う、ただただ感謝だ。いずれ恩返ししよう。
そんなこんなで、この1週間は1人での特訓とキース達との特訓、試験の予想などをして過ごし、あっという間に過ぎていった。
いよいよ今日は試験の日だ。
昨日の夜は早くに寝ていたので現在時刻は朝の5時、準備も昨日のうちに終えていたため少しでも緊張を和らげるため早くに家を出ることにした、道場の隅でも借りて準備運動をと思ったためだ。
道場に着くとみんな同じようなことを考えるようで、まだ6時半ばだというにも関わらず、ちらほらと15人ほど集まっていた。
各々体をほぐしたり、精神を集中させていたりと入念に準備を行っている。
僕もそれに合わせて、念入りに素振りや柔軟をしているとキース達がやってきた。
「おうクルト、準備運動か?」
「うん、少し早く起きちゃったからね」
「やっぱりお前もか、じゃ俺たちも軽く動かすとするか」
キース達も結構緊張しているようだった。いつもは堂々としているのに珍しいことだ。
そんなふうに時間を使っていると、いよいよ人も集まりガウルさん達《蒼炎の泡沫》の面々も集まった。
時間になったため、ガウルさんが口を開いた。
「結構な人数が集まったな、んじゃあ早速試験内容を説明する」
受験者の人数は50人ほど、近隣の村などからも集まってきたようだ。
この中からどれくらいの人数が落ちるのか。
皆一様に固唾を飲んでガウルさんの言葉を待つ。
「試験は段階ごとに合否を発表する。第1試験に受かればFランクの仮資格を与え、そのまま第2試験へ移行し受かればEランクへ。今日は第2試験まで行い、後日第3試験を行い受かればDランクとなる。わかったか?」
そういうガウルさんに受験者の1人が質問をする。
「弟子入り志願者はどうすれば?」
「弟子入りを希望する奴は第1試験を合格してもらうつもりだ。したがって試験の後に合格者の中から希望者を聞く。そして第2試験の内容を見て弟子入りの合否を決めることにする。必ずしも第2試験に受からなくちゃならねぇわけじゃねぇから安心しな」
青年は「わかりました」と答え説明が終わり、いよいよ試験が始まる。
「第1試験ではお前達の技術と体力を見る。いくつかの班に分けて総当たり戦だ」
ガウルさんはそういうと、受験者の人数を数える。結果受験者は56人いたため7組に別れた。
1組八人で僕と同じ班にはジュドがいた。
キースとペート、そして同じ幼少部門の子は他の班に行ったようだ。
幼少部門であっても年齢関係なく試験は行われるようだ。まぁ普通に考えればわかることだけどね。
「マジかよ、クルトがいんじゃん。今日は秘策があんだ、負けねぇからな?」
そう言って、ジュドは戻っていった。
そして総当たり戦が始まる。
とりあえず班員に番号を振って最初に1と2が戦い次に3と4が、というふうに進行していく。
僕は8でジュドは2だ。
最初の試合は、ジュドが勝った、相手は同じ少年部門の人のようだった。
まぁ、あの三人は幼少部門の中でも結構抜きんでていたし、セレナに完敗してからは努力に余念がない。
僕も勝った。相手はこれまた少年部門の人だったようだ、キース達に比べると少し弱いくらいだった。
僕たちは四人でしょっちゅう試合をしているため、慣れもあった。
師範も試合に対する慣れは大事だといっていたし、それが実証された結果だろう。
試合は進んでいき、結果は僕が6勝1敗、ジュドは5勝2敗だ。
青年部門の人にすごく強い人がいて、負けてしまった。
先手必勝というやつで、僕の知らない技だったため防御も間に合わずに場外だった。
まぁ、結構いい戦績だと思う。
そして試験の結果は、合格かと思ったら、今のは試験の前に実力を確認したかったそうでこの後第2試験を行う場所まで走りついていくことが第1試験だとか。
そこまでついてこれた人は合格、なんのための試合だったんだ?
少し疑問に思いはしたがみんな口には出さずについていった。
町を出て、それなりの距離を走ったところで脱落者が出た。
みんな7戦も戦った後なので、それなりに疲労している。
緊張していたこともあって、他の人の試合の時もなかなか休まらなかったので仕方がないと思う。
僕は暇があれば村に帰ったり、森で採取したりなどしていたため体力はあったから助かった。
2時間ほど走り、昼前に目的地に着いた。残りの受験者は56人から11人脱落し45名になっていた。
幼少部門は僕以外全滅だった。こればかりは日頃の運動量と体格がモノを言うので仕方がない。脱落者には飲み物を渡し、《蒼炎の泡沫》の1人が付き添って帰った。
目的地に着いた時僕たち受験者は大なり小なり息が荒れていたが《蒼炎の泡沫》のメンバーは誰も呼吸を乱してはいなかった。……こんなところでもやっぱりベテランのハンターなのだなと感じた。
「さて、思ったより減っちまったがこれでお前達にはFランクの仮資格を与えるわけだ。そして今から少し休憩し第2試験を行うからそのつもりでな。それと、休憩の間に弟子入り志願者達はこっちにきな」
少しの休憩を挟み、その間に僕はキース達と弟子入りを志願しにいく。
弟子入り志願者は10人ほどであった。
休憩を終えて、第2試験へ。
「第2試験は魔物との戦闘を行ってもらう」
それを聞いてざわめく受験者。
僕も、ブルーウルフを思い出し動揺を隠せない。
あれから森の深いところには行かないようにし、なるべく危険は避けてきていた。
魔物とは1人で戦わない、それが常識。
そのためこのざわめきは仕方がないと思う。周りを見てみると、さっきの試合で僕に勝ち全勝していた青年部門の人は落ち着いている。
魔物を相手にするのに緊張もしていないようだ。
「まぁ、そんなにビビるな。何も1人でやれってわけじゃねぇ。今から4人一組でグループを組み、そいつらで魔物と戦ってもらう。もちろん、いきなり強い魔物とやりあってもらうわけじゃないから落ち着け」
ガウルさんがそういったことで、みんな落ち着いていった。
単独でないならなんとかなると感じたからだ。
それは僕も同じだ。弱めの魔物ならいまの僕ならおっぱっらうくらいできるし。人数がいれば倒すことも可能だと思う。
4人一組は自由に決めて良いと言う事で、僕はキース、ペート、ジュドの3人と組むことにした。いつも組手をやっているから動きもわかっているしある程度のくせもわかるからカバーもしあえると思う。
全部で11組の簡易的なパーティができた。
《蒼炎の泡沫》の中からは現在6人が試験官として同行している。
第二試験は3組3組3組2組の順番で行われ、僕たちの組みは4番目の組となった。
まず最初の3組が試験をしに行き、それに4人の試験官が追従する。
その間僕たち居残り組の7組はひらけた場所で待機、もしもに備えてこちらにも2人の試験官が残ってくれている。
僕たちが今いる森はブルーウルフがいた森ではなく、比較的に安全な森で、魔物も低レベルのものしか出ない。
それでももしもは起こる可能性があるため、こうして指揮を取れる試験官を待機組にも置いているそうだ。
特にアクシデントなどもなく1組目が戻ってきて、次の組が出発する。
そのまま何事もなく第二試験は進んでいき、最後の組である僕たちの番となった。
僕たちのパーティの試験官はガウルさんだった。
ガウルさんに連れられて、森の中へと入っていく。
少し進んだところでガウルさんはこちらを振り返り口を開いた。
「よし、この辺でいいか……んじゃあ早速だが、第二試験を始める。内容はさっきも言った通り魔物の討伐だ。全員に一回ずつ魔物との戦闘をしてもらう。今から俺は後ろでお前らの戦い方を見せてもらうから、魔物と出会う前に戦う順番を決めな」
4人で少し話し合い順番を決めた結果、ペート、ジュド、キース、僕の順だ。
順番が決まったのでそのまま魔物探しを始める。
そうして少し探していると、茂みから一匹魔物が出てきた。
全長は40cmほどで額のあたりから10cmものツノが生えているウサギだ。
「おう、出たな。お前らも知ってはいるだろうが、一応試験だから説明をしておく。そいつはハンター間で《アルミラージ》と呼ばれるウサギ型の魔物だ。ツノはなかなかの強度で、武器などに使われるために新米にとってはかなり良い値で売れる。強さはそこまで強くないから動物にも負けることがある魔物だ。使う魔法は強化系でツノを強化してる。大人の村人でも余裕で狩れるやつだが、群れるから注意が必要だ。肉が結構うまいから売れる代わりにその肉目当てで強い魔物がいる場合があるから、実際は村人が狩りに来ることはまずないな。倒した魔物は受験者のものとなるから、売るならあんまり傷つけないほうがお得だぞ」
ガウルさんは「ま、傷つけないように気をつけてこっちがやられちゃ意味ないがな」と付け加えて説明してくれた。
アルミラージはこの辺では多く見られる一般的な魔物なので、僕たちでも名前は知っている。
ペートはアルミラージと対峙してすぐさま剣を抜きそのまま地面を強く踏み込んで切りかかった。
「はっ!」
アルミラージは避ける間も無く、一刀に伏された。
ペートが納剣したのを見てガウルさんが言った。
「よし、次行くぞ!」
ジュドとキースもアルミラージと対峙し、勝利した。
そして僕の番となったので魔物を探していると木々の間から一つの影が僕に向かって突っ込んできた。
僕は納剣したままの状態で攻撃をそらし、慌てて抜剣しつつ正体を見た。
見た目はアルミラージ。
しかし3人が対峙したものより二回りほどサイズが大きい気がした。
油断なく構えていると、ガウルさんの説明が耳に入った。
「そいつは《ラージミラージ》だな。まぁそのまんまアルミラージの親分だな。アルミラージと違って攻撃性が高い。遠目に見ると見分けられんから、近接で戦わない奴は結構ごっちゃになってる奴がいる。簡単な見分け方は目の色だ。アルミラージが青い目なのに対して、ラージミラージは赤い目だ。アルミラージよりも全体的にスペックが上だから新米が気をぬくとやられるから気をつけろ」
ちょっと僕だけ運が悪い気がする。
まぁうだうだ言っても始まらないから一応やるけどね。
ザッザッと地面を蹴って勢いをつけている。こちらにいつ来るかわかりづらくさせる意味もあるのだろう。さすがは親分、少しは頭を使うようだ。
しかし僕の戦い方は基本的にカウンターなので、待ちである。
こちらから焦れて突っ込むことはない。
僕は右手で剣を持って左手で鞘を持って相手を待つ。
数十秒ほど待っているとやはり向こうが焦れたようで、突っ込んできた。
ツノの長さが20cm近くもあるため一瞬で間合いを詰めてくる。
しかしくるタイミングさえ見極めればあとは簡単で、僕は体を左半身にし左の鞘でツノをかちあげ右の剣で
突きを放った。
グスッ、とあまり気分の良くない音が耳に入ったがこの世は敗者に対して非情。
仕方がないこと、挑んできた自分を悔やめと思いながら剣を抜く。
「よしっ、全員済んだな。じゃあ戻るぞ、準備しろ」
ガウルさんの声で帰る準備をする。と言っても納剣したら獲物を紐でくくって終わりなんだけども。
そうして、僕たちは元の場所に戻り第二試験を終えた。