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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第一章 旅立ち
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第05話 月日は過ぎて




 僕の名前は、クルト・クールベル。《クレイル王国》の北端にある《フェルト辺境伯領》、その東側にある《ティルゴの町》、さらにその少し東に位置する片田舎《カルケスの村》出身の剣士見習いだ。

正直いって長いから、名乗る時はフェルト辺境伯領出身と言うのが良いらしい。町の商人のバンスさんにそう教えられた。


 今年で11歳になる。カルケスの村出身と言ったが、ここ1年ほどは親に断りを入れてティルゴの街でさっきも話したバンスさんの元で商人見習いをしながらお金を貯め生活している。


 僕の年齢で働くのそれほど珍しいわけじゃないけれど、基本的には親の仕事の手伝いをすることが多い。

実際僕も物心ついた時には母の手伝いで薬の調合などを教わったりしていた。その調合もいまいちお金になるようなものではなく、他に稼ぐ方法を見つけようとした。

初めは父の仕事を手伝おうかとも思ったけれど、それは兄がいるためそれほど必要もなく。

僕の生まれたカルケスの村はどこの家もだいたいそんな感じで、人手は足りていた。

 いや、もちろん探せば仕事はあっただろうけれど、稼ぎは少なくそれこそ子供のお駄賃ほどしかもらえないので、どうせならと歩いて5時間ほど離れた場所にあるティルゴの町で働くことにしたのだ。


 ティルゴの町でも子供が親の手伝いをするのはよく見る光景ではあったけれど、僕のように10歳で全く関係のない店僕が働き始めるというのは珍しかったけれど。

なぜわざわざ少し離れた街まで歩いてそんなことをしたのかというと、1年前に出会った人物が影響している。

僕の通っていた剣術道場、リオンハルト流剣術の現当主の娘、セレナ・リオンハルトだ。

彼女との出会いは衝撃的で、一生忘れられないものだった。


 彼女との思い出はすごく短いものだったはずなのに、その全てが濃厚でずっと頭に残っている。

そしてそんな彼女と、「3年後にボクがセレナに会いに行って、そのときに再戦をしよう」と言う約束を交わした。

 僕は、僕の人生を変えてくれたセレナとの約束のために、お金を稼いでいた。


 僕の今いるティルゴの町からセレナのいる《王都ガイルム》に向かうためにはお金がそれなりにかかるからだ。

最も安い馬車で向かうのに1月半掛かり片道銀貨50枚……5万カロ。

その間の食費や支度、帰りの旅費など。諸々含めて少なくとも銀貨で160枚……16万カロは必要だろう。

つまり大銀貨で16枚ほど。

当時の僕は5万カロを手に入れるために8年とか言うバカみたいな計算をしていたけれど、実際はまともに働けばそんなにかかることもなく。空き部屋を借りて暮らしているからその分出費はあるけれどそれでも現在の貯蓄が30万カロほど……。もう王都に向かえるくらいには十分に溜まっている。最近は、仕事に慣れていろんなことを任せてもらえるようになり、一気に貯蓄ができ始めた。

バンスさん曰く、どうやら僕は商人としての才能がある方らしい。

確かに最近は商人も楽しいものだなと感じてはいるが、やはり剣士になって稼いでいく道も捨てがたい。


そんなこんなで、セレナと別れてからちょうど1年くらい。彼女は今どれ程強くなっているのだろうか、果たして僕も少しは追いつけているのだろうか。

考えても考えても答えは出ないので、今日もせっせと働いていく。




「よし、クルト。今日はもう上がりでいいぞ!」


「あ、はい!ありがとうございます!」


 時刻を見れば午後3時ごろ、いつもより少し早いが今日は商品の売れ行きが良かったので早めに店じまいするようだ。


「どうだ?そろそろ目標資金も溜まってきたんじゃねぇか?」


 バンスさんには、雇用契約の時に僕が働く目標と目的についてある程度は説明してある。つまり僕が剣士になりたいことも、1年ほどですぐに辞めてしまうことも知らせていた。バンスさんはそれを知った上でこの1年間しっかりと仕事を教えてくれたのだから、すごくお人好しで優しい人だ。

すごく感謝しているし、僕にとって恩人であり商売の先生だ。


「そうですね、資金の方は溜まっているんですが剣の方はまだまだ覚えることがいっぱいなんですよね」


「カァーっ。お前は商売人としての度胸はあんのに、そっちの方ではなかなか決心がつかねぇなぁ。ま、俺としちゃあまだまだここに残ってもらえば助かるんだけどな。商売(こっち)の才能はあるみたいだしな!ハハハハッ!」


「あはははっ、ありがとうございます」


 


そんなふうにバンスさんに茶化された後、僕が現在暮らしている少しボロめの元宿屋へと向かい歩いていると後ろから声がかかった。


「おい!クルト」


「ん?」


 振り返ってみると、ここ1年間はほぼ毎日のように顔を合わせるようになったお馴染みの三人組がそこにいた。キース、ペート、ジュド。まぁ声でわかってはいたんだけれど。


「あぁキースか。もう今日の稽古は終わったのか?」


「おう、だから今日も付き合えや」


「へへっ、覚悟しとけよ」


「今日はいつもと少し違うぜ?」


 この三人は同じ道場の生徒同士で、全員僕より二つ上の13歳だ。まぁ、一言でこいつらとの関係性を説明するならば「腐れ縁」で十分だろう。


「はいよ、一回帰るから先に行っといてくれ」


「わかった、じゃあいつもの場所で」


「へへっ、ちゃんと来いよな!」


「早くしろよ?」


 それだけ言って、踵を返し僕とは違う方向に歩き出す三人を少し見たあと、自分の部屋へ荷物を取りに行きながら少しだけ昔のことを考えた。


 キースたちとは今でこそ対等に話せているけれど、昔は顔を見るたびにビクビクしていたっけ、

こんな風に堂々と振る舞えるようになったのも、きっかけは全部セレナだったなぁ。



 そんなことを考えながら、歩いているとすぐにいつもの草原にまでついていた。


「来たな、んじゃ今日の特訓を始めようぜ」


セレナのおかげで勇気を出してキース達に決闘を挑み勝って、それでこの特訓も終わると思っていたんだけどな。まさかこんなことになるとは当時は思ってもいなかった、何がどう転ぶかわからないもんだ。



「ふぅ、とりあえずはこんなもんでいいじゃない?やるんでしょ?今日も」


「もちろんだろ」


「へへっ、あたぼうよ」


「今日の俺はちっとちがうぜ?」


 四人での軽い特訓を終えた後は、なぜか恒例となってしまった決闘という名の試合。

セレナを見送った後、すぐにこの町で暮らし始めた僕は、ほぼ毎日のようにこの三人と特訓をして、多くて週に3度は試合をしている。

そのおかげもあってか、僕のビビリ癖も随分とおとなしくなった。相変わらず自分から攻めることはできないけれど、カウンターもみっちり修行したからだいぶ勝率も高くなった。


「はぁ、なんとか勝ったー!」


「くそっ、もう少しで一発入れれたんだがなぁ」


「へっ、俺は一発入れたぞ」


「バーカ、あれは避けなかっただけだろ。……ちっ新技だったのに」


これまでの僕の戦績は、キースとは158戦92勝66敗。ペートとは86戦68勝18敗。ジュドとは96戦72勝24敗。……我ながらよく数えているもんだと思う。一応、メモしてるからなんだけど。


全員に勝ち越せているのは剣術を習ってきた長さもあるけれど最近は僕に才能があるからなのかなと思い、少しは自分に自信を持てるようになった。

まぁ相変わらず、守備主体であって攻撃の方はイマイチなままだけど。


さっきも言った通り、三人は2つ年上なので、同じ道場といっても部門が違うから道場で会うことはあまりない。

キース達は13歳からの少年部門、僕は12歳までの幼少部門。幼少部門では基礎的な型を学び、少年部門では少し実践的な技が増えていくらしい。

僕も、キース達が試合で使ってくる技を見て、そのあとに少しやり方を聞いたりしながら勝手に少年部門の技を学んでいくことにしている。

そうでもしないとセレナに一瞬で敗れてしまうと思ったからだ。

あの時セレナが言っていたように、それほどまでに幼少部門と少年部門の技には大きな隔たりがあった。


「ハァハァ……ふぅ。とりあえず今日は帰るか」


「だな」


 この三人のおかげで、対人戦の実戦経験がだいぶ増えてきた。おかげで向かい合っただけで震えるビビリ癖もだいぶマシになったし、その辺は三人に感謝もしている。絶対に言うつもりはないが。






***



 1週間後、いつものように仕事を終えてキース達が誘ってくるかなぁと思ったがなかなか来なくて道場の方に向かった。



 町とは言っても田舎なので、そんなに広くはない。むしろ小さい方だ、ギルドの支部もないくらいには。

僕の住む部屋から道場までは数分で着く。

道場について門をくぐると、何やら少しばかり騒がしい。事件や事故というよりも沸き立っているような興奮した声が聞こえてくる。

何があったんだろうと道場の中に入ると、見たことのない30歳前後のハンター風の装備をした人たちが六人ほど、そのうちの二人が青年部門の道場生達と稽古をしているようだ。

あ、道場生が負けた。


「おう、クルト!お前も来てたのか」


「あぁうん。で、これはどういう状況?」


 どうやらキース達は稽古の後に青年部門の見物をしていたようだ。

三人の話によると、あのハンター達はこの道場の出で、対戦していた青年部門の人と道場にいた頃の先輩なんだそうだ。

なんでもあのハンター達はこの道場の出でハンターとして活動を始め、今年で16年目のBランクハンターである五人組のベテランパーティらしい。

久々の帰郷で同郷の後輩である青年部門の人たちと指導を兼ねた模擬試合みたいなものをしていたそうだ。



 

 あの後ハンターたちは何戦か試合をして、僕もその試合を観戦させてもらった。やはりベテランとあって経験が豊富で試合の中でも参考になる点が多く、そしてハンターとして生きていく上で磨いてきたであろう奇抜な戦い方も非常に見応えのあるものだった。

 その後のキース達との特訓では、キース達は彼らの技を再現しようと躍起になっていた。

どうやら三人は少年部門の卒業と同時にハンターを目指しているらしい。

僕も、セレナに会うためにハンター登録はしておこうと思っている。

行く先々で働き口を探すもの難しい話だし、簡単な仕事もあるそうなので僕でもお土産代くらいは稼げると思う。

資格を手に入れてDランクになっておけば、身分証としても万能だというし。


「聞いてるかクルト?」


「ん?あーゴメン考え事してたよ。なに?」


「だから、俺たち明日あのハンター達に弟子入りしようと思ってんだけど。クルト、お前はどうするか聞いてたんだよ」


「弟子入り?」


「あぁ、こんな機会滅多にないだろうしな。いつまでいてくれるかも分かんねぇしよ、明日は少年部門も見てくれるらしいからちょうどいいと思ってよ」


 なるほど弟子入りか、確かに今のままじゃセレナに勝てる気はしないもんね。きっとこの1年で恐ろしいほど強くなってるだろうし。

弟子にしてくれるかどうかは別として、少しは修行でもつけてもらえるかもしれないし。


「うん、僕も明日一緒に行くよ!」


「よっしゃ、そうくると思ったぜ!」






***


「ダメだな」


「えーっと?え?」


 その言葉に僕は少し動揺している。


「だから、お前ら三人は稽古をつけてやる。でも、お前はダメだ。」


 いや、正直言ってかなり動揺している。初対面のこの人たちでもわかるくらい明らかな動揺だ。隠そうともできない。


「んじゃ、そういうことだから。今日のところは帰りな」


「いや、じゃあせめて理由だけでも教えてください!僕とキース達じゃ何が違うんですか!?」


 少し声を荒げながらも、今の状況を理解しようと思考は数瞬、過去へとさかのぼる。





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