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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第一章 旅立ち
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第04話 一つの約束


 あの会話の後、キースは「帰るぞ!」と言って二人と一緒に町の方へと帰っていった。


 何となくキース達の後ろ姿を見ていると、セレナが口を開いた。


「あははっ。まさに男の友情って感じだね。」


「……友情……かぁ」


「あれ?違うのかな?」


「んーどうなんだろうね?」


 正直なところ、自分でもいまいちわからない。

 ボクは確かに、キース達三人のことが嫌いだった。それは間違いない。

ずっといじめてきてて、身体中が痛くて心が苦しくて。

何度も「強くなりたい」って願って、いっぱい特訓して、やっぱり震えて勝てなくて。

あいつらにはいっぱい嫌な思いをさせられてきた。

……でも、今はそこまで嫌いじゃない気がする。

何しろ、いつも心にあった怒りがないような感じだ。

今日だって、ヘトヘトで身体のあちこちが痛いのは変わらないはずなのに。

すごく、気持ちはスッキリしている。

これはボクが決闘に勝ったからなのかな?


「やっぱりわかんないや。でも友達って感じでもないかなぁ」


 話しながらボクたちも歩き出す。


「……そっかー。じゃあきっとライバルだね!」


「ライバル?」


「そう!ライバル!お互いに意識し合って、技を高め合う存在のことだよ!」


「……ライバル……かぁ」


 あー英雄の本にもそんなのがあったなぁ。

キースとボクがライバルかぁ。

確かに一度は勝てたけど、また勝てるとは限らないし。

「次」とか言ってたから、また勝負するかもしれない。

……なるほど!そうやって、お互いに勝つために頑張るから強くなっていくってことか。


「セレナにもライバルっているの?いろんな人と会ってきたんでしょ?」


「私?うーん……お母さんに付いてきたのは2年前からだから結構会ってきたけど、同年代の子でそんな子はいなかったかなぁ」


「やっぱりそうなんだ!セレナすっごく強いもんね!」


 セレナは確か、ボクの2つ上だから12歳。

12歳で魔物を倒せるんだから、そんなセレナとライバルになれるような人はそうそういないってことか。

…………ん?


「いなかった?ってことは今はいるってこと?」


 ボクが聞くと、セレナはニヤッと笑いながらボクの顔を見てきた。


「へへー。そのとおり!何たって、私の特技を一回で防がれちゃったからねぇ」


 はぁー、すごいなその人。あのセレナの特技を防いだのか……。

どっかで聞いたような話だな。


「……あれ?」


「もう!とぼけちゃって……性格悪いよクルトくん。私今日初めて試合で負けたんだから!」


「いや、だからあれはまぐれだって何度もーー」


「まぐれでも防がれたのは事実だし。あ、そうだ!で、再戦は明日の朝でいいんだよね!」


 あっ、しまった。何とか話をうやむやにできたと思ってたのに!


「いやー、今日の疲れがひびいちゃうかもしれないしなぁ」


「えー、でも私明日にはこの町から出る予定だし。チャンスは明日しかないんだよ?」


そうか、そうだよな。セレナは明日、他の町に向かうんだよな。


「よし!じゃあこうしない?」


「なになにっ?」


「明日じゃなくてその次に会うとき、ちゃんと再戦しよう」


「次って、いつになるかわかんないよ?」


 それが問題なんだよね。セレナが次にこの町に来るのがいつかわからない。


「セレナはずっとお母さんと旅してるの?」


「いや、半年くらいだよ?もう半年は王都にある家で稽古してるの!」


「王都……ここからは乗合馬車で2月くらいだっけ?」


「そうだよ!でも、私とお母さんは強馬(ハイホース)を使ってるからまっすぐ向かえば1月半も掛からないはずだよ」


 片道2月……往復で4ヶ月か。当然その分お金もかかる。

確か、乗合馬車の値段は銀貨で50枚……お小遣いとして1ヶ月に大銅貨5枚。単純計算でも100ヶ月……8年か。

いや、8年後はもちろん、成人する17歳の頃にはお小遣いなんてもらわないけどね?

つまり、自分で何とか稼ぐしかないかな。ボクの歳ならいくつか仕事もあるはずだし。

まぁ1年や2年じゃ無理かな。


「……よし、5年後。ボクが15歳になったら、うんと修行して王都に行くよ!」


「王都に?クルトくんが?」


「うん!その時に再戦はどうかな?」


「……うーん。5年じゃちょっと長いかなぁ。うん、3年後にきてよ!」


 おぅ、まさかの却下。……いや、確かに5年は長いかな。セレナはその時17歳になっちゃうし。


「うーーん……お金貯めれるかなぁ」


「大丈夫だよ!男の子だし!クルトくん頭いいし!がんばって!」


 男の子は関係あるのかな?セレナは女の子でもボクより強いし。

まぁでも、セレナが大丈夫って言ってくれてるしやれるだけやってみるか!


「……ふぅ……わかった。やってみるよ」



 それからは他愛のない話をいくつかして、明日の昼、セレナの出立を町まで見送りに行くと約束してから帰った。



 明くる日の昼前、今日はセレナが他の町の道場に向かうので、ボクはその出立を見送るために町まで来ていた。

セレナは昼頃に町を出ると言っていたので、ボクは門の前で待つことにした。




「あれ?クルトくん!」


 正午までにはまだ時間があり、少し待とうと思っていたボクの背中にセレナが声をかけてきた。


「なんで門の前にいるの?みんな道場にいるよ?」


 セレナ曰く、どうやら今日はセレナの母親であるトレイア・リオンハルト一級師範が査定の結果を発表し、その後に出立する彼女とセレナに見送りの軽い宴会を開いていたそうだ。

そしてセレナはボクが道場にいなかったため、散策がてら探しにきてくれたらしい。


「いや、そんな宴会するなんて聞いてないし。」


「あー……そうなんだ。なんかごめんね?昨日の三人も来てたから、クルトくんも来てると思ったんだけど」


 どうやらキース達も来てたらしい。まぁ、そんな話をするような中でもなかったわけだし、仕方ないか。

気にするだけ損だ。


「まぁ、それはいいや。で、セレナはこれからどうするの?」


「うーん……まだ時間もあるし、ちょっと町の外でも散策しようかなーって。クルトくんはこのあたりで変わったものとか場所とか知らないの?」


「えー、変わったものとかあったかなぁー。セレナはどんなのが見たいの?」


「えっとー……珍しい果物とか、植物とかかなー。クルトくんが思いつくようなところを案内してよ!初めてあった時も木の実とか詳しかったでしょ?」


「んー……。じゃあとりあえず森の方へ行ってみる」


「良いね、行こう行こう!」


 そんなこんなで、少しだけセレナと近くの森や草原を散策して回った。

森では、セレナのいる王都では滅多に見られないような果物もあったそうでそれなりに楽しんでもらえたようだ。

草原では、再戦はしないと言ったけど、結局セレナに押し切られ軽い打ち合いなどをしてしまった。

そう、あくまでもセレナにとっての「軽い」なだけで、ボクの方は息が上がっていた。


「うーん!やっぱりちゃんと打ち合いになるのは楽しいね!」


 セレナはそう言うが、ボクができるのはあくまで防御だけであり。打ち込もうとするとやっぱり震えてしまって、まともな太刀筋にはならなかった。


「はぁはぁ……セレナはやっぱりすごいね。体力もだけど、技の引き出しが多いや」


「あはは!でも全部防がれちゃったけどね〜」


「……ふぅ。とか言って、まだボクが知らない技とかあるんでしょ?」


 ボクがそう聞くと、セレナはほんの少し驚いた顔をしてから笑った。


「……やっぱりすごいね、クルトくん。確かに一応まだ使ってない技がいくつかあるよ。なんでわかったの?」


「いや、そんな難しいことじゃないよ。ボクの道場で全部の技を教えられているわけじゃないし、幼少部門で全部を教えられてるわけじゃないだろうなぁって思ってさ」


「あはははっ、確かにそうだねっ。うん、私は一応少年クラスの技も教わってるよ」


「だったら、それを使えばーー」


「ダメだよっ。それじゃあ勝った気にならないもん!きっと楽しくも無くなるだろうしっ」


「そうなの?」


「うん、クルトくんが少年クラスの技を覚えてたら、使ったかもだけどね。大きな違いがあるんだよっ」


 セレナの話によると、どうやら幼少部門と少年部門では勝負にすらならないようだ。


「じゃあ、3年後に再戦するときはどうするの?」


「あっ、そっか……考えてなかったや。でもその頃にはクルトくんも少年クラスになってるはずだし、私も青年クラスにはなってないし。でも練度で言えば私の方が有利になっちゃうなぁ」


 本気で頭を捻らせているセレナを見て、やっぱり根っこが素直で真面目な人だなぁと思い少し笑ってしまった。


「あ!なんで笑うの!?私は真面目に再戦について悩んでるのに!」


「ははっ。いや、ごめんね。つい。……でも、再戦の時は手加減なんて要らないよ。お互い出し惜しみせずにね」


「いいの?……本気でやっても」


 そう言うセレナの瞳は試合の時と同じく、怜悧でこちらを見据えるようなものだった。

ボクはその瞳をしっかりと見つめ返し、そのこちらを試すような質問に答える。


「もちろん。セレナ……3年後。ボクはブルーウルフの時みたいに君に守られるんじゃなくて、君を守れるくらいに強くなってみせるんだからね!」


 ボクがカッコつけてそう言うと、セレナは数瞬きょとんとした顔をした後、さっきの仕返しかのように笑ってしまった。

そんなに変なことは言ってないはずなのに、笑われるとそれだけで少し恥ずかしくなってしまう。

さっきのセレナもきっとこんな気持ちだったのだろう。


「今笑うところじゃないと思うよ!」


「あはははっ。ごめんね、確かに笑うとこじゃないはずなんだけどね。まさか私がライバルって言った相手に、守るなんて言われると思ってなくてさっ。あははっ」


「もう!セレナは気にしてないかもしれないけど、ボクは君に助けてもらったんだから当然でしょ!」


 セレナはひとしきり笑うと、こちらを向いて口を開く。


「……うん!じゃあ3年後!再戦も楽しみにしてるけど、クルトくんが私を守ってくれるのも楽しみにしておくねっ!」


「調子いいなーまったく」


 そうして話していると、一つの人影がこちらに近づいてきた。

草原なのでとても見晴らしが良く、100メートルほど近くまで来ると、その人影が女性だとわかった。

女性はこちらにまっすぐ近づき、セレナに向かって話しかけてきた。


「セレナ、こんなところにいたのですね。まったく、あなたは目を話すとすぐにどこかへ行ってしまうのだから」


「あははー、ごめんなさいお母さん。初めて見るものが多くてつい」


「はぁ……そういうフラフラするところはお父さんに似なくてもいいのに。……ところでそちらの子は?」


 なんとなくわかっていたが、やはりこの女性はセレナの母親でありリオンハルト流剣術一級師範トレイア・リオンハルト、その人のようだ。

セレナは綺麗な赤髪赤目だけど、トレイアさんは金髪赤目であり、おっとりとした空気をまといながらもやはり達人なのだろうと思わせる雰囲気を持っていた。


「この子が昨日言ってたクルトくんだよ!お母さん!」


「あ、クルト・クールベルと言います。初めまして」


「あら、礼儀正しい子ね。君がクルト君ね。話はセレナから聞いているわ。なんでも、セレナの突きを止めたとか?」


「いえ、あれは本当にまぐれでして」


「ふふっ、まあ君がそう言うのならそうなんでしょうけど、まぐれでも勝ちは勝ちよ。もっと誇りなさいな」


 そんなトレイアさんの言葉は、スッと心の中に入ってくるような感じがして、少し怖いと思いながらも安心感を得られる不思議な感覚だった。


「は、はい!ありがとうございます!」


「ふふふっ。うん、今日はいい日だわ。セレナの成長も感じられたし、良い出会いもあったみたいだものね」


「お母さん、そう言えば宴会はもう良いの?」


「あらあら、宴会どころか見送りもしてもらったわよ?そろそろ正午の鐘がなる時間じゃないかしら」


 トレイアさんがそう言った直後に町の方から正午を知らせる鐘の音が聞こえてきた。

まだ時間的に余裕があると思っていたけど、思ったよりも会話が弾んで時間を忘れてしまっていたようだ。


「え!?もうそんな時間なんだ。それじゃあそろそろ行かなくちゃだね」


「もうお別れは済んだの?」


「大丈夫!じゃあクルトくん!さっきの約束、ちゃんと忘れないでね!」


「え?あ、あぁ……うん。」


「あははっ。なにその返事ぃ。締まらないよ?」


「いや、急に話を振るからびっくりしちゃっただけだよ!約束はちゃんと守るさ!」


「うん!楽しみにしてるよ!じゃあまたね!」


 そうしてセレナとトレイアさんを見送り、二人の影が見えなくなるまで手を振ってから帰った。



ーーこうしてボクの心に大きな変化を与えた、長いようで短い1週間は過ぎていった。

そして、月日は流れ行く。



***


1年後。クルト・クールベル、11歳。



この年、ボクはボクの人生を決める大きな冒険をする。





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