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クルト〜冒険の正体〜  作者: 氷原結
第一章 旅立ち
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第03話 変わる関係


 セレナの技を防いだことに呆然としているボクにセレナが声をかけてくる。


「すごいねクルトくん!正直言ってあの突きを止められるとは思わなかったよ!」


 セレナは、試合中の凛々しさはどこへ言ったのかと問いたくなるほどの明るい声でボクを賞賛してくれている。


「いや、今のはもうほとんどまぐれだと思うよ」


「まぐれぇ?うそだぁ。普通、まぐれじゃあんなことできないよ?」


「いやホントだよ。あの時ブルーウルフに攻撃してるのを見てなかったら絶対防げなかったと思うよ」


 実際あれを見てなければ確実に当たっていたと思うので、ボクは素直にそう答える。



「じゃあ次はまぐれで止められないようにしないとなぁ。ふふっ、頑張るよ!」


そう言って笑顔を向けてこれるセレナのことをボクは素直にすごいと思った。

自分の得意な技を格下であるはずのボクに防がれても、すぐにそれすら次に活かそうと考えるのはボクには真似できないなと思った。





***




稽古の時間が終わりみんなが帰り始めた頃、後ろから声が掛かる。


「おい、クルト!」


振り返ると、キースたち三人組が少し仏頂面で立っていた。

セレナに助けられて決めたんだ、ボクはもうこいつらから逃げるつもりはない。だからキースの顔を見据えて口を開く。


「何か用?今から帰るつもりなんだけど」


 ボクがそう答えると歯向かわれて気に障ったのか、キースは苛立ちを隠そうともせずに胸ぐらを掴んでくる。


「クルト、まぐれでセレナに勝ったからって調子付いてんじゃねぇよ」


「そうだぜ、自分でも言ってたがあんなのただの偶然だかんな?勘違いすんなよ?へっ」


「結局最後まで防戦一方だったしなぁ?」


 三人は思い思いの言葉でさっきの勝負のことを言ってくる。実際ボクもまぐれで勝ったのは嘘じゃないから否定はできない。


「そうだね、たしかにボクもあれはまぐれだと思う。でも、まぐれでもセレナの技を一度は防げたのは事実だよ」


「ちっ、だったら今から俺と決闘だ。」


「は?」


 ちょっと、どういう流れでそんな話になるのか理解できない。


「確かにお前はセレナに勝った、それは認めてやる。そんなセレナに俺たちは手も足も出なかったのもな。でも、セレナに勝ったお前をぶっ倒せばどうだ?今後も気持ちよく生活できるってもんだ。俺はセレナには勝てる気はしねぇがお前に負ける気は微塵もしないからなぁ」


 な、なるほど?確かになんとなく筋は通ってなくもないかな?

でも、その勝負を受ける筋合いはボクにはないはず。

とりあえずそのまま伝えてみよう。


「いや、ボクにその勝負を受ける筋合いはないよね?」


「なんだ?セレナに勝ったくせに、また逃げんのか?お?」


 ……ははっ、なんてわかりやすい挑発なんだろう。

ボクがそんなものに乗る必要は皆無だ。

答えなんて決まってる。




「……ボクはもう、誰からも逃げるつもりはない!その勝負、受けよう!」



…………こうして、今までのいじめられっ子クルト・クールベルにとっての分岐点となる決闘が始まる。






***





 いつも特訓と称して一方的にやられていた町の外の人の来ない草原の端。

ここはボクにとって正直あまりいい思い出のある場所ではない。

けれど、ここだからこそ意味があるんだと思う。

いつも逃げ腰で来ていたこの場所で、いつも逃げようとしていたキースを相手にボクは立ち向かうのだから。


「よぉ、準備はできてるか?」


 キースを前にして、ボクは木剣を握っている手が少し震えていることに気づいた。

そう簡単に克服できるわけがない、そんなことはいつだってわかっていた。

なんども立ち向かおうとはしていた、だけどどうしても手は勝手に震えてしまう。

でも今日は違う。ブルーウルフに襲われた時、ボクは一度死んだんだと思う。そしてセレナに助けられた時、新しく生まれることができた。

単なる思い込みかもしれないけれど、今はそれでいい。思い込みでキースに立ち向かえているんだから。


バシッ!


ボクは震える両手で木剣を握りしめ、面の部分で強く自分の頭を叩いた。


「……痛い」


「へへっ。どうした?ビビりすぎて自爆か?」


ペートの茶々が聞こえてきた。ムカつくが、気にせず両手を見る。


「ふぅ、止まった止まった」


「ハッ!おまじないは済んだかよ?」


 ボクはしっかりとキースを見据えて普段はあまり使わないような口調で答える。


「あぁ、準備万端だ!」


「……いい度胸だ!ジュドっ!」


5メートルほど離れたボクとキースの間に立つジュドが腕を前に出す。

あの腕が上がれば決闘が始まる。


「……始めっ!」



 開始の瞬間にボクはキースに攻撃を仕掛ける。

袈裟斬り、逆袈裟、水平、刺突。今までの三年間で学んだ技を乱発していく。

その全てはキースにうまく捌かれてしまう。


「なんだ?全然大したことない、ぞっ!」


そう言ってキースは攻撃に転じる。

キースの得意技である唐竹、つまりは正面からの面打ち。

それをボクは躱しきれず、木剣は肩に打ち付けられた。


「ぐぁっ!」


「おいおい、どうした?全然弱いじゃねぇか」


 すごく痛い。いつものいじめよりも痛いかもしれない。

なんでだ?セレナのはちゃんと防げたのに。


「もう降参か?」


 逃げる気は、ない!


「……ま、まだまだぁ!」


 ボクは立ち上がり、さらに攻撃を仕掛けていく。





ーーあれからもう何度も打ち合っている。それこそ、セレナとの試合以上に時間が経っていると思う。


「……はぁ……はぁ。おい、そろそろ負けを認めろやクルト!」


 ボクの方がダメージは大きいけど、キースが余裕というわけではない。

ボクが防ぎ続けているから、体力には結構きているみたいだ。

ボクだって今まで、伊達にいたぶられてきたわけじゃない。

今までのいじめで打たれ強さだけは備わっていたみたいだ、あんまり嬉しいことじゃあないけれど。

最初の一撃を受けてからキースの攻撃をまともには食らってない。

最初の一撃は勝ちに焦って自分から攻撃しようとしたから隙ができちゃったんだと思う。


 セレナとの勝負だって、攻撃を捨てたからこその勝ちだったんだ。

ボクは攻撃が苦手だから持久戦に持ち込むしかない。

キースは最初こそ侮ってきていたが、今は本気で向かってきている。

このままいけば体力の勝負でボクの勝ち……って言いたいところだけど、セレナとの試合の後なわけで。

こっちももうふらふらだ。


次の一撃で勝負を終わらせてしまいたい。

でもボクには攻撃するすべがない。

もしかしたら今のヘトヘトなキースになら当てられるかもしれないけど、外せば最初と同じで逆に攻撃を喰らい負けてしまう。


……もう一撃耐えられるほどの余裕は今のボクにはない。

だからこそ、賭けだ。

セレナとの勝負も一か八かの賭けに勝った。

だから今度も賭けよう。

正直綱渡りのようで怖いけど、賭けずに勝つほどの力はボクにはないんだから。


「負けなんて認めないさ。次で、今度こそボクが勝つ!」


「……ぁあ!生意気なんだよテメーはぁ!」


ーー来る!


ボクに攻撃の手段はない……けれども防御と攻撃を同時にする技はある!



バシィン!!!



……カウンターだ。

キースの得意技である唐竹に対して回転カウンターでの胴への一撃。

防御と攻撃を同時にできる便利な技。

口で言えば至極単純な技ではあるけれど、実際に当てるのは難しい。


散々見て食らってきた技だからこそ、ここまでうまく決まったわけだ。



カウンターを食らったキースは「ガッ」とうめき声をあげ、その場に倒れた。

もともと体力的に限界が近かった、その上で大きな攻撃を食らって限界が来たんだろう。


「……勝った」


 初めて、対人戦で、自分の力で、勝った。

セレナとの試合はなんども言うがまぐれだ、負けていてもおかしくはなかった。

それにあの後もセレナはピンピンしていたから、試合じゃなければ普通に負けていただろう。


 けれどこれは決闘で……相手は目の前で倒れている。

人生初勝利だ。それもあのキースを相手にだ。


「おい!キース大丈夫か!」


「……だめだ、伸びてる」


 ジュドとペートがキースに駆け寄り様子を見にいくとどうやらキースは気絶していたようだ。


「やったね。クルトくん!」


「!?」


 二人が騒いでる間、荒れている息を整えていると、後ろから声が聞こえた。

振り返ると、そこにはセレナの姿があった。


「セレナ見てたの?」


「うん。四人で歩いていくから何かするのかなぁと思ったらこんなところで試合するなんて思わなかったよー」


「ははっ、確かに結構人が通らないもんね、ここ。」


「そうみたいだねー。でも稽古の後に特訓なんてすごいね!」


「特訓というより、割と本気の試合だったんだけどね。今まで試合で勝ったことなんてなかったから、人生初白星だよ!」


 ボクがそういうと、セレナは少しばかりむすっとしていた。


「むっ……それって、私との勝負はカウントされてないってこと?」


「い、いや、そうじゃなくて……セレナとの勝負はやっぱりまぐれの部分が強いし、ちゃんと勝てたって気がしないから……さ?」


 セレナの顔が怖かったので少しだけどもっちゃったけど、ここでちゃんとボクの気持ちを説明しておかないと、喧嘩になっちゃいそうな気がする。

頑張れボク。


「……セレナだって、相手を倒せてないのに勝ちって言われてもピンとこないでしょ?」


「んー、まぁ確かに言いたいことはわかるけどねー。」


「でしょ!やっぱり勝負ははっきりと付いてないとスッキリしないじゃん?」


 ふぅ。なんとかなったかな?と内心でほっと息をついていると


「じゃあ、私との勝負もちゃんとつけなくちゃだね!」


 …………………あれ?やらかしちゃったかなこれは。


「えっと?ん?それって?」


「だから、ちゃんと決着をつけられるように再戦しよっか!クルトくんもその方がスッキリできるんじゃないかな?」


 え?全然良くないよ?ボクはただの勝負事で死にたくないもん。


「いや、でもさ?今日はもうヘトヘトだし。ちょっと無理かなー……なんて」


「んー、それじゃあ仕方ないかぁ」


 よっしゃ!セーフ!


「じゃ、明日の朝なんてどうかな?明日の昼には違う町に出発するってお母さんが言ってたし」


 はいアウトー。

なんとか話をそらさねば。


「えーっと、明日ーー」


「おい、クルト!」


「ん?」


 いつの間にか目を覚ましたキースがジュドとペートに肩を借りながらこちらを見ていた。

っていうか、ナイスタイミング!このまま話を逸らそう。

ボクがどう答えるかを考えていると、隣にいたセレナが「あっ!」と言ってボクとキースの間に立つ。


「な、なんだよセレナ……さん」


「あぶない危ない。忘れるところだったよー」


「ん?何を?」


 ボクがそう聞くと、セレナは咳をコホンッと一つしてボクの方の手を挙げた。


「……この勝負!勝者、クルト=クールベル!」


「…………。」


「…………。」


「…………。」



 えっ?どうすんのこの空気。急に審判みたいなことし出したけど、そもそも見物もいないから何の反応も返ってこないのは当然なわけで……。どうしよ、このままじゃセレナが滑ったみたいになっちゃう。……何か決めポーズでも考えておくんだった。

そんな風に思考がそれていると、キースがこの微妙な静寂を破ってくれた。


「……ちっ。……確かにこの勝負は俺の負けだ。でもな、クルト!次は俺が勝つ!覚えておけよ!」


「…………あぁ!わかった。でも次もボクが勝つつもりだから!」


「ケッ」




ーーこうして、ボクとキースのいじめっ子といじめられっ子の関係はほんの少しだけ変わった。

そして、この日から少ししてからボクは道場に通うのが苦痛じゃなくなったんだ。






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